2020年2月29日土曜日

乳酸値上昇は失神より痙攣発作を疑わせます

一時的な意識障害の患者さんが来られた時に、失神なのか痙攣なのか鑑別に困ることがあります。救急外来では痙攣が治まっていることが多いですし、現場を目撃した人がいないとなおさらです。

そんなときに役立つのが乳酸です。例えば以下のような60歳ぐらいの女性のデータを示します。

pH 7.063
PaCO2 43.7 mmHg
PaO2 393.7 mmHg
HCO3 12.2 mmol/L
BE −17.6mmol/L
Anion Gap 30.2 mmol/L
Lac 13.47 mmol/L

100%酸素投与下でのデータで、この方は意識障害が続いており、痙攣も目撃されていたので、データがなくても分かりますが、乳酸値が非常に高いです。乳酸値が2.5以上かどうかで判断すると、感度73%、特異度97%とのことです。こちらのブログをご覧ください。

他にもアンモニアやプロラクチン、CKが有用のようですが、一番大事なのは問診と身体所見であることはお忘れなく。

2020年2月28日金曜日

一酸化炭素中毒の場合

 今日は一酸化炭素中毒の場合です。まず患者さんが来院した時に血液ガスをとるべきかどうか?が問題です。一酸化炭素中毒の症状や診察所見は多彩で、3分の1は見逃されていると言う報告があるようです。

 こちらの文献(総合診療 29 163-168, 2019)によれば、「寒い時期に熱がなくて、臓器がしぼれない症状が主訴の人」を見つけたら、静脈でも良いので血液ガスをとりましょうとあります。

 血液ガスデータは一見正常ですが、CO-Hbが高値です。が、喫煙者は高いことが多いですし、時間が経っていれば正常値の場合もありますし、正常値だからといって一酸化炭素中毒を否定できず、感度は低いです。が、15%以上あれば高いと考えて良いとされています。

 CO-Hbとは一酸化炭素と結合したヘモグロビンで、これは酸素とは結合できません。一酸化炭素は酸素の200倍ヘモグロビンと結合しやすいそうです。そうなるとヘモグロビン結合酸素が減りますので、酸素含有量が減ります。酸素含有量は、以前やりましたね。

動脈血酸素含有量(CaO2)=ヘモグロビン結合酸素 + 溶存酸素
            =1.34×Hb×SaO2 +0.003×PaO2

 通常のパルスオキシメーターは、一酸化炭素ヘモグロビンと酸素ヘモグロビンの区別が出来ません。血液ガスデータのSaO2は計算値ですので、一酸化炭素中毒の時の正確な酸素飽和度は分かりません。しかし、ヘモグロビン結合酸素が低下しているのは間違いないので、溶存酸素を増やす必要があります。

 血液ガス分析にCO-Hbがない場合には、是非入れてもらいましょう。もしそれが無理だったり、血液ガスを測定できない状況で、一酸化炭素中毒を疑った場合には、ちゅうちょなく酸素を全開で投与しましょう。高濃度酸素が危険ということが最近言われていますが、短時間ならば全然大丈夫です!!

 また高濃度酸素を吸っていると一酸化炭素の半減期が短くなるそうですから、高濃度酸素を投与するのは大切ですね。

<今回の極論ポイント>
 一酸化炭素中毒を疑ったら、まよわず酸素を大量に投与しましょう。

2020年2月27日木曜日

急性呼吸性アシドーシスではBEは低下しません

 一昨日の続きです。BE(ベースエクセス;base excess)は、代謝性アシドーシスを素早く判定するための指標だと書きました。よって?急性呼吸性アシドーシスでは変化しないとのことです。

 今回はその理由を書いてみます。

 まず、急性呼吸性アシドーシスでは、PaCO2が1上昇すると、HCO3が0.1上昇するそうです。以下のような反応が起こるからだとされています。

CO2+H2O→H2CO3→Hイオン+HCO3

Hイオンは、BB(バッファーベース)中のAlbイオンなどと結合し、BBが減ります。しかし、HCO3が同じ量出来ていますので、BBは減りません。BEはBBが減ると低下するとされていますので、これだけでBEは低下しないことが分かりますが、それらについては、また後日(私がまだ理解していないから)。

BE=HCO3-24.2+16.2×(pH-7.4)

でした。例えばPaCO2が40から50に上昇したとすると、HCO3は1上昇し、25になるとします。

pH=6.1+log(HCO3/0.03/PaCO2

なので、代入して計算(関数電卓を使用しました)すると、pHは7.32になりました。

計算すると、BEは-0.496でほとんど正常です。

同じようにPaCO2が60に上昇したとすると、HCO3は26となり、pHは7.26で、BEは-0.468となりました。

確かに急性呼吸性アシドーシスではBEは低下しないようです。

2020年2月25日火曜日

BEは見なくても良いです(もちろん見ても良いです)

 BE(ベースエクセス;base excess)は、一目で代謝性アシドーシスを見つけるための指標のようで、緊急時にはよく使われています。BEが低い場合には、HCO3も低く、代謝性アシドーシスがあると考えて良いことが多いです。詳しくは省きますが、急性の呼吸性アシドーシスではBEは低下しません。

 BEは以下のような式で計算されます(一例です。色々あるようです)。

BE=HCO3−24.8+16.2×(pH−7.4)

 機械の業者さんによって違うようですが、上記のように、BEとHCO3はほぼ一対一です。

 しかし、色々限界があることも知っておかなければなりません。それは以下の通りです。

・低アルブミン血症では高くなる。
・pHの値がおかしい(HCO3とは逆の方向に呼吸性代償が強く働いた時など)場合にはHCO3と解離する。
・HCO3の変化が一次的な変化なのか、代償による変化なのかを区別できない。

 一つずつ説明します。低アルブミン血症ですが、以前書いたようにアルブミンは血液中でHイオンとAlbイオンに分離します。分離してHイオンを出す物質は酸と言う定義でした。よって、アルブミンは酸ですので、アルブミンが低くなれば、代謝性アルカローシスになります。BEはアルブミンが正常であるという前提で計算されるそうです。

 pHの値がおかしい場合です。HCO3が低くなったのに、呼吸性アルカローシスが合併し、pHが上昇した場合、BEの低下はそれほどでもなくなります。同じようにHCO3が高くなったのに呼吸性アシドーシスが合併してpHが低下した場合、BEの変化は少なくなります。

 代償かどうかについては、BEがHCO3とpHのみで決められていますから、区別がつきにくいです。

 一説によれば、昔は乳酸などが測定できなかったので、緊急時にBEを見て代謝性アシドーシスがあるなと思うような状況だったようですが、今は乳酸を測らない血液ガスは、クリープを入れないコーヒーのような(古い!)ものですので、BEを見る必要はないかも知れません。

 が、簡単に計算できるので、たぶん10年後にも、血液ガス分析のデータにはBEが計算され続けるでしょう。tCO2みたいに。

2020年2月22日土曜日

アニオンギャップは自分で計算しましょう

血液ガス分析を行うと、通常は電解質(ナトリウムとカリウム、クロールやカルシウム)が一緒に測定され、自動的にAG(アニオンギャップ;anion gap)が計算されます。緊急時にAGが上昇(12以上を上昇と考えます)していると、アシドーシスがあって、以下のような病態だなと分かります。

糖尿病性ケトアシドーシス
アルコール性ケトアシドーシス
乳酸アシドーシス
腎不全
サリチル酸(アスピリン)中毒
その他

日本救急医学会の用語解説集より

しかし、私もそうですし、「酸塩基平衡の考え方(南江堂)」にもそう書いてありましたが、特に重症患者さんでは、AGが低い人が多いです。AGは低アルブミン血症があると低くなりますので、以下のような補正を行う必要があります。

補正AG=AG+2.5×(4−Alb)

しかし、それを行っても、やはりAGが低い人が多いです。その理由は、血液ガス分析で測定されたNaとCLの問題です。血液ガス分析では血清ではなく全血で測定するために、Naはやや低く、CLはやや高く出てしまうようです。よって、AGは低くなります。

よって面倒ですが、血清NaとCL、それから血液ガスのHCO3を使って計算した方が良いと思われます。

2020年2月14日金曜日

慢性的にPCO2が高い人は急激にCO2ナルコーシスになるかも

CO2ナルコーシスはなかなか難しい病気なのです(私も詳しくは分かりません)が、たぶん知らない医療従事者はいないぐらいに有名です。よって、慢性呼吸不全の人に酸素をやってはいけないということがよく言われます。これについては議論があって、別に記事を書いた気がしますが、後日また書きます。

今回はもともとCO2が高い人は、急激に意識レベルが低下する可能性があることをお話しします。

先日意識レベルが急に低下して、血液ガスをとったらPaCO2が100以上あったという患者さんがいたようです。そんな急に意識レベルが低下するのか不思議だったのですが、昨日引用させていただいた文献に載っていました。右上の図は、昨日も紹介したこちらの文献から引用させていただきました(半井悦郎ら:呼吸管理に必要な呼吸生理. 日集中医誌.2008;15:49 56.)。縦軸がPaCO2(動脈血二酸化炭素分圧)で、横軸が分時換気量です。動脈血二酸化炭素分圧が高い人は、上の図でa点の様なところにあります。グラフの傾きが急になっています。よって、換気量が少し減っただけでPaCO2が急激に上昇することが分かりますね。

非常に勉強になりました。

2020年2月13日木曜日

肺胞気式でPCO2を何故呼吸商で割るのか?

 肺胞気式という式があります。肺の一番末端である肺胞に、酸素がどのぐらい存在するのか?を計算する式です。肺胞にどのぐらい酸素があるのかを直接測定できないため、とても重要な式です。以下に示します。

PAO2=PIO2-PACO2/R

 簡単な式ですが、用語の解説を以下にします。

 PAO2は肺胞の酸素分圧を示します。Pは分圧、その次の文字は、大文字だと気体中の測定値を示し、小文字だと液体中の測定値を示します。Aはalveolarと言う英語の略で肺胞という意味です。
 PIO2は、吸入したガスの酸素分圧です。通常PIO2=(760-47)×FIO2で示されます。760は1気圧です。標高の高いところで測定した場合には、760より低くなります。47は37度における飽和水蒸気圧で、肺胞に行くまでに吸入したガスは加湿されますので、水蒸気が圧を奪うと言うことです。体温は37度と仮定しています。低体温だったらどうするのか?等とやり出すときりがないので、通常の診療では、37度として考えて良いです。
 FIO2は吸入酸素濃度です。FIO2は50%等と言いますが、正確には、0.4と言います。Fはfractionの略で、分数とか小数という意味があるようです。酸素を吸っていない場合には、FIO2は0.21程度ですので、PIO2=713×0.21=150程度になります。
 PACO2は肺胞における二酸化炭素分圧です。これは直接測定できませんが、二酸化炭素は容易に肺胞と血液の間を行き来出来ますので、ほぼPACO2=PaCO2です。動脈血二酸化炭素分圧ですね。これは血液ガスで測定できます。
 Rは呼吸商と呼ばれる物で、通常の生活をしている人は0.8です。酸素を10使って二酸化炭素を8排泄していると言う状態です。

 よって、肺胞気式を簡単に書けば、PAO2=150-PaCO2/Rとなります。

 ところで、何故Rで割るのか考えたことがありませんでした。田中竜馬先生の本に書かれていて、田中先生も感動しませんか?と書いておられますが、私も何度目かに読ませていただいてやっと感動しました!

 肺胞気式のPaCO2は、PaCO2(つまりPAO2)が直接分圧を横取りするから入っているのではなく、消費される酸素の量を示すために入っているのです。

 詳しく知りたい方は、こちらの論文に計算式が載っています。理解するのに時間がかかりました(私だけ?)が、なかなか面白いです。