2021年10月15日金曜日

血液ガスは静脈で良いのか?

 最近は血液ガスもとりあえず静脈血でと言うのが定着しているのでしょうか。私が勤める病院では静脈血の血液ガスが頻繁に採血されていて、私も良く行っています。


 今日は静脈血のデータはあてになるのか?についての考察です。

 先日経験した患者さんのデータです。

     静脈血    動脈血(1時間後の採血ですが)

pH    7.288     7.406

PCO2   61.7      39.4

PO2    25.2      85.3

HCO3   28.9      24.2

Lactate   2.89      1.20


 まず酸素はあてにならないと言うのは皆さんご存じでしょう。A-aDO2もあてにならないと言う意見がありますから、酸素をチェックしたいのであれば、SpO2で良いのかも知れませんね。

 UpToDate "Venous blood gases and other alternatives to arterial blood gases"(静脈血液ガスとその他動脈血液ガスの代わりになる指標)によれば、pHは0.02から0.04程度静脈血の方が低く、PCO2は静脈血の方が3-8 Torr程度高いとのことです。しかし、今回の症例の場合、採血時間が違いすぎるのですが、かなりデータが異なりますね。静脈血では呼吸性アシドーシスと診断されますが、動脈血はほぼ正常です。

 研修医の先生に、静脈血液ガスデータが悪いのですがと相談されて、患者さんは呼吸状態に問題はなく、まあ、次回こう言う人がいたら動脈で取り直した方がいいかもねと伝えたら、先生動脈血液ガスのデータは正常でした!と言われた(熱心な先生ですね)のでした。

 基本的には、静脈血では、pHとHCO3はわりとあてになるが、PCO2は評価できないと言われています。が、外国では通常の生化学でHCO3を測定している事に注意が必要です。日本の多くの施設でのHCO3は直接測定しているのではなく、pHとPCO2から計算して出されているので、日本ではHCO3もあてにならないかも知れません。

  こちらの資料も勉強になるので、是非ご覧ください。こちらの資料を参考に、どうすれば良いかを最後に書いておきます。


・静脈血液ガスのデータが正常であれば、たぶん動脈血も正常であり、採血し直さなくて良い。

・静脈血液ガスデータに異常があれば、動脈血を取り直した方が良い。

・患者さんの状態を先に判断して、血液ガスに異常がありそうであれば、動脈血採血を行った方が良い。


2021年10月14日木曜日

ALTが上がっても肝障害とは限らない

  ALTは私のような年寄りの医者にとっては、GPTと言ってもらった方がいいのですが、今はALTと言いますので覚えておきましょう。私も最近やっとGPTがASTだったかALTだったか直ぐ分かるようになりました(^^)。


 さて、ALTの上昇は肝臓に特異的だと言いますが、肝臓以外でもALTは上昇します。以下の雑誌のP.23に表があるのですが、gあたりのALTの量は、肝臓が最も多く44000単位、次いで腎臓が19000単位、心臓が7100単位、骨格筋が4800単位含まれています。腎臓や心臓が壊れてもALTが上昇しますが、これらの臓器の重量は軽く、ALTが上昇する程臓器が壊れたら生命維持が困難なぐらいですので、ALT上昇を認めた場合には、まず肝臓、そしてCK上昇があれば筋肉を疑います。


 また、筋肉ではCKの上昇分の200分の1ぐらいの割合でALTが上昇するようです(以下の雑誌のP.130)。


 ある横紋筋融解症の患者さんのデータを示します。

CK 89444(CK-MB 1919.3)    ALP 53

AST 1575             γGT 15

ALT 513              総ビリルビン 1.27

LD 1934


 CKの上昇が著明ですが、ASTもLDも、そして何よりALTが上がっているので肝障害があるのだろうと思いますよね。実際急性肝炎も合併していると思われるという紹介でした。

 CKが89400程度上昇したと考えると、89400÷200=447となり、ALTは447上昇すると思われます。多少の肝障害はあるかも知れませんが、この患者さんのALT上昇は筋肉由来と考えられました。

 また、CK上昇は心筋由来ではないのか?については、CK-MBは2.14%であり、絶対値としては上昇していますが、割合は低いです。純粋に心筋由来だとCK-MBは20%程度らしいです。そしてCKが2000以上になるほど心筋が障害されたら生存は難しいかも知れません。また、上記の臨床病理レビューの同じ130ページに、CK/AST>12は骨格筋由来のCKを疑うとあります。CK/AST=56.7より骨格筋由来を疑います。

 LD/ASTから考えると肝臓由来のLD上昇となるので、ここでは述べません(ずるい)。

 と言う事で、今日は骨格筋が激しく損傷するとALTも上がると言うことを勉強しました。


2021年10月3日日曜日

代謝性酸塩基平衡異常の解釈法:ABC-Gap法

  今日はこちらの論文の紹介です。著者の先生による新しい血液ガスの解釈法です。詳細は文献をお読み戴くのが良いですが、比較的長文で私には理解が出来ませんでした(当直明けで眠かったのもあるかも知れません)が、日本語ですので是非お読みください。呼吸性酸塩基平衡異常には適応しないと言うことです。


 以下手順です(Step2までは生理学的アプローチと同じです)。

 Step1 pHからアシデミアかアルカレミアか判定する。

 Step2 PCO2とHCO3から一次性障害が呼吸性か代謝性かを判定する。

(のですが、呼吸性の場合にはこの方法は使わない)

 Step3 ABC3つのギャップを計算し解釈する。

Anion gap:ΔAG=AG−12

Bicarbonate gap:BG=ΔAG−ΔHCO3=Na−CL−HCO3−12−(24−HCO3)=HCO3+ΔAG−24

 =補正HCO3−24=Na-CL-36

CO2 gap:CG=PCO2−予想PCO2=PCO2−HCO3−15

(HCO3が10−40の範囲にある場合にのみ適応)

 ΔAG>0 AG上昇型の代謝性アシドーシスがある。

 ΔAG<0 意義は不明。

 BG>0 代謝性アルカローシス

 BG<0 非AG上昇型の代謝性アシドーシス

 Step4 PCO2評価をする。

 CG>0なら呼吸性アシドーシス、CG<0なら呼吸性アルカローシスと診断。


 是非お試しください。

2021年10月2日土曜日

Base Exessを用いた血液ガスの解釈法

  昨日の続きです。BEを用いた血液ガスの解釈は比較的簡単であり、行っても良いかも知れません。私はマニアなので今日から、通常の生理学的アプローチとStewart法、そしてBEによる方法の3つで血液ガスを解釈することにしました。


 ちなみに、計算はStewart法が最も簡単です。Na-CLとSID(強イオン差、strong ion difference)=HCO3+2.8×Alb+0.6×P、SIDギャップ=Na-CL-SID、PCO2=HCO3+15の4つを計算するだけです。アルブミンとリンはそれぞれ低ければ代謝性アルカローシス、高ければ代謝性アシドーシスと診断できます。


 New England Journal of Medicineの2018年378巻、P.1419−1428の文献を参考にしました。以下は私の作った適当なやり方ですので、詳細は文献をご覧ください。


(1)pHが7.4より高いか低いかを見る

(2)PCO2とstandard BE(以下BE)により一次性変化を決める

 代謝性アシドーシス pH<7.4でBE<-2

 代謝性アルカローシス pH>7.4でBE>2

 呼吸性アシドーシス pH<7.4でPCO2>42

 呼吸性アルカローシス pH>7.4でPCO2<38

(3)代償性変化を予想する。以下を超えていたら代償ではない変化があると考える。

 代謝性アシドーシス ΔPCO2=BE

 代謝性アルカローシス ΔPCO2=0.6×BE

 呼吸性 急性 -2<BE<2

     慢性 BE=0.4×(PCO2−40)

(4)補正アニオンギャップを計算する。

 AG=Na−HCO3−CL+2.5×(4−Alb)

(5)AGが上昇していれば、以下を計算

a. Δ−Δを計算

ΔAG=AG−12

ΔHCO3=HCO3−24

Δ−Δ=ΔAG−ΔHCO3(乳酸アシドーシスの場合には0.6をかける)

Δ−Δ>5 AG非開大性代謝性アシドーシスあり

−5<Δ−Δ<5 AG開大性代謝性アシドーシスのみ

Δ−Δ<−5 代謝性アシドーシスあり

b. 浸透圧ギャップを計算

予想浸透圧=2×Na+血糖÷18+BUN÷2.8

浸透圧ギャップ=血清浸透圧−予想浸透圧

浸透圧ギャップが10以上あれば、薬物中毒などが疑われる。


(5)は面倒なのでやらないことにすれば、結構簡単です。予想式が3つしかありませんので覚えやすいと思います。

 ちなみにΔ−Δは批判も多いようで、ΔAG/ΔHCO3の方が良い(0.8以下はAG非上昇型代謝性アシドーシス、1.2以上は代謝性アルカローシス)という意見もあります。

2021年10月1日金曜日

ベースエクセスは有用か?

昨日の記事の続きです。こちらのガイドラインからです。


今回はBE(ベースエクセス)です。よく分からないのですが、重炭酸イオン濃度を見れば良いのでBEは必要ないという事なのでしょうか?確かに多くの書物にBEは出てきません。しかし、BEは低ければヤバい!と思えますので緊急時には有用だと思います。

NEJMにもBEを解説した文献があるようですので是非お読みください。


以下はガイドラインの原文と私の下手な日本語訳です。

 Is base deficit a better measurement than plasma bicarbonate in diagnosing metabolic acidosis? 

代謝性アシドーシスの診断において、塩基の不足(Base deficit)は重炭酸イオンよりも有用か?

R1.2—Measurement of base deficit should probably not be preferred to that of plasma bicarbonate in identifying patients at risk of metabolic acidosis (GRADE 2−, STRONG AGREEMENT).

代謝性アシドーシスのある患者を発見するのに、たぶん塩基の不足を測定すべきではない。

Rationale Clinical data are scarce and limited (observational, retrospective studies) [1214]. The two larg- est studies show that if the control group is of patients with a base excess (BE) of −5 mmol/L, corresponding to a base deficit of 5 mmol/L, plasma bicarbonate below 20 mmol/L is a good diagnostic indicator of metabolic acidosis [1314]. BE corresponds to the quantity of strong acid (or of strong base in the case of a metabolic acidosis) that should be added in vitro to 1 L of plasma to normalize the pH to 7.40, with a PaCOof 40 mmHg and a temperature of 37 °C. There are several methods of calculating BE, but they all use plasma bicarbonate as the main component. Standard base excess (SBE) calculated using the van Slyke equation* takes into account a hemoglobin concentration of 5 g/dL which is the theoretical hemoglobin concentration in the extracellular space of bicarbonate distribution. The van Slyke equation for SBE is the most used clinically, but is not used in comparative studies with plasma bicarbonate. As BE is always calculated from plasma bicarbonate, the correlation between plasma bicarbonate and BE (and hence base deficit) is very strong.

理由 臨床データは不十分で限定的である(観察研究や後ろ向き研究)。2つの大規模試験は、ベースエクセス(BE)が-5mmol/L(塩基の不足が5mmol/Lに相当)の患者をコントロール群とした場合、血清重炭酸イオン濃度が20mmol/Lより少ない事が、代謝性アシドーシスの良い指標であると報告している。BEは、検体が37度、PaCO2が40mmHgの場合、pHを7.40に戻すために1リットルの血漿に追加すべき強酸(または代謝性アシドーシスの場合には強塩基)の量を示す。BEを計算する方法はいくつかあるが、どの方法も血漿重炭酸濃度を主な要素としている。van Slyke式を用いて計算された標準ベースエクセス(SBE)は、重炭酸が体内で分布する細胞外液のヘモグロビン濃度である5g/dLを用いる。このvan Slyke式は臨床で最もよく使われている式であるが、血漿重炭酸イオン濃度との比較試験では用いられていない。BEは常に血漿重炭酸イオン濃度から計算されるので、血漿重炭酸イオン濃度とBE(つまり塩基の不足)の関連は非常に強い。

* Van Slyke equation: 

Base excess=(HCO–24.4)+(2.3×Hb+7.7)×(pH −7.4)×(1−0.023×Hb), with Hb in g/dL.

2021年9月30日木曜日

アニオンギャップはアルブミンで補正すべきか?

 アシドーシスについて調べていたら、フランスのガイドラインを見つけました。興味深い記載が多かったので少しずつ紹介させて頂きます。原文はこちらのガイドラインをご覧ください。


 今回はアニオンギャップをアルブミンで補正すべきか?についてです。以下は原文です。


In case of metabolic acidosis, is the plasma anion gap corrected for albumin better than the uncorrected plasma anion gap in differentiating acid excess from base deficit? 

 代謝性アシドーシスでは、酸の増加と塩基の欠乏を区別するために、アニオンギャップをアルブミンで補正する方が良いのか?

R1.3—The anion gap corrected for albumin should probably be used rather than the uncorrected anion gap to differentiate acidosis related to acid load from acidosis related to base deficit (GRADE 2+, STRONG AGREEMENT).

 酸の増加と塩基の欠乏を区別するために、アニオンギャップをアルブミンで補正することはたぶん有用である。

Rationale Although most clinical data are prospective, they are scarce and observational. Comparisons between the corrected anion gap* (cAG) and the uncorrected anion gap** (AG) show either no difference [1516] or superiority of cAG [1719]. Most authors consider that the pathological threshold is cAG or AG>12 mmol/L. The physiological AG is mainly composed of phosphate and albuminate (weak anion from blood albumin). Consequently, hypoalbuminemia leads to a decrease in plasma albuminate and so to a decrease in AG. Hence, a normal AG associated with hypoalbuminemia corresponds to the presence of plasma acids, which replace albuminate to normalize AG. Taking the albumin level into account in the calculation of AG unmasks plasma acids when there is hypoalbuminemia. So, cAG is greater than AG, particularly in a population of patients with a high risk of hypoalbuminemia, as is the case for patients in intensive care or patients with malnutrition, hepatopathy, chronic inflammation, or urinary loss of albumin.

根拠 ほとんどの臨床データは前向き研究であるが、エビデンスが十分ではなく、観察研究である。補正アニオンギャップ(cAG)と補正していないアニオンギャップ(AG)の比較では、有意差や有用性は認められなかった。多くの研究者はcAGやAGが12mmol/Lを越えると病的だと考えている。AGの上昇は主にリン酸イオンとアルブミンイオン(アルブミンは血液中では弱い陰イオンである)で形成されている。低アルブミン血症があると血清アルブミンイオンが低下し、AGも低下する。よって、低アルブミン血症がある場合の正常AGは、酸の存在を示す。つまり、酸の増加によるAGの上昇があっても、低アルブミン血症によってAGが正常化する。AGの計算時にアルブミン濃度を考慮する事は、低アルブミン血症時における血清酸濃度を明らかにする。よって、低アルブミン血症のある患者さんでは特に、cAGはAGよりも高い。同様に集中治療室の患者や栄養不良の患者、肝障害、慢性炎症、尿中へのアルブミン喪失などの病態でもAGが低下する。

* cAG=AG+(40−[albuminemia])×0.25, with albuminemia in g/L.

** AG=Na+−(Cl+HCO3)=12±4 mmol/L (or AG =(Na++K+)−(Cl+HCO3)=16±4 mmol/L).


 このガイドラインの文章はよく分からないところもあります(私の英語の独か威力の問題が一番大きいと思いますが)が、補正アニオンギャップを計算しても有用だというエビデンスはないというのはビックリでした。しかし、計算するだけですので、是非やりましょう。日本と外国ではアルブミンの単位が違う(日本はg/dL)ので、補正式の係数は0.25ではなく、2.5です。


 どちらにしても、アルブミンは全体として陰イオンであると言うことは覚えておきましょう。


 それから、日本語は区別されていなかったりしてややこしいのですが、ここで出てくるphosphateはリン酸イオン(PO43-)で、リン酸phosphoric acidとは厳密には区別しなければなりません。アルブミンもalbminではなく、albuminateとなっていることに注意です。


2021年9月10日金曜日

ASTとALTの関係

  ASTとALTはほぼ毎日測定される検査だと思います。私のような年寄りにとってはGOT、GPTの方がなじみがあります。最近やっとGOTはAST、GPTはALTだとすらすら言えるようになりました。


 さて、私が学生の時に、大学の病院実習で内科研修医の先生が、「私はGPT>GOTだったら正常範囲内だったとしても肝炎などを疑っています。過剰診療かも知れないけど。」と言っていたのを覚えています。そんなものかなあ?位にしか思っていませんでしたが、超優秀な先輩だったんだなと思います。以下に理由を述べます。


 ASTもALTも全身の細胞に多く含まれる酵素です。しかし、破壊される細胞の量などから、一般的には肝臓、筋肉、血液などの破壊を疑います。そして、ほぼ全ての細胞でASTの方が圧倒的に多く含まれています。よって細胞が破壊された、あるいは大量に破壊され続けている場合には、AST>ALTとなります。異常がない場合にもAST>ALTです。

 ASTの半減期は半日程度、ALTは2日程度とALTの方が半減期が長いそうです。よって、細胞破壊が終わった、あるいは破壊が軽度になった場合は、AST<ALTとなります。門脈、胆管周囲(門脈と胆管はほぼ同じ所を走行しています)の肝細胞にはALTが多く含まれているそうで、それらを破壊する病気(慢性肝炎、胆道疾患)では急性期でもALTが多くなります。


 さあ、今日から肝機能を見る時は、ああ、AST>ALTになっているなと思ってみましょう。もし、AST<ALTだったらあれ?と思えるように!