2021年8月31日火曜日

低ナトリウム血症をみたら最初に本当にナトリウムの異常か確認しましょう

  前回の続きです。著明な低ナトリウム血症(Na102)を認めた場合、直ぐ低ナトリウム血症の治療に行くべきでしょうか?


 低ナトリウムは結果だったり、検査のエラーだったり、します。本当にナトリウムの異常があるのかチェックをするのが第一段階です。


 それには浸透圧が参考になります。浸透圧が測れなくても、簡単な検査で鑑別が出来ます。


 一つ目は血液ガス分析です。施設によっては利用できないと思いますが、血液ガスをオーダーすると自動的に電解質も測定されます。その電解質は偽性低ナトリウム血症を示しません(偽性低ナトリウム血症については、あとで説明します)。よって血液ガスを利用しましょう。


 次は浸透圧が高い場合の低ナトリウム血症です。浸透圧のほとんどはナトリウムが占めておりますので、ナトリウムが低ければ、浸透圧は低いはずです。なのに浸透圧が高かったら、これは浸透圧を上げる別の物質があるために、細胞内から水分が引っ張り出されて(浸透圧が高い方に水が移動しますので)ナトリウムが低下したと思われます(ナトリウム濃度は水とナトリウムの比率を示します)。

 最も多いのは高血糖です。血糖が100mg/dL上昇すると、Naは2mEq/L弱低下するとされています。1.6だとか、血糖が500mg/dLを越えると別の係数になるとか、細かいことが言われる場合がありますが、どっちみち適当なので、2弱下がると覚えるのが一番良いでしょう。血糖が例えば600mg/dLあった人がいたら、500上昇していますので、だいたい10ぐらいNaが低下すると予想します。Naが130mEq/Lだったら、低ナトリウム血症の治療は不要です。血糖を下げれば自然に治るはずですので(あるいは血糖が下がってから考えれば良い)。

 他にはマニトールなどの高浸透圧物質を点滴している場合です。

 ナトリウムが低くて困るのは浸透圧が下がるからで、浸透圧が下がっていなければ、Naの治療はいりません。


 その次は、浸透圧が正常なのにナトリウムが低くなる場合で、これは偽性低ナトリウム血症と呼ばれていて、血液検査のやり方から出てくるエラーです。詳しい理論は私もよく分からないのですが、著明な高血糖や著明な高タンパク血症(通常は見ないような激しい異常です)の場合に発生します。補正式は、こちらの私の別のブログに書きましたので参考にしてください。


 これらを除外してやっと低ナトリウム血症だと言えるのです。低ナトリウム血症の治療も慣れないとややこしくて難しいですが、低ナトリウムと診断するのも結構大変ですね。


2021年8月30日月曜日

極端な低ナトリウム血症の患者さん

  高齢の寝たきりの患者さんが意識障害があるとのことで搬送されました。バイタルサインは問題なかったので、まず血液ガスを採取しました。研修医の先生が体調不良で休んでおられたので、久しぶりに自分で動脈血をとりました。


 出てきたデータは以下の通りです。

pH 7.469

PCO2 31.5 Torr

PO2 112.5 Torr(酸素マスクで5リットル/分投与)

HCO3 22.4 mEq/L

BE −0.7mmol/L

Na 測定不可

K 4.45 mEq/L

CL 72 mEq/L

Lactate 1.14 mmol/L


 ナトリウムが測定不可!?とビックリしましたが、CLも低いので低ナトリウム血症だろうと思いました。次に出たのは浸透圧で、205 mOsm/kg・H2Oでした。やはりナトリウムが低いと考え、3%生食を投与しました。


 生化学のデータではNaは102mEq/LでCLは65mEq/Lでした。私の経験した患者さんでは最も低い値でした。ナトリウムが低すぎると血液ガスの機械では測れない場合があるのですね。勉強になりました。


 記事は出来るだけ短くをモットーとしていますので、今回はこれだけ。解析などは別記事で紹介します。


2021年8月29日日曜日

血小板が30万から25万に低下したら低下したと考えて良いのか?

  例えば肺炎で入院した患者さんの血小板が30万/uLだったとしましょう。入院翌日も通常採血します。


「血小板が25万/uLに減少したので、血小板が炎症で消費されているための低下と思われます。」


 と言う発言は正しいのでしょうか?


 厳密に言えば違うというのが今日の記事です。


 昨日紹介させて頂いた、医事新報社の雑誌の症例を集めた本「Reverced C.P.C.による臨床検査データ読み方トレーニング」のP.9によれば、referance changeというものがあり、同じ人でも日々検査データは変化しており、その幅が検査項目によって異なります。また検査の誤差も含めて考えると血小板であれば31.1%も変動するそうです。


 よって、30万/uLあった血小板が低下したと言えるのは、32%以上低下した場合、つまり30×0.32=9.6万/uL以上低下した場合、つまり血小板が20.4万/uL以下になった場合、低下したと言えると言う事です。


 カリウムを例に取れば、reference rangeは14.4%だそうです。4だったカリウムは4×0.144=0.576以上低下、3.4以下になった場合、生理的変化を越えて低下した、あるいは、4.6以上になった場合に上昇したと考えて良いと言うことです。


 検査データの読みというのは難しいですね。

2021年8月28日土曜日

正常値は基準値と言いましょう

  「血糖の正常値は?」等という会話が日本中の医療現場でされていると思われますが、ストレスにさらされている患者さんの血糖値が100mg/dLであったとして、それは正常なのか?と言われると難しいです。ストレスがあると血糖は高くなるのが普通なので、血糖100mg/dLは低いのではないか?と考える必要があるかも知れません。


 また、血糖が正常値だったというと、何か糖関係には全く問題がないという印象を受けてしまいます。よって、他にも色々難しいことがあるのですが、現在は正常値とは言わず、「基準値」という名前で呼ぶ事が勧められています。


 健康であっても基準値を外れる場合がある(だいたい5%程度)し、基準値の範囲内であっても病気がないとは言えない場合があることを忘れないようにしましょう。例えば、コレステロールは基準値の範囲内であっても治療を開始すべき場合があります。




 こちらの本の最初の章に詳しく書かれていますが、読んでも私は理解できなかったので何度も読んでみます。ちなみに、この本は15年ほど前に出版されたもので、現時点でAmazonで古本しか売っておらず、9400円もします。よって、たぶん、次のバージョン(症例は違うと思いますが)を購入されるのが良いと思ったら、こっちの方が高かったです(25000円近くします)、、、、、、知らんけど。


 通常に買える本としては、こちらがお勧めです。



 以下の本はRCPCではなく、一人RCPCみたいになっていますが、同じように検査について勉強になります。きっと著者の先生はかなり面白い先生なんだろうなと思われます。





2021年8月27日金曜日

今回から血液検査全般についてのブログに変更します

  定期的に思い出してアップしているこのブログですが、ネタ切れというか勉強不足もありますが、最近血液検査について(特にRCPC、後述)勉強したので、ブログのタイトルを「血液ガスから学ぶ救急医療」から「血液検査から学ぶ救急医療」に変更します。よろしくお願いいたします。


 RCPCとはReversed Clinico-Pathological Conferenceの略で、血液検査から患者さんの状態を想像すると言う検査のトレーニングになります。私が学生の時に医事新報ジュニア版というのがあり、無料で配られていました。それには色々興味深い記事が載っていて、RCPCも載っていました。が、私には難しすぎていつか読めるようになったらなあと思っていましたが、医師になって30年以上経ち、やっとその時が来たかも知れません、、、、、、知らんけど。



  RCPCについての本を探すと数冊しか見つかりません(医師向けと思われるもののみ)。そのうちの一つがこれです。大学の先輩が書かれているのもありましたが、色々勉強になります。少しずつ紹介していきたいと思いますし、載っていることの多くはネットで検索しても見つからないことが多かったので、ネットで見つけられるようにと言う意味も込めて記事を続けていきたいと思います。

2021年8月20日金曜日

浸透圧ギャップが高い時には偽性低ナトリウム血症も疑いましょう

  以前浸透圧ギャップを必ず計算しましょうと書きました。血液ガスを行っていなくても、低ナトリウム血症があったら浸透圧を測定することが多いので、その際は必ず浸透圧ギャップを計算しましょう。


 今回はそれをしていれば防げたのではないかという症例の紹介です。もう40年近く前の症例報告です。こちらのブログをご覧頂ければ幸いです。低ナトリウム血症だったのですが、高血糖によるものと考えてしまっていたのですが、著明な胃高脂血症による偽性低ナトリウム血症を伴っており、実際は高ナトリウム血症だったというものです。浸透圧ギャップが異常に高くなっており、患者さんは6歳であり、ほとんど食べられていない状態だったようですので、浸透圧ギャップを形成するような変な物質を摂取した可能性は非常に低いです。ナトリウムが低すぎると疑うべきだったと思われましたが、初診時に高脂血症による偽性低ナトリウム血症は疑われなかったようです。


 よって、浸透圧ギャップの開大を認めた場合、偽性低ナトリウム血症も疑い、血液ガス分析装置で測定したナトリウムの値を採用すべきですね。