2020年5月29日金曜日

HCO3は計算値です

 以前も書きましたが、血液ガス分析のデータの中には実際に測定していないものがあります。小数点以下の数値まで出ているから正確な気がしますが、実はそうではありません。

 pH、PCO2、PO2は実際に測定していますが、HCO3やBEは計算値です。測定値にある程度誤差がありますから、当然計算値にも誤差が出ます。

pH=6.1+log([HCO3]/0.03×[PCO2])

 と言う関係がありますので、pHとPCO2が測定できれば、以下のような計算で算出できます。

[HCO3]=0.03×[PCO2]×10^(pH-6.1)

 pHが7.4だった場合、PCO2が40だったとすると、HCO3は23.94となります。色々調べたところ、PCO2は±2ぐらい誤差が出る可能性があるようです。PCO2が42でpHが7.4だとHCO3は25.14となります。PCO2が38だとHCO3は22.75となり、HCO3は2.39の幅を持った範囲になります。pHの誤差も出ると考えるともう少し幅が広くなるのでしょうか。

 よって、HCO3が5以上上がったり下がったりしているなどがなければ、誤差の範囲と考えて経過観察するのも良いかもしれません。

 例えば、こちらの論文では、二つの器械を使って計算したところ、一つの器械ではアルカローシスと診断されたのに、もう一つの器械ではアシドーシスと診断された例があると書かれています。知りませんでしたが、器械によってHCO3算出の計算方法や、係数が違っているのだそうです。

 そう言うのは大変困りますが、検査データはある幅を持った値であることを忘れないようにしたいですね。

 患者さんの状態なども考慮して、総合的に判断しなければなりません。データに惑わされないようにしましょう。

2020年5月28日木曜日

シスに注意

 シスと言えばStar Warsでは悪い人たちのことですね。血液ガスを学ぶ時にもシスが出てきます。暗黒面に落ちないように用語をしっかり勉強しておきましょう。

 アシドーシス(acidosis)とアシデミア(acidemia)の違いを説明できますか?出来る方は、この記事を読む必要はありませんが、きっとこのブログにたどり着いた方は読む必要があるでしょうね。

 まずacidは酸、alkaliは塩基(アルカリ)という意味です。emiaは何とか血症という意味で、例えば菌血症はbacteremiaと言います。osisとは状態の変化を表したり病気の名前についたりする言葉だそうです。

 アシデミア acidemia pHが7.35以下
 アルカレミア alkalemia pHが7.45以上
 アシドーシス acidosis pHを下げようとする病態
 アルカローシス alkalosis pHを上げようとする病態

 血液ガスデータを見て、「pHが7.3だね。アシドーシスだ!」と言うのはどうでしょう?
 pHを見て言えるのは、emiaです。正確には「pHが7.3だね。アシデミアだ!」と言うべきです。pHが7.3の場合、アシドーシスがなければ、pHは下がりませんので、アシドーシスがあるのは間違いないので、アシドーシスと言っても間違いではありませんが。

 アシドーシスやアルカローシスがあるかは、色々解釈しなければ分かりません。PCO2が50と高値であれば、通常は呼吸性アシドーシスですが、代謝性アルカローシスがあれば、呼吸性アルカローシスかもしれません。アシデミアがある時に、アルカローシスもあるかもしれません。

 用語はきちんと使った方がもちろんいいので、気をつけて使うようにしましょう。しかし、実際の現場では、大きな不利益はありませんね。

2020年5月27日水曜日

血液ガス分析がなくても解釈出来ます

 救急やカンファンレンスなどでよくある話ですが、こう言う患者さんにこう言った検査をして、、、、、、とプレゼンすると、「これは○○に決まってるでしょ。何で△□検査してないの!?」と言われることがあります。

 後出しじゃんけんは良くないですね。血液ガス分析では、血液ガス分析がないと解釈が出来ないかというと、そうではないのです!!これからは、何で血液ガスとってないの??と言う前に以下(こちらのサイトに書かれています)を読んで、「NaとCL、Alb値からHCO3を予測すると、30と高値を示しているから、この人は代謝性アルカローシスがあるかも知れないね」などと言うと尊敬されると思います、、、、、、知らんけど。

 詳しい説明はサイトを読んでいただくとして、以下のように計算します。なんとAnion Gapを計算する時のHCO3の代わりにAlb×2.5を入れるだけです。

予想HCO3=Na−CL−2.5×Alb

 ちなみに、欧米では血液生化学検査の一つにHCO3があるのだそうです。日本でも普及すると良いですね。

2020年5月9日土曜日

AGとは?その2

 AGについてもう少し追求してみましょう。

 まず、先日の記事にも書きましたが、アルブミンは酸ですし、AGはアルブミンが正常であるとして計算されるそうですので、アルブミンが低い(高いことはあまりありませんね)時は補正をします。

補正AG=AG+2.5×(正常アルブミン値−Alb) 正常アルブミン値は私は4としています。

 他にも例えば造影剤を投与した直後に血液ガス分析を行うとAGが低くなることがあるようです。造影剤がCL値を高くする可能性があるようで、AG=Na−(HCO3+CL)ですから、CLが高くなればAGは低下します。

 そもそも、この式はどうやって出てきたかというと、人間の身体は電気的に中性であり、陽イオンと陰イオンの和は等しいそうです。よって以下の式が作れます。

Na+UC=HCO3+CL+UA 

 UCはunmeasured cation、測定できない陽イオン、UAはunmeasured anion、測定できない陰イオンです。UCにはカリウムやマグネシウム、UAにはアルブミンやリンなども含まれますので、正確に言えば測定できるイオンも含んでいます。

 酸の定義は、Hイオンを放出する物ですので、液体中では酸は陰イオンとなります。陰イオンが増えたらアシドーシスと言うことです。よって上記の式を変形します。

Na−(HCO3+CL)=UA−UC=AG

 と考えると言うことです。酸が増えるとHイオンを放出してUAが増えます。よってAGが増加すると言うことです。アルブミンはUAに含まれていますので、低アルブミン血症ではAGが低下します。

と言うことで、内科学会雑誌(109巻2号P.260)の問題をどうぞ。

問題 アニオンギャップ(anion gap:AG)が10未満にならないものはどれか。1つ選べ。
(a)多発性骨髄腫
(b)ネフローゼ症候群
(c)高Ca血症
(d)高K血症
(e)尿細管性アシドーシス

カルシウムやカリウムはUCに含まれますので、高くなればAGが低くなることが分かりますので、(c)と(d)が×なのは直ぐ分かりますね。
(a)の多発性骨髄腫はIgGが増える病気です。IgGはUCになるそうですので、AGが低くなることがあります。しかし、UAになることもあるそうです。さすが内科学会雑誌です。
(b)ネフローゼ症候群では低アルブミン血症を認めます。朝倉内科学11版によれば、ネフローゼ症候群と診断するには、尿蛋白3.5g/日以上と低アルブミン(3g/dL以下)の両所見を認めることが必須とのことです。よって、アルブミンが低く、UAが低下しますので、AGが10未満になることもあるでしょう。
(e)はよく分からないのですが、答えは(e)だそうです。内科学会雑誌の解説によれば、「尿細管性アシドーシスはAG正常代謝性アシドーシスを呈する代表的疾患であり、AGが極端に低下することはない」とのことです。

 内科専門医になろうとする人以外は、(c)(d)が×だと言うことだけ分かれば良いのではないでしょうか。ちなみに、私はこの問題を解いた時、答えは正解しましたが、理屈が分かりませんでした。よって、この記事を書くため勉強しました。

2020年5月8日金曜日

AG(アニオンギャップ)とは?

 アニオンギャップとかAG(anion gap)という言葉が出てきます。血液ガスを測定したら自動的に計算されているはずですので、必ずチェックしましょう。また、血液ガス分析で測定された電解質で計算したAGは低めに出る(こちらの記事参照)とされていますので、自分で生化学検査も用いて計算してみましょう。

 さて、アニオンギャップって一体何なんだ?と思いますよね。なんで、そんなものを計算しなければならないのだ!と。しかし、とても重要なのです。これは一言で言えば、AGが上昇していれば酸が増えている、つまり酸が増えたために起こる代謝性アシドーシスがあると言うことです。酸が増えない代わりに重炭酸が減る代謝性アシドーシスもあります。

 臨床で大切なのは循環障害や低酸素、代謝障害などで乳酸などの酸が増えた場合です。今は乳酸値が測定できる(と言うか測定できない血液ガスの器械は、クリープを入れないコーヒーのような物、、、、、古い!)のであまり必要ないかもしれませんが、乳酸以外にも酸はありますので、是非計算したいです。

 pHが高くても、AGが高ければ代謝性アシドーシスもあるということが分かります。逆に言えば、よく分からなかったら、AGだけ見て治療すれば良いです(他の事は血液ガスを見なくても他で分かります)。AGが高い場合には、低酸素はないか、循環障害はないか、ビタミンB1欠乏はないか、糖尿病性ケトアシドーシスやアルコール性アシドーシスなどはないかチェックしましょう。これもよく分からなければ、酸素投与、輸液、ビタミンB1投与などを行なえば良いです。

 分かりやすい講義や著書で有名な田中竜馬先生は、血液ガスの講義でアニオンギャップを必ず計算しましょう!と語っておられました。是非やってみましょう。

2020年5月7日木曜日

トレーニング問題にトライ!

 日本内科学会雑誌の去年の6月号から12月号には、血液ガスについての文献がシリーズで載っていました。1年たつとネットにて無料で見られるようになりますので、内科学会員でない方や、雑誌捨てちゃったよ!と言う方は、6月までのお楽しみです。

 今回は今年の2月号のP.261ページに載っていたトレーニング問題を紹介します。まず解いてみてください。

問題 次の血液検査所見より、正しい酸塩基の解釈はどれか。二つ選べ。
動脈血液ガス:pH 7.40、PO2 100mmHg、PCO2 40mmHg、HCO3 24.0mEq/L。
血液生化学:血清アルブミン1.4g/dL、Na 140mEq/L、K 4.0mEq/L、CL 104mEq/L。
(a)酸塩基平衡異常なし。
(b)AG正常
(c)AG正常型代謝性アシドーシス
(d)AG増加型代謝性アシドーシス
(e)代謝性アルカローシス

 全く分からない時の解き方をまず書いてみます(ちゃんと解きたい人に答えが見えないようにとの配慮です(^^))。出題者は回答者に間違えさせようとしますので、複数の選択肢に同じ言葉があったらチェックです。AGは3つの選択肢に、アシドーシスは二つの選択肢、正常という言葉もあります。全部がある(c)はまず○です。pHは正常ですので、アルカローシスがないとなり立ちません。よって、正解は(c)と(e)です。が、正解は(d)と(e)でした。
 残念、、、、、、、

 もちろん、分かるように勉強しておくべきですが、分からない時には、このように解いてみましょう。あたる可能性は高いと思います(って説得力なし)。しかし、救急科専門医の試験問題も、それで解ける物が結構あります。多湖輝さんという方の本に書かれていました。試験監督をしていた時に、専門外の試験だったので試験問題がちんぷんかんぷんで、どうやったら正解が出せるか考えたのだそうです(心理学の先生です)。

 さて、まじめに解説してみます。確かに正常値がずらっと並んでおり、(a)の異常なしが○と思ってしまいますね。血液ガスを分析する場合、必ずAGを計算すべきで、多くの器械は自動的に計算値を出してくれますが、私は必ず血液生化学の値を使って自分で計算します(血液ガスの電解質はNaが低め、CLが高めに出るので、AGは低めに出ます)。
 AG(アニオンギャップ)を計算してみます。AG=Na−(HCO3+CL)=12でこちらも正常です(器械によってはNa+K−(HCO3+CL)となっているので注意)。他の問題に記載されているAGの正常値は8〜16だそうです。すると(b)も○としてしまいそうです。

 しかし!この問題のポイントは、アルブミンです。アルブミンが異常に低いことに気付けば正解です!アルブミンは血液中でHイオンを放出してAlbイオン(陰性)となるそうです。酸はHを放出する物と定義されていますので、アルブミンは酸です。よって、アルブミンが低い場合は、代謝性アルカローシスがあります。よって(e)がまず○になります。
 pHが正常なのでアシドーシスがないとなり立ちません。PCO2は正常なので、代謝性アシドーシスがあるはずです。AGが正常だったので(c)が○かと思いますが、ここでもアルブミンが関連します。AGはアルブミンが正常であると仮定して出される値だそうですので、アルブミンで補正する必要があります。補正AG=AG+2.5×(4−Alb)=18.5となりますので、AGは増加しています。よって(d)も○です。
 学会誌の解説では正常アルブミンを4.4としており、補正AGは19.5となっていますが、大きな違いはありません。

 ちなみに、ΔAG=AG−12を計算すると、6.5であり、補正HCO3=HCO3+ΔAG=30.5であり、やはり代謝性アルカローシスがあると判断できます。補正HCO3はAGの上昇がないと仮定した場合のHCO3です。

 偉そうに書いていますが、私はこの問題(e)が○はすぐ正解できましたが、補正AGを出すのを忘れて、(c)を○としてしまいました。普段は電子カルテにコピペ文が入れてあって、それに従って補正AGも計算していますが、問題を解く時は、はしょってしまいました。反省も込めてこの問題を紹介させて頂きます。

2020年5月3日日曜日

術後などの代謝性アルカローシスは良い傾向でもあります

 重症患者さんの状態が良くなってくると、血液ガス分析で代謝性アルカローシスとなることが多いです。代謝性アルカローシスの治療に詳しくないと、状態が良いのに何で?と不安になりますよね。しかし、最初に結論を言っておきましょう。

 代謝性アルカローシスになってきたら、患者さんは良くなってきたと考えて良いです。
 そして、たいてい何もしなくて良いです。

 理由を以下に述べます。

 まず、代謝性アルカローシスになる理由です。代謝性アルカローシスは、HCO3が高くなる状態です。よって、多くはHCO3が血中にたくさん放出される場合が多いです。腎不全でもHCO3が高くなるようですが、経験したことないですし、今回は状態が良くなっている患者さんでの場合ですので、考えなくて良いでしょう。
 重症患者さんには大量の点滴、輸血などが行われます。点滴には乳酸が含まれているものが多いです。私がよく使う乳酸リンゲル液はもちろん乳酸が入っています。また3号液であるソルデム3Aにも乳酸が入っています。輸血には血液を固まらないようにする薬が入っており、例えば赤血球輸血にはクエン酸が含まれています。これら乳酸、クエン酸は代謝されるとHCO3となります。

 今分からないので後日記事にしたいと思いますが、重症になった時に上昇した乳酸は代謝されてHCO3になるはずですが、きっと、これは減ったBB(Buffer Base)を補充するのに使われるので影響はないでしょう(自信はない)。

 よって、重症患者さんはHCO3の元を大量に投与されているので、状態が良くなればHCO3が作られ、代謝性アルカローシスになります。

 次に、代謝性アルカローシスを放置して良い理由です。

 人間はHCO3を腎臓から大量に排泄する能力があります。よって、何かなければ代謝性アルカローシスは維持されません。また、代謝性アルカローシスがあると問題になる事がなければ治療の必要はありません。例えば、CRPが高くてもCRPを下げる治療をしません(原因を治療して結果的に下げることはしますが、CRPを取り除く治療はしませんよね)。これはCRPそのものが悪さをしないからです。

 代謝性アルカローシスは以下のような問題を起こす可能性があります。

・低カリウムを引き起こす。
・代償性に呼吸性アシドーシスを起こし、低酸素になるかも知れない。
・ヘモグロビン酸素解離曲線を左方移動させるため、末梢でヘモグロビンが酸素を離しにくくなる。

 逆に言えば、上記に問題がなければ、放置で良いと言うことです。
 カリウムは正常か高めであれば、カリウムのフォロー(通常重症患者さんが回復しているのであれば、定期的に採血しますし、一緒にカリウムも測りますよね)をすればいいし、低ければカリウムは補充すべきですね。
 人工呼吸中の患者さんであれば、人工呼吸器の離脱に支障をきたすかも知れませんが、ゆっくり離脱しても良いかもしれません。人工呼吸中していない方であれば、肺が悪いなどの人でなければ、ほとんど問題にならないでしょう。
 酸素を離しにくくなる事については、どうなんでしょう?気にしたことありませんが、時々思い出すと良いかもしれません。

 よって、術後や急変した患者さんの血液ガスをとって、HCO3が高くなっていたら、安心して良いと思います。例外はもちろんありますので、きちんと血液ガスを解釈する必要はありますね。