2021年5月6日木曜日

パルスオキシメーターを使う時にマニキュアは気にしなくて良いです。

  国家試験では、マニキュアはSpO2に影響する因子として有名なのだそうです。私が医師国家試験を受けた時に、パルスオキシメーターの問題があったかどうか、全く記憶にありません(MRIは私の学年まで出題されていなかったのは覚えています)が、看護師さんの国家試験でも出題されているようです。


 しかし、特に急変時にマニキュアをしているからと言って、それを取り除かないとパルスオキシメーターをつけられないというのでは、色々困ります。それを調べた研究がいくつかあり、結論から言えば、マニキュアは気にしなくて良いと言うことです。昔の器械は気にしなければならなかったのかも知れませんが、今の器械は大丈夫です。


 以下の論文を参考にして図を作りました。と言うか、色をつけただけですが。


 どの色でも、ほとんどマニキュアなしと差はありません。よって、緊急時は特にマニキュアを塗った人でも指で測定できます。もちろんですが、別の方法が直ぐ出来る(あるいはマニキュアを直ぐ取り除ける)のであれば、そうした方が良いでしょう。


 こちらのブログでも同じ事を書いています。少し変えてますが。

2021年4月21日水曜日

乳酸とAnion Gapの関係

 乳酸アシドーシスの時、乳酸が上昇した分だけAnion Gap(アニオンギャップ;以下AG)が上がりそうですが、実際はそうではありません。AGの上昇は、乳酸上昇(mmol/L)×0.6ぐらいだそうです(他にも色々式があるようですが)。今回はAGの上昇と乳酸値が同じぐらいの患者さんが来られました。AGの上昇と乳酸値の上昇は関連がない場合もあり、乳酸値は必ず測定すべきだそうです。普通測定するやろと思いますが、私の前の職場では測定できていたのに検査データとして報告がされていませんでした。私は測れないんだと思っていました。何てこった!

 ショック状態の90歳女性が運ばれてきました。血液ガスは以下の通りでした。

pH 7.073

PCO2 19.3 torr(呼吸数40/分)

PO2 210.7 torr(リザーバーマスクで酸素6L/分投与)

HCO3 5.5 mmol/L

BE -22.8 mmol/L

Na 140 mmol/L

K 4.5 mmol/L

CL 106 mmol/L

Lac 16.37 mmol/L


 まず酸素化能を評価します。リザーバーマスクで6L/分投与でしたので、だいたいFIO2は0.6です。A-aDO2は193 torrで上昇(正常値は色々提唱されていますが、年齢×0.3以下というのを私は使っています)しており、酸素化能障害があります。この方は心不全でした。ご家族は人工呼吸管理を希望されませんでしたので、気管挿管をせずに管理しました。残念ながら入院後直ぐに亡くなりました。


 次に酸塩基平衡ですが、私は最初にNa-CLを計算しております。この方は140−106=34で正常(正常は30−40です)ですが、Anion Gap上昇型の代謝性アシドーシスの存在は否定できません。また複数の異常が存在する可能性もあります。

 田中竜馬先生の本の読み方に従えば、STEP1としてまずpHを見ます。pHは7.35より低く、アシデミアがあります。

 次にSTEP2で呼吸性か代謝性かを判断します。PCO2が低いため(低ければアルカローシスになりますから)、アシデミアの原因は代謝であり、HCO3は5.5 mmol/Lと著明に低下(正常値は24前後)しています。代謝性アシドーシスがあります。

 次のSTEP3では代償が適切かを見ます。代謝性アシドーシスではHCO3が1mmol/L低下する毎に、PCO2が1.2torr程度低下します。HCO3は5.5mmol/Lと正常値の24mmol/Lから18.5mmol/L低下していますので、PCO2は18.5×1.2torr低下します。よってPCO2は17.8torr(40−18.5×1.2)ぐらいになるはずで、測定値は19.3torrですので良い感じですね。呼吸性代償が適切にされていると思われます。ちなみに呼吸数は40回/分でした。適切な呼吸性代償ではありますが、呼吸が早すぎますので、いずれ呼吸筋疲労がきてしまいますよね。やはり人工呼吸が必要でした。

 STEP4ではAGを計算してみます。Na-CL-HCO3=28.5mmol/Lで正常値の12mmol/Lより16.5もmmol/L上昇しています。この方は何故かアルブミンが測定されていませんでしたが、1週間ほど前の採血があり、その際は3g/dLでした。クレアチニンやBUNが1週間前より上昇しており、軽度血液濃縮があったとしてアルブミンが3.5g/dL程度になっていたと考えると、補正AGはAG+(4−3.5)×2.5=29.75mmol/Lとなります。

 ΔAG=AG−12を計算すると、17.75mmol/Lとなり、補正HCO3=HCO3+ΔAG=22.25mmol/Lとなりますので代謝性アルカローシスはなさそうです。


 まとめるとこの方は

酸素化能障害

AG上昇型代謝性アシドーシス(乳酸高値)

呼吸性代償

があると思われます。この方は乳酸の上昇とAGの上昇がほぼ一致していました。乳酸高値の原因は著明な心不全による心源性ショックで、全身の代謝が上手くいっていなかったからでしょう。

2021年4月19日月曜日

吸気の二酸化炭素が増えたら肺胞気式は使えない(たぶん)

  最近消火のための二酸化炭素が放出される設備が誤作動して作業員の方が亡くなるという事故が起こっています。亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。


 ニュースでは低酸素のために亡くなったと書かれています。20%のガスが二酸化炭素に置き換わったとのことです。たぶん、急激な低酸素ではなく、血液中の二酸化炭素分圧(PaCO2)が上昇し、意識レベルが低下し、呼吸が止まってしまい低酸素になったのでしょう。


 20%のガスが二酸化炭素になった場合、残り80%の20%が酸素です。よって吸入酸素濃度は16%です。PAO2を計算すると、PIO2=(760−47)×0.16で114、PaO2=PIO2−PaCO2÷0.8となりますので、(PaCO2は取りあえず40torrとして計算)PAO2=64程度となります。20%のガスが二酸化炭素に置き換わったとしても、それだけでは死亡するほどの低酸素にはならないことが分かります。例えば、高いところを飛んでいる飛行機の機内の気圧は地上の0.8倍程度になっており、PAO2はほぼ同じ位になっています。が、飛行機に乗っただけで死亡する人はいません。


 さて、PaCO2÷0.8と言う数字はどう言う意味か覚えていますか?前回の記事でご紹介しましたが、消費される酸素の量が測定できないので、二酸化炭素から予想するのでした。二酸化炭素が8出てきたら、酸素は10使われていると予想されるのです。しかし、これは空気中の二酸化炭素がほぼゼロ(PICO2=0)と言う場合の式でした。


 ここまで書いておいてなんですが、じゃあPICO2が0.2になった時、どうやってPAO2を計算したら良いのか(肺胞気二酸化炭素分圧からは計算できないと思われます)については今のところ分かりませんでした。どなたか分かる方がおられたら教えてください。PaCO2が142torr程度まで(713×0.2)あるいは+40で180torr程度まで上がるのでしょうか?そしてなおさら肺胞気式は使えませんね。

2021年4月17日土曜日

血液ガスの検体を冷やすのは辞めた方が良い?

  以前の記事で、採血後に検査まで時間がかかる場合には、検体を冷やした方が良いと書いたのですが、知りませんでした。冷やしてはいけないと書いているサイトがあります。だから早く検査をするしかないです。あるいはガラスの注射器(あるのか?)で採血するとか。


 冷やしてはいけない理由は、こちらの業者さんのリンクに書かれています。

 簡単に説明すると以下の通り。

・プラスチックの注射器は空気を通します。

・温度が下がるとヘモグロビン(Hb)の酸素解離曲線は左に移動します。つまりHbが酸素と結合しやすくなります。

・検体を冷やすと血液の液体中の酸素はHbにくっついて量が減ります。

・空気のPO2は160torr前後です(760×0.21=159.6)。これは通常のPaO2より高いです。

・よって、シリンジのプラスチックを酸素が通り抜けて血液の液体中に移動します。

・検査をしようと検体の温度を上げる(通常37度で測定します)とHbの酸素解離曲線は右に移動します。つまりHbが酸素を放出します。

・すると血液の液体中の酸素の量が増えます。気体の状態方程式(PV=nRT)から考えると、気体の分子の数nが増えると他が同じであれば、圧力Pは増えます。

・よって患者さんの体内のPaO2より高い値を示してしまう可能性があると言うことです。


 白血病などで白血球が異常に増えている場合には、冷やしても良いですが、PaO2の評価は難しいようです。SpO2等で代用するしかないですね。まあ、どれほど違いが出るのか分かりませんが、本来は60なのに100を示すというようなことはないでしょうから、気にしなくても良いのかも知れません。


 天下のUpToDateには冷やすべきだと書かれています。Arterial Blood gasesと言う文献です。

 Gas diffusion through the plastic syringe and consumption of oxygen by leukocytes is a potential source of error that results in a falsely low PaO2 when the sample is left for prolonged periods at room temperature. However, the clinical significance of this error is minimal if the sample is placed on ice and analyzed within 15 minutes [17-20]. While using a glass syringe will prevent gas diffusion, this solution is impractical.

 プラスチックの注射器のガスの拡散や白血球による酸素の消費は測定エラーの原因となり得る。室温に長時間放置された検体では低いPO2を示してしまう。しかし、検体を氷で冷やして採血から15分以内に検査をすれば、この測定エラーは臨床的に無視できるほど小さい。ガラスの注射器を使えば、ガスの拡散は予防できるが、実践的ではない。


 どうしたら良いか迷ってしまいますが、早く検査するしかないってことですね。 

2021年4月16日金曜日

PAO2を計算する時、PACO2を何故呼吸商で割るのか?

  A-aDO2(=PAO2-PaO2)を計算する時に、PACO2(ほぼPaCO2と同じ)を呼吸商Rで割るのですが、何故か分かりますか???今まで疑問に感じたことはありませんでしたが、田中竜馬先生の本に書かれていました。以下の本のP.14-18ぐらいです。是非お読みください。

 それだけでは良くないので、解説させて頂きます。
 肺胞内の酸素分圧(PAO2と表します)は直接測定することが困難です。肺胞は非常に小さい袋ですので、そんなところからガスをとることも難しいでしょう。
 よって肺胞気式というご存じの以下の式が出てきます。

PAO2=(大気圧−47)×FIO2ーPaCO2÷R

 大気圧は通常760torrです(海抜0mで)。10m高くなる毎に0.75torr程度ずつ下がります。例えば松本市は海抜600mぐらいだそうなので、60×0.75=45torr程度下がりますので、715を入れます。ご自分の職場の標高を確認しておきましょう。

 47は37度における飽和水蒸気圧です。肺に入ってきたガスは水分で飽和されますので酸素などが占める場所が少し少なくなります。
 FIO2は20%ですなどと言う場合がありますが、正確には0.2ですと言います。
 PaCO2は本来PACO2ですが、測定するのは難しいですし、ほぼPaCO2=PACO2なので問題ありません。

 式の前半は換気によって肺胞に入ってきたガス中の酸素の分圧です。後半は使われた酸素の分圧を示します。一般的な活動をしている場合には酸素と二酸化炭素は10:8の割合で交換されているそうです。よって二酸化炭素が8分子合ったとすれば、10分子使われているため入ってきたガス中の酸素分圧から引いた残りがPAO2になるということです。

 分かったような分からないような、もっと詳しく知りたい!と言う方はこちらの論文のP.53をご覧ください。私はなるほどとは思いましたが、自分で書いてみろと言われても書ける自信がありません(^^)。

2020年12月9日水曜日

動脈血を採血したのだが静脈血になってしまった。取り直すべきか?

  超久しぶりの投稿になってしまいました。すみません。


 先日カンファレンスで、出血性ショック(代償性)の患者さんの血液ガス分析を行ったところ、誤って大腿静脈を刺して静脈血となってしまい、乳酸値が2を超えていたのですが、静脈血なので評価できないと考えましたと言う発言をしている先生がいました。


 冷や汗もかいていて、別の先生が認識が甘いやろ!と突っ込んでいました。静脈血の乳酸値でも、2を超えていたら高いと考えて行動すべきだと私は思いますし、動脈で採血し直すべきだろと思いましたが、嫌がられると思って黙っていました。


 例えば、こちらのサイトには静脈血の乳酸値から動脈血の乳酸値を予想する式が載っていました。

Arterial lactate (mmol/L) = –0.259 + venous lactate (mmol/L) × 0.996

 計算すると、静脈血乳酸値が2.26以上であれば動脈血乳酸値が2以上になります。救急外来ではオーバートリアージが原則ですので、静脈血でも乳酸値が高ければ、乳酸アシドーシスになっていると考えて行動しましょう。


 私はその場合は大量輸液とビタミンB1投与をしています。脚気心というのを一度も診たことはありませんが、簡単な治療で治る物は治したいですよね。

2020年7月31日金曜日

メトヘモグロビン血症ではSpO2が85%以下にはなりにくいです。

 メトヘモグロビン血症を診たことはありません。皆さんはありますか?

 メトヘモグロビンは、ヘモグロビンの酸素結合部位である鉄分子が2価ではなく、3価になってしまったもので、通常でも2%程度ぐらいまでは存在していますが、これが増えてしまうと酸素が結合できないヘモグロビンが増えてSaO2が低下して低酸素状態となり、問題が起こるという訳です。

 局所麻酔薬やニトログリセリン等でも起こるようなので、意外にメトヘモグロビン血症は発生しているようです。重大にならなければ症状もないようなので見逃されているかもしれません。通常のパルスオキシメーターでも検出できないそうです。

 さて、こちらの論文によれば、メトヘモグロビンが増えると、SpO2は85%に近づいていくようです。

 簡単に理屈を説明します。

 パルスオキシメーターは赤色光Rと赤外光IRを出して、その光がどのぐらい吸収されたかを測っているそうです。SO2は赤色光Rと赤外光IRの吸光度の比と反比例するとのことで、比が1の時SO2は85%なのだそうです。

 メトヘモグロビンは、パルスオキシメーターが使っている二種類の光の吸光度が同じだそうです。もしメトヘモグロビンが増えた場合、R/IRがどうなるか考えます。メトヘモグロビンが増えると、吸光度は赤色光ではR+M、赤外光IRではIR+Mとなります。

 R/IR-(R+M)/(IR+M)を計算し、これが0以上ならSpO2は上昇しますし、0以下ならSpO2は低下します。

 R/IR−(R+M)/(IR+M)=M(R-IR)/IR(IR+M)となり、MとIR+Mは0以上なので、R/IR<1なら、つまりSpO2が85%を超えていれば、メトヘモグロビンが増えるとSpO2は低下、R/IR>1なら、つまりSpO2が85未満なら、SpO2は上昇すると考えられます。

 もともとのSpO2が85%未満ということはあまりないでしょうから、通常はメトヘモグロビンが増えればSpO2が85%に向かって低下します。そして、どんなにメトヘモグロビンが増えてSaO2が低下しても、SpO2は85%より下がらないと言うことです。

 現在はメトヘモグロビンや一酸化炭素による影響を検出して、ちゃんとSaO2が測定できるパルスオキシメーターが発売されていますので、それを救急外来に常備しておくのが良いと思います(院長先生買ってください!)。