2020年12月9日水曜日

動脈血を採血したのだが静脈血になってしまった。取り直すべきか?

  超久しぶりの投稿になってしまいました。すみません。


 先日カンファレンスで、出血性ショック(代償性)の患者さんの血液ガス分析を行ったところ、誤って大腿静脈を刺して静脈血となってしまい、乳酸値が2を超えていたのですが、静脈血なので評価できないと考えましたと言う発言をしている先生がいました。


 冷や汗もかいていて、別の先生が認識が甘いやろ!と突っ込んでいました。静脈血の乳酸値でも、2を超えていたら高いと考えて行動すべきだと私は思いますし、動脈で採血し直すべきだろと思いましたが、嫌がられると思って黙っていました。


 例えば、こちらのサイトには静脈血の乳酸値から動脈血の乳酸値を予想する式が載っていました。

Arterial lactate (mmol/L) = –0.259 + venous lactate (mmol/L) × 0.996

 計算すると、静脈血乳酸値が2.26以上であれば動脈血乳酸値が2以上になります。救急外来ではオーバートリアージが原則ですので、静脈血でも乳酸値が高ければ、乳酸アシドーシスになっていると考えて行動しましょう。


 私はその場合は大量輸液とビタミンB1投与をしています。脚気心というのを一度も診たことはありませんが、簡単な治療で治る物は治したいですよね。


2020年7月31日金曜日

メトヘモグロビン血症ではSpO2が85%以下にはなりにくいです。

 メトヘモグロビン血症を診たことはありません。皆さんはありますか?

 メトヘモグロビンは、ヘモグロビンの酸素結合部位である鉄分子が2価ではなく、3価になってしまったもので、通常でも2%程度ぐらいまでは存在していますが、これが増えてしまうと酸素が結合できないヘモグロビンが増えてSaO2が低下して低酸素状態となり、問題が起こるという訳です。

 局所麻酔薬やニトログリセリン等でも起こるようなので、意外にメトヘモグロビン血症は発生しているようです。重大にならなければ症状もないようなので見逃されているかもしれません。通常のパルスオキシメーターでも検出できないそうです。

 さて、こちらの論文によれば、メトヘモグロビンが増えると、SpO2は85%に近づいていくようです。

 簡単に理屈を説明します。

 パルスオキシメーターは赤色光Rと赤外光IRを出して、その光がどのぐらい吸収されたかを測っているそうです。SO2は赤色光Rと赤外光IRの吸光度の比と反比例するとのことで、比が1の時SO2は85%なのだそうです。

 メトヘモグロビンは、パルスオキシメーターが使っている二種類の光の吸光度が同じだそうです。もしメトヘモグロビンが増えた場合、R/IRがどうなるか考えます。メトヘモグロビンが増えると、吸光度は赤色光ではR+M、赤外光IRではIR+Mとなります。

 R/IR-(R+M)/(IR+M)を計算し、これが0以上ならSpO2は上昇しますし、0以下ならSpO2は低下します。

 R/IR−(R+M)/(IR+M)=M(R-IR)/IR(IR+M)となり、MとIR+Mは0以上なので、R/IR<1なら、つまりSpO2が85%を超えていれば、メトヘモグロビンが増えるとSpO2は低下、R/IR>1なら、つまりSpO2が85未満なら、SpO2は上昇すると考えられます。

 もともとのSpO2が85%未満ということはあまりないでしょうから、通常はメトヘモグロビンが増えればSpO2が85%に向かって低下します。そして、どんなにメトヘモグロビンが増えてSaO2が低下しても、SpO2は85%より下がらないと言うことです。

 現在はメトヘモグロビンや一酸化炭素による影響を検出して、ちゃんとSaO2が測定できるパルスオキシメーターが発売されていますので、それを救急外来に常備しておくのが良いと思います(院長先生買ってください!)。

2020年7月30日木曜日

患者さんにきちんと説明しなければ

 先日別の先生が担当された患者さんですが、救急外来に来られて色々検査をし、異常がなく、症状も改善したので帰宅された方が、検査結果の異常値について説明して欲しいと私の外来に来られました。

 見てみると、静脈で血液ガスを採血していました。異常値はそれについてでした。以下にデータを載せます。

pH 7.347
PCO2 53.1
PO2 20.5
HCO3 28.5
BE 1.8
tCO2 30.1
tHb 14.1
Ht 41
O2Hb 25.7
COHb 0.3
MetHb 1.6
HHb 72.4
sO2 26.2
O2CT 5.1

 それぞれ正常値も載っていましたので、患者さんはチェックをされて、これらの異常について説明して欲しいと言われました。順番に説明しました。

 pHがやや低いですが、これはPCO2が高いためでしょう。PCO2は静脈血では評価できないとされています。pHが低いのは救急車で来られた時に調子が悪かったためと思います。今はお元気なので、この時は低いですが、今は問題ないでしょう。心配なら再検査しますが、、、、、(検査は希望されませんでした)
 PCO2は静脈血では評価しないとされています。少し高いですが、気にされなくて良いです。
 PO2は静脈血なので当然低いです。
 HCO3がやや高いですが、これはPCO2が高いための身体の正常な反応です。軽度の上昇なので気にされなくていいです。
 tCO2はHCO3+0.0307×PCO2ですので当然少し高いです。
 O2Hbは静脈血なので、当然酸素と結合しているHbが減ります。
 MetHbは少し高いですが気にしなくて良いです。
 HHbは静脈血なので、当然酸素と結合していないHbが増えます。ちなみに、O2Hb+HHb+COHb+MetHb=100です。
 sO2は血液ガスで産出した酸素飽和度SO2です。sO2=25.7÷(25.7+72.4)です。たぶん。
 O2CTはCaO2のことです。1.34×Hb×SO2+0.003×PO2ですから、当然静脈血では低下します。

 検査項目の一つ一つを正常値と照らし合わせてチェックする患者さんもおられるんですね。説明不足で申し訳なかったです。


2020年7月14日火曜日

Na-CLはアルブミンで補正しなくて良いのか?

 以前Na−CLが役に立つという事を書きました。Na−CLは36程度が正常値であり、40以上は代謝性アルカローシス、30以下は代謝性アシドーシス(AG非上昇型)30−40の間は正常、あるいはAG上昇型代謝性アシドーシスという物です。

 これは以下の計算で導かれます。

補正HCO3=HCO3+ΔAG

ΔAG=AG−12=Na−CL−HCO3−12

補正HCO3=HCO3+Na−CL−HCO3−12

補正HCO3=Na−CL−12

補正HCO3+12=Na−CL

 Na−CLはAGが正常だったと考えた場合のHCO3と12を足した値となります。HCO3は24が正常ですので、厳密に言えば24+12=36を境に考えるべきでしょう。36以上なら代謝性アルカローシス、36以下なら代謝性アシドーシスです。

 しかし、低アルブミン血症の場合のAGはAG+2.5×(4−Alb)でした。4はアルブミンの正常値であり、4.4でも4.5でもいいです。0.5×2.5=1.25であり、大きく変わりません。これを入れたNa−CLを書くと以下のようになります。

Na−CL=補正HCO3+12−2.5×(4−Alb)

例えばAlbが2だったとすると、Na−CL=補正HCO3+17となり、41が正常となります。厳密に言えば補正した方が良いかもしれませんね。Albが3だったら補正はしなくても良いかもしれません。


2020年7月12日日曜日

スマートホンのSpO2は信頼できるか?

 最近のスマホやスマートウォッチは色々なセンサーを内蔵しており、使用している人の健康状態をチェックしてくれる物があります。時には、その人の緊急事態を知らせて命を救ったとか。

 今回は、その中でSpO2が信頼できるか?というお話です。結論から言えば、まだまだだそうです。エビデンスレベルの高い研究もまだないでしょうし、使用するのは良いですが、病院ではやはり測定し直しましょう(しないことはないでしょうが)。

 こちらの文献をご覧ください。

 現在夏休み中で、非常に手抜きです(いつもじゃないかって?)。

2020年7月10日金曜日

低ナトリウム血症を見たら、尿の電解質も測定してみましょう

 低ナトリウム血症は入院患者さんでよく見かける電解質異常であり、点滴をする医師は知っていなければならない病態です。しかし、低ナトリウム血症は複雑で、なかなか上手く対応が出来ません。私も色々勉強して知っているつもりでしたが、知らないことが多くて日々勉強です。

 さて、今日は低ナトリウム血症の時の治療の鑑別に役立つ指標です。詳しいことは調べていただくとして、点滴を考える時、以下のことを考える必要があります。

(点滴のNa濃度+点滴のK濃度)>(尿中Na濃度+尿中K濃度)

 こうしないとナトリウムはさらに下がっていくのだそうです。これは知りませんでした。つまりは、尿中Naと尿中Kを測定しなければならないと言うことです。本によっては浸透圧や尿酸、クレアチニンを測定すべきだとありますが、今回は取りあえずナトリウムとカリウムだけ取り上げます。

 例えば、生理食塩水を投与すればナトリウムは上がるだろうと思いますが、尿中Na+尿中Kが154mEq/L以上あれば、何と生理食塩水を投与してもナトリウムが下がるのだそうです。これはビックリでした。

 また、以下の式で治療法を使い分けることが出来ます。

 血清Na>尿中Na+尿中K 薄い尿が出ていますので水分制限だけで良いです。
 血清Na<尿中Na+尿中K 薄い尿が出せていないので、生理食塩水あるいは高張食塩水が必要です。

 高調食塩水は3%の物を作るように書かれていますが、3%にはエビデンスがあるわけではなく、作るのが大変であればメイロンでも良いそうです。メイロンは1000mEq/Lというナトリウム濃度がかなり高い点滴ですので速度に注意が必要ですが、緊急時には使っても良いかもしれません。

 何はともあれ、低ナトリウム血症の患者さんを見つけたら、あるいは点滴をしていて尿検査をする人がいたら、ナトリウムとカリウムをオーダーしていただき、点滴のメニューを決めていきたいですね。

2020年7月9日木曜日

本の紹介

 血液ガス入門本の紹介です。2600円ですしお勧めです。

 新生児を診ることがなくても大丈夫です。血液ガスについての解説は大人と変わりませんし、なんと生後1時間で大人と同じになるんだそうです。知りませんでした!臍帯血の血液ガスについても解説がありますが、pH、PO2、HCO3が大人より低く、PCO2が高いだけで解釈は同じです。

 イラストも多くて分かりやすいですし、赤ちゃんのイラストですから、女性は気に入るのではないでしょうか。その割に内容が薄いかと言えばそうではなく、片肺挿管では何故SO2が90%位までしか上がらないか?等の解説もありますし、低体温についての解説や、シリンジにエアーが入った場合等も解説されています。

 二酸化炭素の運搬について解説されている入門書は、私の知るかぎりこの本だけです。とても勉強になりました。

2020年7月8日水曜日

ブログの紹介

 こちらの先生のブログは、血液ガスについても時々記事があり勉強になります。

 私のブログと最も違うところは、内容の格調高さは当然として、スライドがキレイだと言うことです。

 是非ご覧ください。血液ガスをいつ取るか?について書かれています。

 今日は手抜きで済みません。

2020年7月7日火曜日

動脈血採血の動画

 動脈血採血のやり方の動画です。英語ですが見てるだけで分かります。



 採血前に患者さんのリストバンドを確認し、採血直後、検査前にシリンジを撹拌しているのが印象的でした。

 今日は手抜きで済みません。

2020年7月6日月曜日

カリウムが高い時も血液ガスが役に立ちます(pH以外)

 酸塩基平衡と電解質は密接な関係があります。カリウムもpHと関係があるのは有名です。

 アシドーシスになると、少しでもそれを緩和しようと細胞がHイオンを細胞内に取り込みます。その際にKと交換するようです(何かの陽イオンと交換しないと細胞内が+になってしまいます)。よって、細胞内からカリウムが放出され、高カリウム血症となります。アルカローシスになると逆に低カリウム血症となります。

 今回の話題は偽性高カリウム血症です。つまり患者さんの体の中のカリウム濃度は正常なのに、採血するとカリウムが高いと報告されると言う状態です。これに血液ガスが役に立ちます。

 結論を先に言うと、血清カリウム値が高いのに、血液ガス分析で行ったカリウムが正常だったら、これは偽性高カリウム血症だと言えます。血小板が異常に高値の場合です。

 血小板がたくさんあると、血液が固まる時にカリウムがたくさん放出され、カリウムが高いと報告されてしまうようです。復習ですが、血液生化学、いわゆるプレーン採血は、血液に抗凝固薬を入れないで血液を固まらせ、固まった部分は取り除いて検査をします。血液が固まるまである程度の時間がかかるため、血液生化学検査は例えば10分では結果は出ません。

 でも茶色のスピッツに何か入ってますよ!と言う貴方、するどいです。あれは凝固促進剤であり、検査室の人が必要なものであって、我々患者さんのそばにいる人間にはあまり関係ありません。間違っても血液を注射器で採血し、茶色のスピッツに最初に血液を入れるようなことはしていませんよね。極論を言えば、注射器のまま検査室に提出し、検査室で茶色のスピッツに入れても良いのです、あれは。

 よって偽性高カリウム血症を予防するには、血液に抗凝固薬を入れて検査すれば良いです。何でも良いのですが、血液ガスの注射器には抗凝固薬が入っていて、カリウム塩ではありません(通常ヘパリンリチウムです)。

 血小板が多い人でカリウムが高いと報告されたら、もちろん心電図は直ぐとってカリウムが高い可能性も探りますが、血液ガス分析をやってみましょう。

 緊急の場合には、カリウムをプレーンの採血でオーダーすると20分ぐらいは結果が出ませんから、結果が1分もあれば出る血液ガス分析もしましょう。

 ちなみに、血小板と言えば、「はたらく細胞」の血小板を思い出してしまいます。可愛すぎます!

2020年7月5日日曜日

片肺挿管になったら酸素濃度を上げたらいいじゃない?

 気管挿管をしている時(あるいはする時)、起こりやすい不具合の一つは片肺挿管です。

 片肺挿管は何がいけないでしょうか?もちろん、酸素化能が低下する事です。挿管されていない(通常は右に入るので左ですね)肺に痰がたまることもあるかも知れません。

 さて、この時、気管チューブの位置を動かすことが出来ない(資格上の問題、その他色々)場合に、とりあえず酸素を100%にしたら良いじゃないと思いますね。もちろん、それは一つの手なのですが、その際、SPO2があまり上がらない事が多いです。今回はその事について考えてみましょう。

 まず、換気されない左肺から心臓に戻って来る血液は、酸素を取り込むことが出来ませんから、ほとんど静脈血と同じです。つまりPO2は40mmHg程度です。

 次に、換気されている右の肺から戻ってくる血液は、100%酸素で換気していて、酸素化能に問題がなければ、PO2は600mmHg以上あります。

 左肺と右肺からの血流が同じだったとすると、(右肺からの血流のPO2+左からのPO2)÷2=320mmHgとなり、SPO2は余裕で100%近いはずです。また、hypoxic pulmonary vasoconstrictionと言って換気が悪い肺胞へ行く血管は収縮する反応があり、左肺の血流は少なくなります。右:左が例えば2:1になったら、もっとPO2は高くなるはずです。

 しかし、PO2は60mmHg程度にしかなりません。何故でしょう?

 血液にはヘモグロビンが含まれているのがその理由です。血液が単純な液体であれば、先ほどの計算は成り立ちます。みなさんは、CaO2というのを覚えていますか?動脈血酸素含有量という物で、こちらで計算します。

 CaO2=Hb結合酸素+溶存酸素=1.34×Hb×SaO2÷100+0.0031×PaO2

でした。左肺から来る血液のCaO2=1.34×15×0.75+0.0031×40=15.2ml/dLです。
(Hbは15としました。静脈血のPO2は40mmHg、SO2は75%としました。)
右肺から来る血液のCaO2=20.3ml/dL程度です。右:左の血流が2:1だったとすると、(20.3×2+15.2)÷3=18.6ml/dLとなります。酸素化能が正常な人の酸素吸入なしの場合のCaO2は19.8ml/dL程度(SaO2 97%、PaO2 90としました)です。片肺挿管時は、室内空気を吸っている人より、PaO2が低いと言うことでしょう。PaO2が60mmHgでSaO2が90%として計算すると18.2ml/dL程度となり、やはりPaO2は60mmHg程度と言うことになります。

 気管チューブは患者さんの首の反り具合で最大5cm程度動くらしいですので、気管挿管をしている患者さんでは常に片肺挿管になっていないか、確認しましょう。そして、PaO2が突然下がったら片肺挿管を是非考えてください。

 他にも人工呼吸中の患者さんに変化があったら思い出す物としてDOPEと言うのがあります。
D displacement チューブの位置異常(つまり片肺挿管、抜けたなど)
O obstruction チューブの閉塞
P pneumothrax (緊張性)気胸
E equipment 装置の異常(人工呼吸器など)

 英語が苦手な方は「いきつめ」と覚えましょう。
い 位置の異常
き 緊張性気胸
つ 詰まった
め メカの異常

2020年7月4日土曜日

シリンジを撹拌しましょう(その2)

 前回の記事で、検体を検査機器にかける前に、最低でも40秒は撹拌しましょうという事を書きました。

 今回はシリンジの添付文書からです。当院で採用しているシリンジの添付文書には以下のような図が載っています。

 左が採血直後、右が検査直前にそうしなさいとのことです。くるくるする操作を「きりもみ」と表現しています。血液ガスをとったらきりもみ操作を頻繁にしなければならないと言うことですね。

 救急外来でごまをすっているわけではありませんので、誤解のないようにお願いします。

2020年7月3日金曜日

Na-CLを計算しましょう

 Na-CLが36以上は代謝性アルカローシス、以下は代謝性アシドーシス(AG正常)が疑われると以前も書いたこちらの論文を紹介させて頂いた記事でした)のですが、別の説明を見つけましたのでご紹介します。以下の本の994ページです。何とこの本現在新品が手に入らないようで、Amazonなどでは中古品の方が高い(と言うか新品は売っていない)値段になっています。楽天でも購入できませんので、電子版を購入しました。


 アニオンギャップの式は以下の通りです。

Anion Gap=Na−CL −HCO3+2.5×(アルブミンの正常値−Alb)

 式を変形します。

Na−CL=AG+HCO3−2.5×(アルブミンの正常値−Alb)・・・・・式(1)

 Na−CLが上昇するのは、AGが上昇した場合か、HCO3が上昇した場合、あるいは両方となります(Albが増加した場合もそうですが、あまり考えなくて良いでしょう)。しかし、AGが上昇すると、その分だけHCO3が低下します。HCO3は他のイオンの変化に伴って容易に変化します。AGが増加したと言うことは、その分だけ酸(酸は水素イオンを放出しますから、必ず陰イオンとなります)が増えていると言うことです。陰イオンが増えていますから、その分HCO3は低下します。
 ここで補正HCO3という概念を考えるのですが、AGが上昇している場合、もし、AGが正常に下がったらHCO3はいくらになるのか?それが高ければAGが増加する代謝性アシドーシスに加えて、代謝性アルカローシスもある、低ければAGが増加しない代謝性アシドーシスがあると言うことになります。補正HCO3を出す計算が以下のような物です(AGの正常値を12とする)。 

補正HCO3=HCO3+(AG−12) これを変形すると、

HCO3=補正HCO3−AG+12 となります。これを式(1)に代入すると

Na−CL=AG+(補正HCO3−AG+12)−2.5×(アルブミンの正常値−Alb) となって、結局

Na−CL=補正HCO3+12−2.5×(アルブミンの正常値−Alb) となります。

 補正HCO3はAGが正常になった場合のHCO3ですから、AGが高くても低くても正常でも関係ありません。補正HCO3が高ければ代謝性アルカローシス、低ければ代謝性アシドーシス(AG非増加型)ということになります。Albが正常であれば、HCO3の正常値は24ですので、Na−CLが36より大きいか小さいかで切ることになります。また、アルブミンがあまりに低いとNa−CLも下がります。アルブミンの正常値を4、測定されたアルブミン値が2だったとすると。Na−CLは31で切ることになります。よって、Na−CLは30から40ぐらいまでは正常と考えても良いかもしれません。

 また、Na−CLが36前後であれば酸塩基平衡に異常がないかというと、AGが増加する代謝性アシドーシスは分からないですし、代謝性アルカローシスとAG非増加型代謝性アシドーシスが混在していると異常を示さないかもしれません。

 まあ、Na−CLだけで血液ガス分析が全部解釈できるはずはありませんので、当たり前ですね。

 どちらにしても、一般血液検査を出したら、Na−CLを計算してみることは大切ですね。低い時は30以下、高い時は40以上を基準として異常と判断し、異常と思ったら血液ガス分析を行いたいですね。アメリカのように、血液生化学検査の一つとしてHCO3が検査できると良いのですが(日本でもやっているところはあるようです)。

2020年7月2日木曜日

空気が入ったらどうすべきか

 血液ガスを静脈で採血するように指示を出して、朝結果を見ると、PO2が75Torrだったりすることがあります。静脈血液ガスのPO2は通常50Torr以下で、ほとんど40Torr以下です。

 なのに75Torrもあるのは何故なのでしょうか???大きな声では言えませんが、ある病院では、昔看護師さんが動脈血をとっていましたので、その病院では看護師さんが気を利かせて動脈血をとってくれたということになりますが、当院はそうではありません。まさか、誤って動脈を刺してしまったなんて事もないでしょう。

 その原因は、シリンジに空気が入ったためと思われます。血液を空気に触れたままにすると、血液は空気の酸素分圧と同じ値に近づきます。空気のPO2はいくらかというと、160Torr程度です。計算は760mmHg×0.0209です。あれ?150じゃなかったの?と言う方は鋭いです。空気は水蒸気で飽和していませんので、37度における飽和水蒸気圧である47Torrを760Torrから引かないので、やや高いです。

 よって、採血時に空気が入ったのに、それを出さないで検査に出し、検査するまで少し時間が経つと、PCO2は低下(空気のCO2はほぼゼロ)、PO2は状況により上がったり下がったりします。静脈血の検体であれば、PO2は上昇します。

 なので、採血時に血液が混じった場合、面倒でも空気は出すようにしましょう。まあ、静脈の検体では酸素を評価することはありませんし、もともと静脈血はPCO2も評価が難しいと言われていますから、気にしなくても良いのかもしれませんが、折角行う検査は正確にやりたいですね。

2020年7月1日水曜日

血液ガスをとったら冷やすべきか?

 私はそう習ったことはありませんが、血液ガスをとったら、検体を氷水や氷につけて冷やすべきだと習っている先生もいます。

 何故冷やさないといけないのでしょうか?

 血液の中には白血球や赤血球、血小板があり、これらはそれぞれ代謝を行っています。採血して身体から外に出ても、しばらくは代謝が継続します。特に白血球は酸素を消費するようです。

 よって、偽性低酸素血症(患者さんの身体の中は低酸素ではないのに、検査では低酸素となる)を予防するために、検体を冷やすべきと言うのです。

 例えばこちらの論文によれば、白血病で白血球が30万(!)以上になったりすると、著明に酸素分圧が低下する症例が報告されています。



 しかし、この論文にあるように、白血球が37000では正常値の時とあまり変わりなく、白血球が異常に高い患者さんがたくさんいる病院(血液内科がある)でなければ、通常はそのまま検体を提出すれば良いと思います。

 何らかの原因で検査が直ぐできない場合には冷やした方が良いでしょう。

 ちなみに、検体がちゃんと密封されて、血液が空気と触れないようになっている場合には、検体を冷やした後、検査のために37度に戻しても検査データは変わりません。

2020年6月30日火曜日

パルスオキシメーターは機能的動脈血酸素飽和度を測定しています。

 今回は手抜きです。

 タイトルについてはこちらの論文を読んでいただけば良いです。

 以前酸素飽和度は機能的酸素飽和度と分画酸素飽和度があるとお話ししました。機能的酸素飽和度は酸化ヘモグロビン÷(還元ヘモグロビン+酸化ヘモグロビン)で求められます。パルスオキシメーターはこちらを求めます(でないものもあるようですが)。

 ヘモグロビンは酸化と還元以外に一酸化炭素ヘモグロビン、メトヘモグロビンなどがあります。分母にこれら全てのヘモグロビンを入れた物が分画酸素飽和度です。

 よって、機能的酸素飽和度>分画酸素飽和度です。例えば一酸化炭素中毒では、通常のパルスオキシメーターは、一酸化炭素ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンを区別できないので、機能的酸素飽和度>>分画酸素飽和度となります。

 血液ガス分析は静脈血で行って、酸素化はSpO2で見れば良いよと言う考えは、だいたい正しいのですが、時におかしな事になるので、動脈血で血液ガス分析を行うのは大切なことです。

2020年6月29日月曜日

体温が低い患者さんは補正すべきなのか?

 低体温の患者さんが救急車で運ばれることがあります。低体温は色々な注意をしなければならない重症患者さんです。

 血液ガスデータもきちんと解析したいですね。以下の本のP.373には温度が1度低下する毎に、pHは0.015低下し、PaCO2は4.3%低下するとあります。

 ちなみに、血液ガスは、検体を37度に温めて検査をしています。体温が30度だった患者さんであっても、検体は37度に温められて検査されています。


  何故PCO2が低下するのか考えたのですが、分かりませんでした!こちらの文献も読んだのですが、、、、、、トホホ。

 ボイル・シャルルの法則と言うのがあり、PV=nRTと言う公式を覚えている方もおられると思いますが、温度が下がればPVは下がります。同じ一気圧がかかっているので、Pは下がらないのではないかと思ったのですが、PCO2もPO2も下がるのだそうです。しかし、溶解度は増えるとのことで、ちんぷんかんぷんです。私は化学が理科の中で最も苦手だったのです!

 と言うことで、化学が苦手な皆さんに朗報です。色々議論はあるようなのですが、低体温の患者さんでも、打ち出されたデータに基づいて治療をすればいいです。そのような方針をαーstatと言います。低体温患者さんが来院されたら、格好良く、「血液ガスはアルファスタットでいこう!」と言いましょう。

 また、体温の補正をしたい場合、多くの器械は患者さんの体温を入れるところがありますので、入れておけば自動的に補正されます。その際はpH-statと言うようですが、「ピーエッチスタットで行こう」と言いましょう。間違ってもペーハースタットと言わないように。若い人はピーエッチと習っているようですから。ペーハーは歳よりの証拠です。

 もっと詳しく勉強したい方は、こちらこちらのサイトをご覧ください。英語です。

2020年6月28日日曜日

溶存酸素の係数は何故0.003か

 血液中に酸素がどのぐらい含まれているか?を知るには、酸素含有量という指標が必要です。動脈であれば、CaO2と言います。

 CaO2=Hb結合酸素+溶存酸素
 =1.39×Hb濃度×酸素飽和度+0.003×PaO2

 Hb結合酸素の係数「1.39」については別に解説しましたので、良かったらご覧ください。

 さて、今日は0.003についてです。こちらのサイトに書いてありますので読んでください。勉強になりますし面白いです。高校までの化学の知識も復習になります、、、、、、たぶん。

 さて、そのサイトの3ページ目に載っていますが、溶存酸素の係数の求め方です。と言うか、普通は求める必要はありません(^^)。

 気体が液体に溶ける量は分圧に比例しますが、通常の我々の環境であれば、1気圧、つまり760mmHg中の割合に比例します。また気体によって液体への溶けやすさが違います。それを表した係数がブンゼン係数と言い、酸素は0.024だそうです。CaO2は「/dL」で表すので、PaO2が1mmHgの時の溶存酸素の量は以下の通りです。1dL=100mlです。

 1÷760×0.024×100=0.00315789

 となります。よって、溶存酸素の係数は0.003、あるいは本によっては0.0031となっています。0.0032じゃないのか?等と細かいことを言っていると女性にもてませんので注意しましょう。たぶんですが、血液は純粋な水ではありませんから、ブンゼン係数が多少変化するのでしょう。まあ、臨床ではPaO2が100であっても0.3ml/dLしかなく(CaO2は20ml/dL程度です)1.5%程度ですので、無視してCaO2=Hb結合酸素と考えても問題ない場合が多いです。

 ちなみに、何故「/dL」なのか?よく分かりませんが、Hbも「g/dL」ですので、「/dL」が扱いやすいのではないでしょうか。

2020年6月27日土曜日

条件を変更後何分経ったら血液ガスをとっていいか?

 血液ガスをいつとったら良いのか?は大変悩ましい問題です。

 患者さんの状態を緊急で判断したい場合には、酸素を今始めたばかりだろうが、人工呼吸器をつけたばかりだろうが、今すぐ採血すれば良いです。pHが7を切っているんじゃないか、PaCO2が70を超えているんじゃないか、カリウムが高いのじゃないか、乳酸がかなり高いのじゃないか?等と思う場合です。

 しかし、緊急ではなく、今酸素投与量を増やしたんだけど、この酸素の量で良いのだろうか?人工呼吸器の設定を変えたんだけど、いつ採血したら人工呼吸管理の設定がちょうどいいと判定できるのだろう?と思うことがありますよね。本には患者さんが安定したら採血をすると書かれていますが、何分経ったら安定するのでしょうか?

 今回はこちらのサイトの日本語訳です。この論文を解説してくれています。

 慢性閉塞性肺疾患(Chronic obstruction pulmonary disease;以下COPD)の患者は長期間の酸素療法と血液ガス分析(PaO2とSaO2)によるモニタリングを必要とする。酸素投与量を変更した場合に、酸素の状態を評価するための採血前に、新しい定常状態に達するまでにどのぐらいの時間が必要かは重要な問題である。

 最新のいくつかのガイドラインでは、20〜30分待つことを推奨しているが、本当にそのぐらい待つ必要があるのだろうか?この疑問に対して検討した文献が最近出版された。長期酸素投与(1〜4L/分)を1日16時間以上受けているCOPD患者12名の検討である。

 12人の患者は動脈カニュラから血液ガスを採取された。酸素投与中のベースとなるPaO2とSaO2と、酸素を中止してから、1分後、2分後、4分後、8分後、12分後、17分後、22分後、32分後、34分後に採血をした。

 その後もともと投与されていた酸素を再開し、同じインターバルで血液ガス分析を行った。最初が「wash out」であり、酸素の減量をシミュレーションしている。二番目が「wash in」であり、酸素の増量をシミュレーションしている。

 検討の結果、wash in、wash out共に、PaO2が臨床的に安定に達する平均時間は5分であった。7-8分経過すれば、75%の患者が安定状態に達した。最も長い患者は14分であった。SaO2に関しては、wash outでは平均7.4分、wash inでは2.6分であった。

 より詳細な検討により、酸素を減量した場合には16分、酸素を増量した場合には10分たてば安定したと考えて良いと結論づけられている。


 人工呼吸管理の方ではなく、慢性期のCOPDの方での検討ですので、急性期の患者さん等では使えないかもしれませんが、やはりガイドラインと同じように20分は待った方が良いと言うことになりますね。

2020年6月26日金曜日

酸素飽和度の色々

 昨日の続きです。酸素飽和度とは、ヘモグロビンにある酸素の座席がどのぐらい埋まっているか?と言う指標です。

 一番身近なものはパルスオキシメーターによって測定された酸素飽和度ですが、血液ガス分析の器械のはじき出すデータをきちんと見ると、酸素飽和度が二つあるはずです。sO2とFO2Hbなどとなっているものです。

 sO2あるいはO2SATなどと表示されている物は、機能的酸素飽和度と呼ばれています。以下の式で求められます。
 機能的酸素飽和度=酸素ヘモグロビン÷(酸素ヘモグロビン+脱酸素ヘモグロビン)

 またFO2Hbは、分画酸素飽和度と呼ばれる物で、Fはfractionの略で、酸素濃度などもFIO2とFが使われています。以下の式で求められます。
 分画酸素飽和度=酸素ヘモグロビン÷全ヘモグロビン

 分画酸素飽和度は、機能的酸素飽和度の分母に一酸化炭素ヘモグロビンとかメトヘモグロビンとか色々なヘモグロビンを足した物です。よって、分画酸素飽和度の方がやや低いのが一般的です。

 そして、昨日の計算式の係数は1.39が正式であり以下のように分画酸素飽和度を用いるべきです。
動脈血酸素含有量(CaO2)=1.39×Hb×分画酸素飽和度+0.0031×PaO2

 しかし、酸素飽和度が機能的酸素飽和度でしか求められない場合もあったりして、その際は係数が1.39では大きすぎるということなのでしょう。

2020年6月25日木曜日

酸素含有量の係数は何故1.34だったり1.35だったり、1.36だったり1.39だったりするのか?

 血液ガス分析をする時に、必須の計算ではありませんが、酸素含有量を計算する時があります。動脈血1dLに含まれる酸素の量(vol%)です。末梢組織に酸素がどのぐらい運ばれているのか?を考える時に必要です。

 ちなみにですが、大気の酸素濃度は20.9%と言いますが、割合を示しているだけで、量がどのぐらいあるかは分かりません。大気が1リットルあれば、209mlの酸素があるわけですが、100mlしかなければ、20.9mlしかありません。
 分圧も同じで、酸素分圧が100mmHgと言っても、酸素がどのぐらいあるのかはそれだけでは分かりません。
 酸素がどのぐらいあるのかは酸素含有量を計算しなければなりません。

 酸素含有量CaO2の計算式は以下の通りです。

CaO2=1.34×Hb×SaO2+0.0031×PaO2

 この係数が1.39だったり1.36だったりと本によって色々です。何故なのでしょうか?

 以前も紹介させて頂いた本のP.80には、理論上は1.39だと書いてあります。かいつまんで箇条書きにします。

 ヘモグロビンの分子量は64500
 ヘモグロビン1gは1.55×10^-5(10の-5乗)mol(1÷64500)
 ヘモグロビン1分子には酸素が4分子結合
 ヘモグロビン1gには6.20×10^-5molの酸素が結合(1.55×10^5×4)
 0度1気圧で乾燥状態の1molの気体の体積は約22.4Lなので、ヘモグロビン1gに結合している酸素は1.39ml(22.4×6.20×10^-5)

 しかし、実際に測定すると、係数は1.34だったり1.36だったりするようです。これは酸素飽和度の問題、一酸化炭素ヘモグロビンなどの量の問題だそうです。つまり1.39などの係数の後にかけるHbや酸素飽和度が異なっているからなんだそうです。

 今回はこれだけにして、次回解説します!

2020年6月24日水曜日

慢性呼吸不全の場合

 今回も内科学会雑誌からです。2020年7月号P.1421から1426です。

 慢性的にPaCO2が高いと代謝性代償が起こります。つまりHCO3が高くなります。高いと言っても30だったり40だったり50だったりします。どのぐらいまで上がるのが正常なのか?が分からないと代謝性アルカローシスや代謝性アシドーシスを合併している時に分かりません。

 それが分かる物がsignificance bandあるいはconfidence bandと呼ばれる物です。混合性代謝異常がない(どうやって調べるのでしょうかね)慢性II型呼吸不全の患者さん(二酸化炭素分圧が高いだけ)を集めHCO3がどのぐらいだったかを調べて、横軸にPCO2縦軸にHCO3をプロットした物です。

 だいたいHCO3=24+0.35×ΔPaCO2だったそうです。ΔPaCO2=PaCO2−40です。よって、HCO3はそのぐらい(±5ぐらいでしょうか)であれば代償性変化だと判断できます。

2020年6月23日火曜日

ガラスのシリンジ懐かしい!

 昔の話をすると笑われますが、私が研修医の頃はガラスのシリンジがあり、血液ガス分析にもガラスの注射器を使っていました。当時今と同じプラスチックの注射器もあったのですが、血液ガス分析にはガラスの注射器の方が良いと言われていたのです。理由は以下の通り(Dr.大塚の血液ガスのなぜ?がわかる、大塚将秀著、学研、P.36)で、それは今でも知っておいた方が良いかもしれません。

・ガラスは気体を通さないため、採血後の気密性が保たれる。プラスチックは液体を通しませんが、気体はゆっくりですが通します。
・ピストンとシリンジの死腔にヘパリンを満たすと、全く空気に触れることなく採血が出来る。
・ピストンとシリンジ間の抵抗が非常に小さいので、動脈血から採血していると言う実感がある。

 しかし、現在は専用のシリンジが開発され、値段も安くなったのと、ガラスのシリンジが廃止された(と思われます)ので今の若い人は見たこともないでしょう。落として破損する事もありましたし、毎回洗浄するのも手間がかかるためだと思われます。

 ガラスのシリンジで採血した場合、針先をゴム栓でフタをしないと血液が出てきてしまいます。血液を落とさないようにゴム栓をするコツがあったのですが、そんな技術は今は役に立ちませんね(^^)。逆に針刺しのリスクもありますし。

2020年6月22日月曜日

代謝性アシドーシスの3ステップ法

 日本内科学会雑誌2019年6月号P.1177〜1180の受け売りです。この雑誌は1年たつと、JSTAGEで公開され、一般の人でも論文に無料でアクセスできます。

 取り上げる論文は、今月6月10日頃から一般公開される予定でしたが、何故かこの論文だけ公開されません。「苦手を得意に!血液ガスOne Step more」というシリーズで第3回なのですが、何故か第1回と2回も公開されていません。何かあったのでしょうか。

 私は内科学会に入っているので雑誌は持っており、血液ガスに関しては興味を持っていましたが、この論文見逃していました。雑誌も捨ててしまい、ネットの公開を待っていたのですが、、、、、

 代謝性アシドーシスの場合には、Boston法という方法で解析すれば簡単だそうです。3つの暗算(それも足し算と引き算のみ)をするだけです。もちろんですがpHが高い時は使えません。



 アシデミア(pHが7.35未満)であれば、ステップ(1)をします。

(1)AG(Na−CL−HCO3)を計算
  AGが12以下ならAG非上昇型(non-Gap)アシドーシス ステップ(3)へ。
  AGが12以上ならAG上昇型(Gap)アシドーシス ステップ(2)へ。

(2)Na−CLを計算
  36未満なら代謝性アシドーシス(AG非上昇型)も合併している。
  36を越えるなら代謝性アルカローシスも合併している。
  36であればAG上昇型代謝性アシドーシスのみ

(3)HCO3+15を計算
  PaCO2<HCO3+15 呼吸性アルカローシス
  PaCO2=HCO3+15 呼吸性代償
  PaCO2>HCO3+15 呼吸性アシドーシス

 この方法ではアルブミン補正が入っていませんので、アルブミン補正はした方が良いでしょう。補正AG=AG+2.5×(アルブミンの正常値−Alb)です。アルブミンの正常値は4でいいでしょう。4.4という文献もありましたが、2.5×0.4=1ですので誤差の範囲です。

 Na-CLの正常値は36だけかというとそうではないでしょう。36±5ぐらいはあると思われます。Na-CLが30以下であれば明らかにnon-Gapアシドーシスがあるでしょうし、40以上であれば代謝性アシドーシスがあるでしょう。両者が合併した場合はどうなるのか?興味深いところです。

 しかし、この方法は他の方法に含まれている物です。緊急で解釈が必要なのはアシドーシスだけではないかと思いますので、緊急時には役立つのではないかと思われます。が、極論を言えば、アシデミアであればBEと乳酸を見たら良いと思います。この二つを表示しない血液ガスの器械は今の日本にはないのではないでしょうか。BEが低い、あるいは乳酸が高い、あるいは両方があればヤバいと思えば良いです。BEは使うべきでないという意見もあるのですが、私は使うべきだと思います。後でちゃんと解析すれば良いだけです。BEだけ見て終わりでは確かにいけません。

2020年6月21日日曜日

専用のシリンジは何故血液が自然に上がってくるのか?

 血液ガス分析専用シリンジのプランジャーの先端には特殊なフィルターがつけられているそうです。当院で採用しているシリンジは以下のような物です。画像をクリックすると添付文書に飛びますので参考にしてください。



 このフィルターは乾燥していると空気を通します。よって、採血すると血液がシリンジの中に上がってきます。フィルターが血液で濡れると空気を遮断するのだそうで、採血後検査器械にセットするまで、空気中のガスと血液中のガスが行き来するのを防ぎます。

 また注射器から分注するような場合、プランジャーを完全に押し込んでおいて、血液を入れてフィルターに血液を満たすと普通の注射器と同じように使えます。

 偉そうに書いていますが、この事全然知りませんでした。フィルターを血液でぬらさずにプランジャーを引いていました。

2020年6月20日土曜日

専用シリンジがない場合

 血液ガス分析を行う場合には、専用のシリンジを使って採血します。私が研修医の頃は、このシリンジは1本2000円ぐらいしたので、検査をすればするほど病院が損をするため、ガラスの注射器を使って採血をしていました。ガラスについては後日記事を書くこととして、今回は専用のシリンジがなかった場合にどうするかというお話です。

 専用のシリンジは、普通の注射器と何が違うのでしょう?

 いくつか違いがありますが、ヘパリンが入っているのが特徴です。よって、専用のシリンジではなく、普通の注射器で採血する場合には、ヘパリンを入れる必要があります。

 何故ヘパリンが必要かというと、注射器の中で血液が固まると検査結果に異常が出る可能性があります(特にヘモグロビンやヘマトクリット)。また、検査器械の中でも血液が固まると、器械が壊れてしまうので問題となります。よって、ヘパリンが必要ですが、数単位あれば良いようです。通常は1mlで1000単位のヘパリン製剤を使っていますので、0.005ml(約10分の1滴)あれば十分です。

 ヘパリンを注射器に少し吸って、プランジャー(注射器の引っ張るところ)を動かして吸ったヘパリンを全部バイアルに戻せば良いです。それでも注射器や注射針の中にヘパリンが残ります。

 ヘパリンが多すぎるとPCO2、pHが低下します。また、ヘパリンは陰イオンなので、NaやCaなどの陽イオンと一緒になっています。ヘパリンナトリウムやヘパリンカルシウムという製剤です。これらを使うと、NaやCaの検査結果に異常が出る可能性があります。その際は別に生化学検査でNaやCaをオーダーすると良いでしょう。

 ちなみに、専用のシリンジは電解質の結果に影響が出にくい、ヘパリンリチウムが使われているそうです。また乾燥しているので、血液を薄めたりする可能性はほとんどないそうです。

2020年6月19日金曜日

大気の組成は多い順に窒素、酸素、二酸化炭素?

 大気の組成は窒素が約80%で酸素が約20%、次は二酸化炭素で0.04%(以前は0.03%だったのですが、現在増えて0.04%になったそうです)と言うことは知っていましたが、なんと、二酸化炭素よりも多い気体があるのだそうです。知りませんでした。
 以下の本の一番最初に書いてありました。こちらのサイトにもありますが、アルゴンだそうです。へえ〜です!内視鏡などでアルゴンプラズマという止血装置を使いますが、アルゴンガスが漏れても大丈夫だったんですね。


 初心者向けとのことですが、ページ数が多いだけあって情報満載です。最初の章は化学の復習ですし、所々に化学の知識が満載です。高校生の時もっと勉強しておけば!と思いました。とても勉強になる本です。

2020年6月18日木曜日

AGの正常値は低くなりつつあります

 AGについての記事が続きます。

 AG=Na−(CL+HCO3)はもう頭に入りましたよね。AGはNaが低くなったり、CLやHCO3が高くなると下がります。しかし、血液中の水分が多くなったためにNaが下がった場合には、CLやHCO3も下がるかもしれませんので、何とも言えませんね。

 以前、血液ガス分析の電解質を用いて計算するとAGは低めになることを書きました。血液ガス分析では電解質を全血で測定しています。他の影響もあるのかも知れませんが、Naは低め、CLは高めに出ます。よって、AGは低めになります。よって、私は必ず血液生化学分析の電解質を計算に使っています。

 しかし、驚くべき事に、AGの正常値が低下しつつあるんだそうです。検査値の正常値が下がり続けるって、人間の進化???と思いますが、違います。詳しいことは分かりませんが、CLを測定する器械が良くなっていて、CL濃度が上昇傾向なんだそうです。

 今はAGの正常値は12±2が一番多いようですが、イオン選択電極というのでCLを測定した場合、AGの正常値は3〜11と言う文献もあるようです。

 検査の正常値も時代と共に変わっていっているのですね。

2020年6月17日水曜日

アルブミンが低いとAGが低下する理由

 昨日の続きです。アルブミンが低いと何故アニオンギャップが低下するのか?です。

 最初にUpToDateです。「Serum anion gap in conditions other than metabolic acidosis(代謝性アシドーシス以外の状況における血清アニオンギャップ)」という文献からです。

 原文は以下の通りです。

 Albumin has many positive and negative charges due to various amino acid side chains that can either release or bind hydrogen ions. The ratio of albumin's positive and negative charges changes with the pH of the solution. At pH 7.4, albumin carries approximately 20 more negative charges than positive charges (therefore each molecule has a net charge of -20). The major unmeasured anion in serum is albumin. Thus, the serum albumin must be measured and taken into account when calculating and interpreting the serum AG.

 アルブミンは様々な陽性電荷、陰性電荷を持つアミノ酸の側鎖を持つ。その側鎖は水素イオンを放出したり受け取ったりする。アルブミンの電荷は、アルブミンが溶けている溶液のpHにより変化する。pHが7.4の場合、アルブミンは陽性電荷を持つアミノ酸より陰性電荷を持つアミノ酸が20多くなる。それによりアルブミン分子は全体として−20の電荷を持つ。血清の主要な測定されない陰イオンはアルブミンである。よって血清アルブミンは必ず測定し、血清アニオンギャップを計算し、解析する場合には、アルブミン値を考慮に入れるべきである。

 と言うことです。人間の身体の中の電荷は中性になっているそうです。よって以下の式が成り立ちます。

Na+UC(測定されない陽イオン)=CL+HCO3+UA(測定されない陰イオン)

 AGの式にすると

AG=Naー(CL+HCO3)=UAーUC

 UAが減るか、UCが増えるかするとAGは低下します。アルブミンはUAなので、UAが減ればAGが減少するというわけです。また、アルブミンはたぶんpHが7.4に近いところにあるとHイオンを放出(するから陰性の電荷を持つのでしょう)するそうです。そのような物質は定義から酸です。低アルブミン血症では代謝性アルカローシスになることも分かります。

 UAが減ったらUCも一緒に減らないのか?減ればAGは変わらないじゃないかと言われるとそうなのです。しかし、何故UCが一緒に減らないのか、、、、、、今のところ分かりません。

 今分かることは、NaやCLは強イオンと呼ばれていて、水溶液中では必ずイオンに分離するそうです。よってNaなんとかとか、何とかCLになって電荷が減るということはありません。また急に外に出すことも難しいでしょうから、NaとCLはAlbの変化によって直接すぐ変化することはないのでしょう。

 HCO3は容易にイオンになったりHとくっついて二酸化炭素と水になったりします。よってUAが低下するとHCO3がその分増えて電気的中立を保とうとします。よってUAが減るとHCO3が増えて代謝性アルカローシスになります。

 昨日の若い先生に向けて。「アルブミンが減るとUAが減るからAGが減るのです!」と分かったような顔をして答えましょう、、、、、、知らんけど。

2020年6月16日火曜日

AGをAlbで補正するなんて聞いたことなかったぞ!

 アニオンギャップをアルブミン値で補正するのは、ほぼ常識になりつつありますが、そんなこと知らなかったぞ!と言う人もおられると思います。私もそうです。いつ知ったのか覚えていませんが、5年ぐらいしかたっていません。

 研修医の頃血液ガスについて勉強したし、その後もそれなりに勉強したけどな〜なんて思っていましたが、なんとこちらの論文によれば15年ほど前から言われ始めたのだそうです(論文が出たのが2018年で13年前からと書かれています)。原文は「Surprisingly, it is only within the last 13 years that a correction factor has been developed that can be introduced into clinical practice.」です。日本語にすれば「驚くべき事に補正係数が示され、それが実際の診療に紹介されてから13年程度しか経っていない」という感じです。

 また同じ文献には、有名なテキストでアニオンギャップがどう書かれているかについての表が載っており、何とセシル内科学第24版にはアニオンギャップをアルブミンで補正する記載がまったくないとのことです。こちらによればセシル内科学の原著は2020年に第26版が出ているそうです。Albの補正が書かれているか読んでみたいですが、、、、、、28699円とのことです。病院で買ってもらおう、、、、、、、

 以下の本は研修医の時に第一版を読んで、その後第二版が出たと言うことで原著を買って良く読んだ記憶があるのですが、なんと、P.128にアルブミンが低下するとAGが低下すると書かれています。補正をしなさいとは書かれていませんが、しっかり読んだはずなのに、、、、、、英語だったから仕方がないと言うことにしておきましょう。第二版で出版が止まっているのが残念です。第二版の原著は1999年に出版されています。



 よって、「先生Alb補正するのは常識ですよ!そんなことも知らないんですか?」と若い先生に馬鹿にされたら以下のように対応しましょう。

 「アルブミン補正なんて、俺が研修医の頃はなかったぞ!少なくとも2005年までは、俺は血液ガスについて最新の知識を得ていたが、そんなのは載っていなかった!最近言われ始めたんじゃないのか?」と答える。

 「俺はセシル内科学を読破したけれど、そんなこと書いてなかったぞ!えっ!今は26版なんだ、、、、、、俺は24版を読んだんだけどな。」と答える。

 「そうなんだ、アルブミンで補正するなんて知らなかったよ〜。君はよく勉強しているね。ところで、何でアルブミンが低いとAGが低くなるんだ?」と答える。

 最後の様に言われた若い先生向けの記事を明日アップする予定です。

2020年6月14日日曜日

アニオンギャップの計算にKを入れるべきか?

 血液ガス分析をするにあたって、アニオンギャップ(Anion gap;以下AG)は大切な項目です。AGが増えている時は酸が増えている事が分かるからです。AGが増えていない代謝性アシドーシスがあれば、HCO3が減った為にアシドーシスになっていると分かります。

 ご存じの通り計算式は以下の通りです。

AG=Naー(CL+HCO3

 しかし、本によっては、以下のようにKが入っています。

AG=Na+Kー(CL+HCO3

 カリウムを入れるべきか否か?について色々調べてみたのですが、これだ!というのは見つかりませんでした。例えば日本救急医学会の用語集には、K、Ca、Mgイオンの総和は約11mEq/Lでありほぼ一定なので、これらは測定できない陽イオンとして考えて良いとあります。分かったような、分からないような、、、、、

 困った時にはUpToDateです。「Serum anion gap in conditions other than metabolic acidosis」という文献にこれだ!と言う物がありました。日本語にすれば、「代謝性アシドーシス以外における血清アニオンギャップについて」と言う資料です。

 この中には、アメリカではKを含まない式を使うが、ヨーロッパではKを入れる国が多いと書かれています。何故ヨーロッパではAGの計算式にKを入れるのか?については書かれていませんでした。こちらの文献には
「As originally conceived, serum K+ was also included in the calculation, but serum K+ is included in none of the major textbooks published in the United States and only in a minority of manuscripts. 」と書かれています。日本語にすれば、「オリジナル文献には、血清カリウムイオンもAGの計算に含められていたが、アメリカで出版されている主要な教科書には載っておらず、個人的な資料の一部に書かれているのみである」という感じなのでしょうか。最初に考えた人がKを入れたんだけど、アメリカでは賛成する人があまりいなかったと言うことなのでしょうか。心肺蘇生のやり方とか、虫垂炎の保存的治療とか、欧米の対決が時々見られて面白いですね。

 また、アメリカではカリウムは測定できない陽イオンと考えられているとUpToDateには書かれています。

 こちらの文献には、KはNaに比べて低値であり、その変化はAGに大きな影響を与えないと書かれています。またカルシウムやマグネシウムに関しては、異常があっても実際にはAGに影響はほとんどなかったと書かれており、AGはNaとCL、HCO3の3つだけで計算すれば良いと言うことになります。

 簡単で良かった!

 当院の検査室とICU、救急外来
にある器械はSiemensと言う会社のもので、AGの計算にKが含まれています。ドイツに本社がある会社のようでした。なるほど。

 私は自分で血清の電解質を使って計算していますので、自動的に出てくるAGは見ていません。

2020年6月13日土曜日

貴方は血液ガスに自信がありますか?

 この論文ずっと探していました!!昔読んだ本に書いてあったのですが、その本を紛失してしまい、どうやったら検索できるかと思っていました。が、ネット記事に引用されていたのを見つけました。

Hingston DM, Irwin RS, Pratter MP, Dalen JE: A Computerized Interpretation of Arterial pH and Blood Gas Data: Do Physicians Need It? Respiratory Care 1982;27(7): 809-815.

 学生や医師(ある程度のベテランも含む)に血液ガスの講義をし、コンピューターによる血液ガス解析プログラムの話をたところ、61%は血液ガスデータ分析の基礎知識はあると答え、71%はコンピュータによる血液ガスデータ分析は不要であると返答したそうです。しかし、血液ガスデータ分析クイズをしたところ、正答率はわずか39%に過ぎなかったというものです。

 つまり血液ガス分析は理解するのが困難だと言うことです。よって血液ガスを勉強する時に大切なことは、分からなくても良いんだと言う気持ちでやることです。どうしよう!?全然分からないと言っていると、全く分からないままです。少しで良いから分かれば良いと思います!

 私は基礎知識があり、ちゃんとクイズに正解できると言える自信はありません、、、、、、でも、そうなるように日々勉強しています。

2020年6月12日金曜日

Tic-Tac-Toeによる血液ガス分析のやり方

 動画の紹介です。

 Tic-Tac-Toe法というものです。普段から血液ガスの解釈をしている方は当然のことでこんなカード使わなくてもと思うかもしれませんが、初学者の人には良いと思います。

 以下の動画を是非ご覧ください。もちろんですが、日本語音声です。



 こちらには文字で解説がありますが、英語なのでGoogle chromeで翻訳して頂けば良いかなと思います。

2020年6月10日水曜日

血液ガスの採血をしたら40秒以上撹拌しましょう。

 血液ガス検査は緊急を要する時もありますので、救急外来や集中治療室、手術室などで検査をしていることがあると思います。私が勤める病院でもその三カ所に血液ガス分析の器械があります。

 検査器械のメンテナンスは、検査技師さんなど知識のある方がしていただくことが望ましいです。誰もメンテナンスをしていないと検査結果は正しく得られないばかりか、器械が壊れてしまうかも知れません。

 さて、血液ガスの検査器械に注射器を差し込む前にどのぐらい注射器をぐるぐるしていますか???

 アメリカの Clinical and Laboratory Standards Institute(臨床・検査標準協会, CLSI)ガイドラインには、検査器械にかける前に1分以上撹拌しましょうと書かれているようです(ネットで見ようとしたら結構な額のお金が必要のようでした)。

 実際に1分ぐらい撹拌している人はどのぐらいいるでしょうか?

 こちらの文献によれば、最低40秒撹拌しなければならないようです。貧血がある患者さんでは特に長くしなければならないようです。

 正しい値を得て、患者さんに良いデータを提供できるように、きちんと撹拌しましょう。私は採血したら直ぐ自分で撹拌しながら看護師さんに渡しています。

2020年6月8日月曜日

HCO3は計算値?

 血液ガス分析のデータを見ると色々な値が載っています。最近の物は乳酸だけでなく、電解質やヘモグロビンまで載っています。他の検査がなくても血液ガス分析だけでもかなりの診断が出来そうです。

 救急科専門医の筆記試験に出題されていますが、実際に測定している項目はどれか知っていますか?

平成16年度実施救急科専門医・認定医筆記試験問題
問題10 血液ガス分析装置で計算値として表示するのはどれか。
(a)PO2
(b)PCO2
(c)pH
(d)HCO3-

(e)Hb

 この問題の答えは(d)です。pH=6.1+log([HCO3]/0.03×PCO2)なので、

[HCO3]=0.03×PCO2×10^(pH-6.1)と言う計算になります。

 しかし、アメリカなどでは血液生化学検査の項目にHCO3(正確にはtCO2)があり、血液ガスをとらないこともよくあるようです。論文(参考文献)によれば、血液ガスのHCO3(pHとPCO2から計算した値)と生化学検査で得られたtCO2はほぼ同じだという事です。日本でも血液生化学検査でtCO2(ほぼHCO3と同じ)を測定している病院があるのですね。

 普通に臨床をしているだけならあまり関係ありませんが、英語の論文を読んだり、別の病院(血液生化学でtCO2を測定している病院)の先生や外国の人と血液ガス分析についてディスカッションする場合には、血液ガスをしなくてもHCO3が出せることを知っておきましょう。

参考文献
 楠木 啓史ら:生化学分析装置における血清重炭酸塩(総 CO2)の 測定. 医学検査 Vol.67 No.1 2018

2020年6月7日日曜日

高血糖の時AGのNaは補正すべきなのか?

 以下の本に血液ガスの項目があります。



 糖尿病性ケトアシドーシスの患者さんの症例が載っていて、AGが上昇していると書かれています。本文中にAGの計算値やAGが上昇していると言う理由が述べられていません。アルブミンは書かれていませんでした。AGが上昇する一般的な解説は載っていてとても勉強になるのですが、この症例のAG上昇についての記載がないのです。

 Na123、CL98、HCO3 12.5とあり、自分で計算してみたらAGは12.5となり、上昇していません。Albの値も記載がありませんし、困ってしまったので出版社にメールをしてみました。著者の先生とはFBでお友達にさせていただいているので、直接聞いても良かったのですが、出版社を通した方が何か良いことがあるのではないかと思って(私にではなく著者の先生にですよ)出版社にメールをしてみました。何とその日のうちに著者の先生の返事が来ました(出版社を通じて)。対応が早い!!

 そのお返事には、高血糖(血糖590)の症例なので、Naの補正が必要だと書かれていました。Naを補正するとNa+1.6mEq×(血糖100mg/dL上昇あたり)=130.84となり、AGは20.34で上昇しているという計算になりますとのことでした。

 高血糖の場合に補正したNaを使うなんて聞いたことがなくて勉強になったと思い、どこかにその記載はないかと調べたところ、例えばUpToDateやいくつかのサイト(こちらこちら)には、そのままのNaを使うべきだと書かれていました。著者の先生からはカンファレンスで補正すると言う意見を聞いたことがあり、補正をするものだと思っていたとメッセージを戴き、資料も戴きました。次の版(卒後20年目総合内科医ぐらいでしょうか)で訂正しますとお返事戴きました。ありがとうございます!
 Letters to the editorに補正すべきではないと言う記載をしている文献もあり、補正する人が多かった(今も?)のでしょうか。

 少し解説すると、高タンパク血症や高脂血症の場合には、偽性低Na血症といって、ナトリウムが低く出るのですが、本当の血清中のNa値は正常です。よって、血液ガスでAGを出す場合には補正が必要です。

 しかし、高血糖の場合には、糖は電荷を持たないそうですので血糖を考慮に入れる必要はありません。また、血糖が高くなると細胞外液の浸透圧が上昇し、細胞内から水が引っ張られるので、Naだけでなく、CLやHCO3も低下します。例えば、上記の例のように、血糖が590だったとすると、Naは1.6×4.9=7.84低下するとされています。130.84が123に低下したとすると、AGは12.5だったものが11.75になります(ClもHCO3も同じ比率で低下しますから、12.5×123÷130.84です)。ほとんど差はありません。高血糖の場合には、Naは本当にその値に下がっているので、AGは電荷の平衡から考えられているので、補正をするなら全ての電解質を補正しなければならないはずです。

 よって、高血糖の患者さんでAGを計算する場合、Naを血糖で補正する必要はありません。良かった!

2020年6月4日木曜日

血液ガスがなくても想像できるように

 今日は本の紹介です。血液ガスマイスターを目指して色々勉強しています。

 世界でいちばん血液ガスが分かる本とのことで購入しました。血液ガスを一般の人にも教えているという著者の先生の本です。ええっ!?一般の人に教える必要があるの?と思いましたが、それについては書かれていませんでした。が、一般の人でも15分あれば何とか性○○○ーシスと診断できるとのことです。確かにそうかも知れないと思いました。


 この本が良いなと思ったことは、看護師さんも読者の対象としているためか、検査をケアに活かすと言う視点が貫かれていることです。血液ガスを勉強しよう!と思うと、どうしても○○性○○ーシスと診断して満足してしまいがちですが、それは手段の一つであって、目的ではないという事があちこちに書かれています。
 一番良いなと思ったのは、血液ガスが測定されていない時に、血液ガスの知識を活かそうと言うところで、例えば呼吸が早い人がいたら呼吸性アルカローシスがあるわけですが、そう言う人は呼吸性アルカローシス以外に、代謝性アシドーシスがある可能性もあるということが、血液ガスを勉強すれば分かると言うことです。

 あと代償性変化の説明を砂で説明されているのが確かに世界一分かりやすいと思いました(^^)。

 血液ガスを勉強するための最初の本としてお勧めです。2000円で安いのもポイントです。血液ガスをマスターしたという方も、後輩に伝える時の参考になると思います。是非ご購入を!

2020年6月3日水曜日

pHは何の略?

 pH(ピーエッチと読みます)と書いてペーハーと読む(ドイツ語でしょうか)のは年寄りの証拠だというのを以前書きましたが、そう知っていてもついついペーハーと言ってしまう私です。

 今まで考えたこともありませんでしたが、pHって何でpHなんでしょうか??

 なんとpower of hydrogenと言う意味なのだそうです。水素の力、何と良い言葉でしょう。以下の本に書かれていました。

 と思ったらpowerは数学の何乗という意味なんだそうです。pH7は10のマイナス7乗という意味なのだそうです。こちらのブログなどをご覧ください。


 この本は徳田安春先生の名前にひかれて購入しました。

 最初に血液ガスの解説が70ページぐらいあって、残りの70ページは問題とその解答が載っています。訳本なのですが、訳本にありがちな変な日本語(著作権?の問題からなかなか難しいらしいですが)ではなく、最初から日本語で書かれたかのような読みやすい本です。イラストもカラフルで、文字は日本語になっています。

 症例問題は、最初の方は病歴からも診断がつけられるような簡単な問題で、解釈は容易です。だんだん難しくなってpHやPCO2、乳酸などの値がエラーで測れず、NaとClだけで診断すると言う問題もあります。私は知っていたので超簡単でしたが。気になった方は是非ご購入を!

 この本から入って、興味を持ったら別の本という感じで入門書として読んでも良いのではないかと思いました。

 出版社のサイトに登録すれば、パソコンやiPadでも読むことが出来ます。電子版は便利ですが、やはり書籍も欲しいという人には良い本です。一冊分の値段で書籍と電子書籍の両方手に入り、パソコン(Macにも対応)でも読めます。素晴らしすぎます!値段は3800円と少し高めではありますが、電子版もついてくると考えれば安いのではないかと思いました。ただ、日本人の先生が書いた2000円ぐらいの本もあるので、、、、、、

 この本を買うべき理由は、症例問題でしょうね。30例載っています。なんと日本語版オリジナルの問題が6問追加になっています。日本人で良かった!

2020年5月29日金曜日

HCO3は計算値です

 以前も書きましたが、血液ガス分析のデータの中には実際に測定していないものがあります。小数点以下の数値まで出ているから正確な気がしますが、実はそうではありません。

 pH、PCO2、PO2は実際に測定していますが、HCO3やBEは計算値です。測定値にある程度誤差がありますから、当然計算値にも誤差が出ます。

pH=6.1+log([HCO3]/0.03×[PCO2])

 と言う関係がありますので、pHとPCO2が測定できれば、以下のような計算で算出できます。

[HCO3]=0.03×[PCO2]×10^(pH-6.1)

 pHが7.4だった場合、PCO2が40だったとすると、HCO3は23.94となります。色々調べたところ、PCO2は±2ぐらい誤差が出る可能性があるようです。PCO2が42でpHが7.4だとHCO3は25.14となります。PCO2が38だとHCO3は22.75となり、HCO3は2.39の幅を持った範囲になります。pHの誤差も出ると考えるともう少し幅が広くなるのでしょうか。

 よって、HCO3が5以上上がったり下がったりしているなどがなければ、誤差の範囲と考えて経過観察するのも良いかもしれません。

 例えば、こちらの論文では、二つの器械を使って計算したところ、一つの器械ではアルカローシスと診断されたのに、もう一つの器械ではアシドーシスと診断された例があると書かれています。知りませんでしたが、器械によってHCO3算出の計算方法や、係数が違っているのだそうです。

 そう言うのは大変困りますが、検査データはある幅を持った値であることを忘れないようにしたいですね。

 患者さんの状態なども考慮して、総合的に判断しなければなりません。データに惑わされないようにしましょう。

2020年5月28日木曜日

シスに注意

 シスと言えばStar Warsでは悪い人たちのことですね。血液ガスを学ぶ時にもシスが出てきます。暗黒面に落ちないように用語をしっかり勉強しておきましょう。

 アシドーシス(acidosis)とアシデミア(acidemia)の違いを説明できますか?出来る方は、この記事を読む必要はありませんが、きっとこのブログにたどり着いた方は読む必要があるでしょうね。

 まずacidは酸、alkaliは塩基(アルカリ)という意味です。emiaは何とか血症という意味で、例えば菌血症はbacteremiaと言います。osisとは状態の変化を表したり病気の名前についたりする言葉だそうです。

 アシデミア acidemia pHが7.35以下
 アルカレミア alkalemia pHが7.45以上
 アシドーシス acidosis pHを下げようとする病態
 アルカローシス alkalosis pHを上げようとする病態

 血液ガスデータを見て、「pHが7.3だね。アシドーシスだ!」と言うのはどうでしょう?
 pHを見て言えるのは、emiaです。正確には「pHが7.3だね。アシデミアだ!」と言うべきです。pHが7.3の場合、アシドーシスがなければ、pHは下がりませんので、アシドーシスがあるのは間違いないので、アシドーシスと言っても間違いではありませんが。

 アシドーシスやアルカローシスがあるかは、色々解釈しなければ分かりません。PCO2が50と高値であれば、通常は呼吸性アシドーシスですが、代謝性アルカローシスがあれば、呼吸性アルカローシスかもしれません。アシデミアがある時に、アルカローシスもあるかもしれません。

 用語はきちんと使った方がもちろんいいので、気をつけて使うようにしましょう。しかし、実際の現場では、大きな不利益はありませんね。

2020年5月27日水曜日

血液ガス分析がなくても解釈出来ます

 救急やカンファンレンスなどでよくある話ですが、こう言う患者さんにこう言った検査をして、、、、、、とプレゼンすると、「これは○○に決まってるでしょ。何で△□検査してないの!?」と言われることがあります。

 後出しじゃんけんは良くないですね。血液ガス分析では、血液ガス分析がないと解釈が出来ないかというと、そうではないのです!!これからは、何で血液ガスとってないの??と言う前に以下(こちらのサイトに書かれています)を読んで、「NaとCL、Alb値からHCO3を予測すると、30と高値を示しているから、この人は代謝性アルカローシスがあるかも知れないね」などと言うと尊敬されると思います、、、、、、知らんけど。

 詳しい説明はサイトを読んでいただくとして、以下のように計算します。なんとAnion Gapを計算する時のHCO3の代わりにAlb×2.5を入れるだけです。

予想HCO3=Na−CL−2.5×Alb

 ちなみに、欧米では血液生化学検査の一つにHCO3があるのだそうです。日本でも普及すると良いですね。

2020年5月9日土曜日

AGとは?その2

 AGについてもう少し追求してみましょう。

 まず、先日の記事にも書きましたが、アルブミンは酸ですし、AGはアルブミンが正常であるとして計算されるそうですので、アルブミンが低い(高いことはあまりありませんね)時は補正をします。

補正AG=AG+2.5×(正常アルブミン値−Alb) 正常アルブミン値は私は4としています。

 他にも例えば造影剤を投与した直後に血液ガス分析を行うとAGが低くなることがあるようです。造影剤がCL値を高くする可能性があるようで、AG=Na−(HCO3+CL)ですから、CLが高くなればAGは低下します。

 そもそも、この式はどうやって出てきたかというと、人間の身体は電気的に中性であり、陽イオンと陰イオンの和は等しいそうです。よって以下の式が作れます。

Na+UC=HCO3+CL+UA 

 UCはunmeasured cation、測定できない陽イオン、UAはunmeasured anion、測定できない陰イオンです。UCにはカリウムやマグネシウム、UAにはアルブミンやリンなども含まれますので、正確に言えば測定できるイオンも含んでいます。

 酸の定義は、Hイオンを放出する物ですので、液体中では酸は陰イオンとなります。陰イオンが増えたらアシドーシスと言うことです。よって上記の式を変形します。

Na−(HCO3+CL)=UA−UC=AG

 と考えると言うことです。酸が増えるとHイオンを放出してUAが増えます。よってAGが増加すると言うことです。アルブミンはUAに含まれていますので、低アルブミン血症ではAGが低下します。

と言うことで、内科学会雑誌(109巻2号P.260)の問題をどうぞ。

問題 アニオンギャップ(anion gap:AG)が10未満にならないものはどれか。1つ選べ。
(a)多発性骨髄腫
(b)ネフローゼ症候群
(c)高Ca血症
(d)高K血症
(e)尿細管性アシドーシス

カルシウムやカリウムはUCに含まれますので、高くなればAGが低くなることが分かりますので、(c)と(d)が×なのは直ぐ分かりますね。
(a)の多発性骨髄腫はIgGが増える病気です。IgGはUCになるそうですので、AGが低くなることがあります。しかし、UAになることもあるそうです。さすが内科学会雑誌です。
(b)ネフローゼ症候群では低アルブミン血症を認めます。朝倉内科学11版によれば、ネフローゼ症候群と診断するには、尿蛋白3.5g/日以上と低アルブミン(3g/dL以下)の両所見を認めることが必須とのことです。よって、アルブミンが低く、UAが低下しますので、AGが10未満になることもあるでしょう。
(e)はよく分からないのですが、答えは(e)だそうです。内科学会雑誌の解説によれば、「尿細管性アシドーシスはAG正常代謝性アシドーシスを呈する代表的疾患であり、AGが極端に低下することはない」とのことです。

 内科専門医になろうとする人以外は、(c)(d)が×だと言うことだけ分かれば良いのではないでしょうか。ちなみに、私はこの問題を解いた時、答えは正解しましたが、理屈が分かりませんでした。よって、この記事を書くため勉強しました。

2020年5月8日金曜日

AG(アニオンギャップ)とは?

 アニオンギャップとかAG(anion gap)という言葉が出てきます。血液ガスを測定したら自動的に計算されているはずですので、必ずチェックしましょう。また、血液ガス分析で測定された電解質で計算したAGは低めに出る(こちらの記事参照)とされていますので、自分で生化学検査も用いて計算してみましょう。

 さて、アニオンギャップって一体何なんだ?と思いますよね。なんで、そんなものを計算しなければならないのだ!と。しかし、とても重要なのです。これは一言で言えば、AGが上昇していれば酸が増えている、つまり酸が増えたために起こる代謝性アシドーシスがあると言うことです。酸が増えない代わりに重炭酸が減る代謝性アシドーシスもあります。

 臨床で大切なのは循環障害や低酸素、代謝障害などで乳酸などの酸が増えた場合です。今は乳酸値が測定できる(と言うか測定できない血液ガスの器械は、クリープを入れないコーヒーのような物、、、、、古い!)のであまり必要ないかもしれませんが、乳酸以外にも酸はありますので、是非計算したいです。

 pHが高くても、AGが高ければ代謝性アシドーシスもあるということが分かります。逆に言えば、よく分からなかったら、AGだけ見て治療すれば良いです(他の事は血液ガスを見なくても他で分かります)。AGが高い場合には、低酸素はないか、循環障害はないか、ビタミンB1欠乏はないか、糖尿病性ケトアシドーシスやアルコール性アシドーシスなどはないかチェックしましょう。これもよく分からなければ、酸素投与、輸液、ビタミンB1投与などを行なえば良いです。

 分かりやすい講義や著書で有名な田中竜馬先生は、血液ガスの講義でアニオンギャップを必ず計算しましょう!と語っておられました。是非やってみましょう。

2020年5月7日木曜日

トレーニング問題にトライ!

 日本内科学会雑誌の去年の6月号から12月号には、血液ガスについての文献がシリーズで載っていました。1年たつとネットにて無料で見られるようになりますので、内科学会員でない方や、雑誌捨てちゃったよ!と言う方は、6月までのお楽しみです。

 今回は今年の2月号のP.261ページに載っていたトレーニング問題を紹介します。まず解いてみてください。

問題 次の血液検査所見より、正しい酸塩基の解釈はどれか。二つ選べ。
動脈血液ガス:pH 7.40、PO2 100mmHg、PCO2 40mmHg、HCO3 24.0mEq/L。
血液生化学:血清アルブミン1.4g/dL、Na 140mEq/L、K 4.0mEq/L、CL 104mEq/L。
(a)酸塩基平衡異常なし。
(b)AG正常
(c)AG正常型代謝性アシドーシス
(d)AG増加型代謝性アシドーシス
(e)代謝性アルカローシス

 全く分からない時の解き方をまず書いてみます(ちゃんと解きたい人に答えが見えないようにとの配慮です(^^))。出題者は回答者に間違えさせようとしますので、複数の選択肢に同じ言葉があったらチェックです。AGは3つの選択肢に、アシドーシスは二つの選択肢、正常という言葉もあります。全部がある(c)はまず○です。pHは正常ですので、アルカローシスがないとなり立ちません。よって、正解は(c)と(e)です。が、正解は(d)と(e)でした。
 残念、、、、、、、

 もちろん、分かるように勉強しておくべきですが、分からない時には、このように解いてみましょう。あたる可能性は高いと思います(って説得力なし)。しかし、救急科専門医の試験問題も、それで解ける物が結構あります。多湖輝さんという方の本に書かれていました。試験監督をしていた時に、専門外の試験だったので試験問題がちんぷんかんぷんで、どうやったら正解が出せるか考えたのだそうです(心理学の先生です)。

 さて、まじめに解説してみます。確かに正常値がずらっと並んでおり、(a)の異常なしが○と思ってしまいますね。血液ガスを分析する場合、必ずAGを計算すべきで、多くの器械は自動的に計算値を出してくれますが、私は必ず血液生化学の値を使って自分で計算します(血液ガスの電解質はNaが低め、CLが高めに出るので、AGは低めに出ます)。
 AG(アニオンギャップ)を計算してみます。AG=Na−(HCO3+CL)=12でこちらも正常です(器械によってはNa+K−(HCO3+CL)となっているので注意)。他の問題に記載されているAGの正常値は8〜16だそうです。すると(b)も○としてしまいそうです。

 しかし!この問題のポイントは、アルブミンです。アルブミンが異常に低いことに気付けば正解です!アルブミンは血液中でHイオンを放出してAlbイオン(陰性)となるそうです。酸はHを放出する物と定義されていますので、アルブミンは酸です。よって、アルブミンが低い場合は、代謝性アルカローシスがあります。よって(e)がまず○になります。
 pHが正常なのでアシドーシスがないとなり立ちません。PCO2は正常なので、代謝性アシドーシスがあるはずです。AGが正常だったので(c)が○かと思いますが、ここでもアルブミンが関連します。AGはアルブミンが正常であると仮定して出される値だそうですので、アルブミンで補正する必要があります。補正AG=AG+2.5×(4−Alb)=18.5となりますので、AGは増加しています。よって(d)も○です。
 学会誌の解説では正常アルブミンを4.4としており、補正AGは19.5となっていますが、大きな違いはありません。

 ちなみに、ΔAG=AG−12を計算すると、6.5であり、補正HCO3=HCO3+ΔAG=30.5であり、やはり代謝性アルカローシスがあると判断できます。補正HCO3はAGの上昇がないと仮定した場合のHCO3です。

 偉そうに書いていますが、私はこの問題(e)が○はすぐ正解できましたが、補正AGを出すのを忘れて、(c)を○としてしまいました。普段は電子カルテにコピペ文が入れてあって、それに従って補正AGも計算していますが、問題を解く時は、はしょってしまいました。反省も込めてこの問題を紹介させて頂きます。

2020年5月3日日曜日

術後などの代謝性アルカローシスは良い傾向でもあります

 重症患者さんの状態が良くなってくると、血液ガス分析で代謝性アルカローシスとなることが多いです。代謝性アルカローシスの治療に詳しくないと、状態が良いのに何で?と不安になりますよね。しかし、最初に結論を言っておきましょう。

 代謝性アルカローシスになってきたら、患者さんは良くなってきたと考えて良いです。
 そして、たいてい何もしなくて良いです。

 理由を以下に述べます。

 まず、代謝性アルカローシスになる理由です。代謝性アルカローシスは、HCO3が高くなる状態です。よって、多くはHCO3が血中にたくさん放出される場合が多いです。腎不全でもHCO3が高くなるようですが、経験したことないですし、今回は状態が良くなっている患者さんでの場合ですので、考えなくて良いでしょう。
 重症患者さんには大量の点滴、輸血などが行われます。点滴には乳酸が含まれているものが多いです。私がよく使う乳酸リンゲル液はもちろん乳酸が入っています。また3号液であるソルデム3Aにも乳酸が入っています。輸血には血液を固まらないようにする薬が入っており、例えば赤血球輸血にはクエン酸が含まれています。これら乳酸、クエン酸は代謝されるとHCO3となります。

 今分からないので後日記事にしたいと思いますが、重症になった時に上昇した乳酸は代謝されてHCO3になるはずですが、きっと、これは減ったBB(Buffer Base)を補充するのに使われるので影響はないでしょう(自信はない)。

 よって、重症患者さんはHCO3の元を大量に投与されているので、状態が良くなればHCO3が作られ、代謝性アルカローシスになります。

 次に、代謝性アルカローシスを放置して良い理由です。

 人間はHCO3を腎臓から大量に排泄する能力があります。よって、何かなければ代謝性アルカローシスは維持されません。また、代謝性アルカローシスがあると問題になる事がなければ治療の必要はありません。例えば、CRPが高くてもCRPを下げる治療をしません(原因を治療して結果的に下げることはしますが、CRPを取り除く治療はしませんよね)。これはCRPそのものが悪さをしないからです。

 代謝性アルカローシスは以下のような問題を起こす可能性があります。

・低カリウムを引き起こす。
・代償性に呼吸性アシドーシスを起こし、低酸素になるかも知れない。
・ヘモグロビン酸素解離曲線を左方移動させるため、末梢でヘモグロビンが酸素を離しにくくなる。

 逆に言えば、上記に問題がなければ、放置で良いと言うことです。
 カリウムは正常か高めであれば、カリウムのフォロー(通常重症患者さんが回復しているのであれば、定期的に採血しますし、一緒にカリウムも測りますよね)をすればいいし、低ければカリウムは補充すべきですね。
 人工呼吸中の患者さんであれば、人工呼吸器の離脱に支障をきたすかも知れませんが、ゆっくり離脱しても良いかもしれません。人工呼吸中していない方であれば、肺が悪いなどの人でなければ、ほとんど問題にならないでしょう。
 酸素を離しにくくなる事については、どうなんでしょう?気にしたことありませんが、時々思い出すと良いかもしれません。

 よって、術後や急変した患者さんの血液ガスをとって、HCO3が高くなっていたら、安心して良いと思います。例外はもちろんありますので、きちんと血液ガスを解釈する必要はありますね。

2020年3月18日水曜日

HCO3+15の続き

 昨日紹介した論文のタイトルは「Bedside rule secondary response in metabolic acid-base disorders is unreliable」です。日本語にすれば、「代謝性アシドーシスにおける代償性反応を簡単に予想できる式は信頼できない」と言う感じです。

 原文を読んでみました(ネットでは雑誌の購読者しか読めませんが、ある方法で原文を手に入れました)。

 ハリソン内科学やUpToDate、American College of Physicians guidelineにも、HCO3+15が紹介されていて、不正確だから削除すべきだという内容です。

 ハリソンは持っていないのですが、UpToDateはたぶん「Approach to the adult with metabolic acidosis(成人の代謝性アシドーシスへのアプローチ)」という文献で、Winterの式、HCO3+15以外に以下を紹介しています。

 pHの小数点以下とPCO2が同じという物です。pHが7.25ならpCO2は25ぐらいだというのです。

 これら三つとも使用できると書いています。

 論文では、代謝性アシドーシスではWinterの式とHCO3+15、代謝性アルカローシスでは0.7×([HCO3]−24)+40とHCO3+15を比較して、差がある(最大6)から良くないと書いているのですが、もしかしたらHCO3+15の方が正しいのかも知れないのに、それについてのコメントはありませんでした。

 そもそも、例えばHCO3が15だった場合の正しい?PCO2はいくらなのかどうやって決めるのでしょうか?

 人間の身体は色々ですし、Winterの式も±2なので、最大4の差があるわけですから、簡単に15を足すということで良いのではないかと思いました。

 気になる方は、電子カルテにひな形を入れておけば良いと思います。簡単にコピー出来ますから、代謝性アシドーシスでは40−1.25×(24−[HCO3])、代謝性アルカローシスでは40+0.75×([HCO3]−24)と書いておいて計算すれば良いかもしれません。
 もっと気になる方は、全ての方法で計算して比較し、どれを採用するか考えたら良いと思います。

 しかし、呼吸性アルカローシスと判断しても呼吸性アシドーシスと判断しても、大切なのは患者さんの状態であり、あまり厳密に考える意義はないのかもしれません。単純に患者さんの状態とPCO2の値だけで今後の介入を考えても良いでしょう。

 なので、私はHCO3+15、あるいはpHの小数点以下がPCO2と言う簡単な物をお勧めします。大切なことは、これらは不正確な可能性があると知っていることです。禁忌な治療であっても、禁忌だと知っていればやって問題ないです。それでもやりたいわけですし、禁忌である理由(その為に起こり得る副作用)に気をつけますので。

2020年3月17日火曜日

PCO2=HCO3+15はだめ?

 以前代謝性アシドーシスや代謝性アルカローシスの場合に、PCO2がHCO3+15位になればちょうど良い代償性変化だと書きました。
 しかし、最近読んだHospitalistと言う雑誌の特集に、HCO3+15は「勧められない」と書かれていました。

 がーん!!

 その雑誌はHospitalistの最新刊で、Vol.7、P.868-875, 2019です。内科エマージェンシーの特集で「代謝性アシドーシス」のところです。

 こちらの論文で不正確だと指摘されているそうで、以下の式(Winters formula)を推奨しています。

PCO2=1.5×[HCO3]+8±2

 濃度を表す時には、[]を使うのが正しいのだだそうです。きっと学生時代に習ったんでしょうが、忘れてしまいました、、、、、、また、本当はHCO3の後に「-」等電荷を上付きでつけなければなりませんが、入れ方が分かりません、、、、、、すみません。

 以前紹介した本「酸塩基平衡の考え方(南江堂)」のP.108-109には、両者の計算値が載っています。一番正しい?PCO2の予想は、代謝性アシドーシスでは予想PCO2=PCO2−(24−HCO3)×1.25だそうで、代謝性アルカローシスでは、予想PCO2=PCO2+(HCO3−24)×0.75だそうです。

 HCO3+15は、HCO3が正常値から外れるに従って予測値と大きく差が出てきます(と言っても4は越えない)。
 Winters formulaは、代謝性アシドーシスに限って使う物のようですが、軽度のアシドーシスの時には予測値と外れています(が同じように4は越えません。何とHCO3が24の時が一番差が大きい)。

 よって、代謝性アルカローシスと軽度の代謝性アシドーシスではHCO3+15を用い、HCO3が14を切るぐらいの重症な代謝性アシドーシスではWinnters fomulaを使うのが良いかもしれません。しかし、Winterus fomulaは±2と言うのがついていて、曖昧ですよね。

 と言うか、最初から代謝性アシドーシスならHCO3の変化×1.25を引き、代謝性アルカローシスならHCO3の変化×0.75を足せばイイじゃない!ってことになりませんかね。アシドーシスは1.25、アルカローシスは0.75を覚えるのが大変なので、+15を覚えれば良いので、HCO3+15で良いんじゃないでしょうか。人間の身体は計算通りにはいきませんしね。

<今回の極論ポイント>
 呼吸性代償はやはりHCO3+15で良いでしょう。

2020年3月13日金曜日

Stewart法を用いた解釈

 昨日の症例です。


 高齢の男性が、著明な循環血液量減少にて来院されました。意識は清明でしたが、脈拍数は135/分で血圧は100前後でした。

血液ガス分析のデータ
pH 6.785
PCO2 28.5 mmHg
PO2 226 mmHg(酸素10リットル/分投与)
HCO3 4.2 mmol/L
BE -30.7 mmol/L
Lac 19.15 mmol/L

血液生化学検査のデータ
Na 127 mEq/L
K 4.6 mEq/L
CL 92 mEq/L
P 16.9 mg/dL
Alb 2.4 g/dL


 Stewart法では、血液ガス分析以外にNaとCL(血液ガス分析で出てくるNa、CLを用いるとNa-CLの差が小さくなりがち)、アルブミンとリンをオーダーしておくのでした。


①アルブミンとリンを見る。

 アルブミンとリンは酸になります(水溶液中で水素イオンを放出するそうです)。これらが低い場合はアルカローシス、高い場合にはアシドーシスとなります。一般的にアルブミンは低く、リンは高い時が影響があります。アルブミンが高いことはあまりなく、リンはもともと低いので、低くなっても大きな影響は少ないためです。

 この患者さんでは低アルブミン血症があり、高リン血症がありますので、代謝性アルカローシスとアシドーシスどちらもあります。


②Na-CLを見る

 35であり、ほぼ正常です。正常値は36程度とされています。AG=Na-CL-HCO3より、Na-CLが低下する場合には、AGかHCO3、場合により両方が低下しています。

Na-CLが上昇する場合は、AGかHCO3、あるいは両方が上昇していると考えられます。

AGが上昇してHCO3が低下、あるいはAGが低下してHCO3が上昇などすれば大きな変化はありません。


③SID(strong ion difference)を計算する。

SID=HCO3+2.8×Alb(g/dL)+0.6×P(mg/dL)

 2.8とか0.6は単位をそろえるための係数です。覚えなくても良いです。計算すると21.06となります。かなり低下しています。SIDが低下している場合はアシドーシス、上昇している場合にはアルカローシスですので、この患者さんはアシドーシスがあります。


④SIDギャップを計算する。

 SIDギャップ=Na−CL−SIDです。通常はゼロになります。±2の範囲にあれば問題ありません。この患者さんでは、13.94と著明に上昇しています。これは酸が増えていることを示します。


⑤NaとCLが増えているのか減っているのか考える。

 低ナトリウム血症がある場合、補正CLを計算します。

補正CL=CL×140÷Na

 この患者さんは101となり正常ですが、Naは127と低下しています。


⑥PCO2を考える。

 PCO2はHCO3+15ぐらいであれば問題ありませんが、それより高ければ呼吸性アシドーシス、低ければ呼吸性アルカローシスを合併していると考えます。この患者さんはHCO3+15=19.6であり、PCO2はそれより高いため呼吸性アシドーシスがあると考えます(これは昨日の記事の通常法と同じですね)。


 まとめると以下のようになります。

呼吸性アシドーシス

低アルブミンによる代謝性アルカローシス

高リン血症による代謝性アシドーシス

酸の増加による代謝性アシドーシス

Naの低下すなわち希釈による代謝性アシドーシス


 気管挿管をして人工呼吸管理を開始、必要ならアルブミンを投与、腎機能障害がありましたので血液浄化を、細胞外液補充液を大量投与となるでしょう。メイロンの投与は推奨されていないので使わないでしょう。

 昨日と比較して何か治療に大きな変化があるかと言えば、ないような気もします。手間がかかる割に、大きな利益がないため、Stewart法はなかなか普及しないのかも知れません。

2020年3月12日木曜日

著明な循環血液量減少の患者さん

 高齢の男性が、著明な循環血液量減少にて来院されました。意識は清明でしたが、脈拍数は135/分で血圧は100前後でした。

血液ガス分析のデータ
pH 6.785
PCO2 28.5 mmHg
PO2 226 mmHg(酸素10リットル/分投与)
HCO3 4.2 mmol/L
BE -30.7 mmol/L
Lac 19.15 mmol/L

血液生化学検査のデータ
Na 127 mEq/L
K 4.6 mEq/L
CL 92 mEq/L
P 16.9 mg/dL
Alb 2.4 g/dL

AG 35 アルブミン補正をすると 36.56

 まず酸素化能です。
 A-aDO2=(760-47)×0.9−226−28.5÷0.8=380.1となるため、激しい酸素化能障害があります。代償性ショック状態ですので大量輸液と気管挿管となりました。

 pH<7.4でPCO2<28.5のため、これは代謝性アシドーシスであると分かります。
 代謝性変化の時は、PCO2=HCO3+15程度であれば代償の範囲だと分かります。計算すると19.2であり、PCO2はそれより高いです。よって、呼吸性アシドーシスを伴っています。
 ΔAG=36.56−12=24.56で、補正HCO3=HCO3+ΔAG=28.76となり、軽度の代謝性アルカローシスも伴っています。もしかしたら、AGが上昇しない代謝性アシドーシスもあるかも知れません。

 診断をまとめると以下のようになります。

酸素化能障害(気管挿管が必要)
呼吸性アシドーシス
AG上昇型代謝性アシドーシス
代謝性アルカローシス(AG非上昇型代謝性アシドーシスもあるかも)

 次回はこの患者さんをStewart法で解釈します。

2020年3月6日金曜日

HCO3 act、standって何?

 血液ガス分析のデータを良く見てみると、HCO3はHCO3 actとかHCO3 standとか書かれています。当院は「HCO3act」となっています。PO2とか書かれていますし、下付き文字が難しいようですね(HCO3の3が下付に見えますが、フォントの関係です)。

 研修医の時に疑問に思って検査室の人に聞いた記憶があるのですが、分からないと言われてしまい、当時はインターネットも普及していない時代だった(パソコンも持っていませんでした)ので、そのままになっていました。しかし、最近勉強して見つけました!

 結論から言えば、いくつかのHCO3が書かれていたら、act(正確にはacutual)だけ見れば良いです。

 actual HCO3は、pHとPCO2から計算された値です。HCO3は実際に測定していないんですよ。知っていましたか?計算式はpH=6.1+log(HCO3/0.03×PCO2)の関係から計算できます。

 HCO3 standはstandard HCO3の略です。これは、PCO2を40mmHgとした場合のHCO3の値です。呼吸性の異常がなければ、HCO3 actとHCO3 standは同じ値だそうです。定義から言えばそうですね。

act>stand 呼吸性アシドーシス
act<stand 呼吸性アルカローシス

 だと、こちらのサイトからダウンロードできるPDFファイルのP.88に書いてありました。

 酸塩基平衡の考え方(丸山一男著、南江堂)P.17には、HCO3 standが高ければ代謝性アルカローシス、低ければ代謝性アシドーシスと考えて良く、代償性変化をするHCO3actよりも重視する先生がいると書かれています。

 う〜ん、よく分かりませんし、当院のデータにはHCO3 standが出てきませんので、このデータは忘れても良いですね!HCO3 actのactは気にしないで良いと言うことだけ覚えておきましょう。

2020年3月5日木曜日

電解質は生化学検査で判断しましょう

 血液ガス分析をすると、たぶん今使っている器械であれば、一緒にナトリウムとカリウム、クロールとカルシウムが測定されると思います。自動的にAG(アニオンギャップ)が計算されて、非常に便利です。

 しかし、血液ガス分析で出されたAGはやや低めに出るそうです。それは電解質を全血で測定しているため、Naはやや低く、CLはやや高めに出るそうです。AGはNa-CL-HCO3ですので、Naが下がってCLが上がれば低くなります。

 面倒ですが、生化学のNaとCLを使いましょう。ちなみにですが、偽性低ナトリウム血症は血液ガス分析の器械では起こらないようなので、生化学検査でナトリウムが低い場合、血液ガスでも低ければ、偽性低ナトリウム血症は除外して良いのかもしれません。当院は浸透圧が至急で測定出来るので、浸透圧をオーダーすれば良いですが、経営を考えて出来るだけ検査を少なくしたければ、血液ガス分析で判断しても良いかもしれませんね(当院では、救急車で来た患者さんは、看護師さんが静脈血の血液ガス分析をルチンにしてくれます)。

 例えば、ある重症な患者さんのデータを示します。

血清Na 127
  K 4.75
  Cl 92
血糖 375
血液ガスでのNa 132.4
血液ガスでのCl 99
HCO3 4.2

自動で計算されたAG 34.0(たぶんAG=Na+K−CL−HCO3で計算している)
血液ガスの値を用いて計算 29.2
血清を用いて計算されたAG 30.8

そんなに大きな差はありませんが、1.6程度AGが低くなっています。

この事を血液ガス分析の器械を売っている業者さんに言ったら、うちは血液ガス分析が専門で、電解質測定はオプションですので、、、、、、、と言われたと言う噂です。

2020年2月29日土曜日

乳酸値上昇は失神より痙攣発作を疑わせます

一時的な意識障害の患者さんが来られた時に、失神なのか痙攣なのか鑑別に困ることがあります。救急外来では痙攣が治まっていることが多いですし、現場を目撃した人がいないとなおさらです。

そんなときに役立つのが乳酸です。例えば以下のような60歳ぐらいの女性のデータを示します。

pH 7.063
PaCO2 43.7 mmHg
PaO2 393.7 mmHg
HCO3 12.2 mmol/L
BE −17.6mmol/L
Anion Gap 30.2 mmol/L
Lac 13.47 mmol/L

100%酸素投与下でのデータで、この方は意識障害が続いており、痙攣も目撃されていたので、データがなくても分かりますが、乳酸値が非常に高いです。乳酸値が2.5以上かどうかで判断すると、感度73%、特異度97%とのことです。こちらのブログをご覧ください。

他にもアンモニアやプロラクチン、CKが有用のようですが、一番大事なのは問診と身体所見であることはお忘れなく。

2020年2月28日金曜日

一酸化炭素中毒の場合

 今日は一酸化炭素中毒の場合です。まず患者さんが来院した時に血液ガスをとるべきかどうか?が問題です。一酸化炭素中毒の症状や診察所見は多彩で、3分の1は見逃されていると言う報告があるようです。

 こちらの文献(総合診療 29 163-168, 2019)によれば、「寒い時期に熱がなくて、臓器がしぼれない症状が主訴の人」を見つけたら、静脈でも良いので血液ガスをとりましょうとあります。

 血液ガスデータは一見正常ですが、CO-Hbが高値です。が、喫煙者は高いことが多いですし、時間が経っていれば正常値の場合もありますし、正常値だからといって一酸化炭素中毒を否定できず、感度は低いです。が、15%以上あれば高いと考えて良いとされています。

 CO-Hbとは一酸化炭素と結合したヘモグロビンで、これは酸素とは結合できません。一酸化炭素は酸素の200倍ヘモグロビンと結合しやすいそうです。そうなるとヘモグロビン結合酸素が減りますので、酸素含有量が減ります。酸素含有量は、以前やりましたね。

動脈血酸素含有量(CaO2)=ヘモグロビン結合酸素 + 溶存酸素
            =1.34×Hb×SaO2 +0.003×PaO2

 通常のパルスオキシメーターは、一酸化炭素ヘモグロビンと酸素ヘモグロビンの区別が出来ません。血液ガスデータのSaO2は計算値ですので、一酸化炭素中毒の時の正確な酸素飽和度は分かりません。しかし、ヘモグロビン結合酸素が低下しているのは間違いないので、溶存酸素を増やす必要があります。

 血液ガス分析にCO-Hbがない場合には、是非入れてもらいましょう。もしそれが無理だったり、血液ガスを測定できない状況で、一酸化炭素中毒を疑った場合には、ちゅうちょなく酸素を全開で投与しましょう。高濃度酸素が危険ということが最近言われていますが、短時間ならば全然大丈夫です!!

 また高濃度酸素を吸っていると一酸化炭素の半減期が短くなるそうですから、高濃度酸素を投与するのは大切ですね。

<今回の極論ポイント>
 一酸化炭素中毒を疑ったら、まよわず酸素を大量に投与しましょう。

2020年2月27日木曜日

急性呼吸性アシドーシスではBEは低下しません

 一昨日の続きです。BE(ベースエクセス;base excess)は、代謝性アシドーシスを素早く判定するための指標だと書きました。よって?急性呼吸性アシドーシスでは変化しないとのことです。

 今回はその理由を書いてみます。

 まず、急性呼吸性アシドーシスでは、PaCO2が1上昇すると、HCO3が0.1上昇するそうです。以下のような反応が起こるからだとされています。

CO2+H2O→H2CO3→Hイオン+HCO3

Hイオンは、BB(バッファーベース)中のAlbイオンなどと結合し、BBが減ります。しかし、HCO3が同じ量出来ていますので、BBは減りません。BEはBBが減ると低下するとされていますので、これだけでBEは低下しないことが分かりますが、それらについては、また後日(私がまだ理解していないから)。

BE=HCO3-24.2+16.2×(pH-7.4)

でした。例えばPaCO2が40から50に上昇したとすると、HCO3は1上昇し、25になるとします。

pH=6.1+log(HCO3/0.03/PaCO2

なので、代入して計算(関数電卓を使用しました)すると、pHは7.32になりました。

計算すると、BEは-0.496でほとんど正常です。

同じようにPaCO2が60に上昇したとすると、HCO3は26となり、pHは7.26で、BEは-0.468となりました。

確かに急性呼吸性アシドーシスではBEは低下しないようです。

2020年2月25日火曜日

BEは見なくても良いです(もちろん見ても良いです)

 BE(ベースエクセス;base excess)は、一目で代謝性アシドーシスを見つけるための指標のようで、緊急時にはよく使われています。BEが低い場合には、HCO3も低く、代謝性アシドーシスがあると考えて良いことが多いです。詳しくは省きますが、急性の呼吸性アシドーシスではBEは低下しません。

 BEは以下のような式で計算されます(一例です。色々あるようです)。

BE=HCO3−24.8+16.2×(pH−7.4)

 機械の業者さんによって違うようですが、上記のように、BEとHCO3はほぼ一対一です。

 しかし、色々限界があることも知っておかなければなりません。それは以下の通りです。

・低アルブミン血症では高くなる。
・pHの値がおかしい(HCO3とは逆の方向に呼吸性代償が強く働いた時など)場合にはHCO3と解離する。
・HCO3の変化が一次的な変化なのか、代償による変化なのかを区別できない。

 一つずつ説明します。低アルブミン血症ですが、以前書いたようにアルブミンは血液中でHイオンとAlbイオンに分離します。分離してHイオンを出す物質は酸と言う定義でした。よって、アルブミンは酸ですので、アルブミンが低くなれば、代謝性アルカローシスになります。BEはアルブミンが正常であるという前提で計算されるそうです。

 pHの値がおかしい場合です。HCO3が低くなったのに、呼吸性アルカローシスが合併し、pHが上昇した場合、BEの低下はそれほどでもなくなります。同じようにHCO3が高くなったのに呼吸性アシドーシスが合併してpHが低下した場合、BEの変化は少なくなります。

 代償かどうかについては、BEがHCO3とpHのみで決められていますから、区別がつきにくいです。

 一説によれば、昔は乳酸などが測定できなかったので、緊急時にBEを見て代謝性アシドーシスがあるなと思うような状況だったようですが、今は乳酸を測らない血液ガスは、クリープを入れないコーヒーのような(古い!)ものですので、BEを見る必要はないかも知れません。

 が、簡単に計算できるので、たぶん10年後にも、血液ガス分析のデータにはBEが計算され続けるでしょう。tCO2みたいに。

2020年2月22日土曜日

アニオンギャップは自分で計算しましょう

血液ガス分析を行うと、通常は電解質(ナトリウムとカリウム、クロールやカルシウム)が一緒に測定され、自動的にAG(アニオンギャップ;anion gap)が計算されます。緊急時にAGが上昇(12以上を上昇と考えます)していると、アシドーシスがあって、以下のような病態だなと分かります。

糖尿病性ケトアシドーシス
アルコール性ケトアシドーシス
乳酸アシドーシス
腎不全
サリチル酸(アスピリン)中毒
その他

日本救急医学会の用語解説集より

しかし、私もそうですし、「酸塩基平衡の考え方(南江堂)」にもそう書いてありましたが、特に重症患者さんでは、AGが低い人が多いです。AGは低アルブミン血症があると低くなりますので、以下のような補正を行う必要があります。

補正AG=AG+2.5×(4−Alb)

しかし、それを行っても、やはりAGが低い人が多いです。その理由は、血液ガス分析で測定されたNaとCLの問題です。血液ガス分析では血清ではなく全血で測定するために、Naはやや低く、CLはやや高く出てしまうようです。よって、AGは低くなります。

よって面倒ですが、血清NaとCL、それから血液ガスのHCO3を使って計算した方が良いと思われます。

2020年2月14日金曜日

慢性的にPCO2が高い人は急激にCO2ナルコーシスになるかも

CO2ナルコーシスはなかなか難しい病気なのです(私も詳しくは分かりません)が、たぶん知らない医療従事者はいないぐらいに有名です。よって、慢性呼吸不全の人に酸素をやってはいけないということがよく言われます。これについては議論があって、別に記事を書いた気がしますが、後日また書きます。

今回はもともとCO2が高い人は、急激に意識レベルが低下する可能性があることをお話しします。

先日意識レベルが急に低下して、血液ガスをとったらPaCO2が100以上あったという患者さんがいたようです。そんな急に意識レベルが低下するのか不思議だったのですが、昨日引用させていただいた文献に載っていました。右上の図は、昨日も紹介したこちらの文献から引用させていただきました(半井悦郎ら:呼吸管理に必要な呼吸生理. 日集中医誌.2008;15:49 56.)。縦軸がPaCO2(動脈血二酸化炭素分圧)で、横軸が分時換気量です。動脈血二酸化炭素分圧が高い人は、上の図でa点の様なところにあります。グラフの傾きが急になっています。よって、換気量が少し減っただけでPaCO2が急激に上昇することが分かりますね。

非常に勉強になりました。

2020年2月13日木曜日

肺胞気式でPCO2を何故呼吸商で割るのか?

 肺胞気式という式があります。肺の一番末端である肺胞に、酸素がどのぐらい存在するのか?を計算する式です。肺胞にどのぐらい酸素があるのかを直接測定できないため、とても重要な式です。以下に示します。

PAO2=PIO2-PACO2/R

 簡単な式ですが、用語の解説を以下にします。

 PAO2は肺胞の酸素分圧を示します。Pは分圧、その次の文字は、大文字だと気体中の測定値を示し、小文字だと液体中の測定値を示します。Aはalveolarと言う英語の略で肺胞という意味です。
 PIO2は、吸入したガスの酸素分圧です。通常PIO2=(760-47)×FIO2で示されます。760は1気圧です。標高の高いところで測定した場合には、760より低くなります。47は37度における飽和水蒸気圧で、肺胞に行くまでに吸入したガスは加湿されますので、水蒸気が圧を奪うと言うことです。体温は37度と仮定しています。低体温だったらどうするのか?等とやり出すときりがないので、通常の診療では、37度として考えて良いです。
 FIO2は吸入酸素濃度です。FIO2は50%等と言いますが、正確には、0.4と言います。Fはfractionの略で、分数とか小数という意味があるようです。酸素を吸っていない場合には、FIO2は0.21程度ですので、PIO2=713×0.21=150程度になります。
 PACO2は肺胞における二酸化炭素分圧です。これは直接測定できませんが、二酸化炭素は容易に肺胞と血液の間を行き来出来ますので、ほぼPACO2=PaCO2です。動脈血二酸化炭素分圧ですね。これは血液ガスで測定できます。
 Rは呼吸商と呼ばれる物で、通常の生活をしている人は0.8です。酸素を10使って二酸化炭素を8排泄していると言う状態です。

 よって、肺胞気式を簡単に書けば、PAO2=150-PaCO2/Rとなります。

 ところで、何故Rで割るのか考えたことがありませんでした。田中竜馬先生の本に書かれていて、田中先生も感動しませんか?と書いておられますが、私も何度目かに読ませていただいてやっと感動しました!

 肺胞気式のPaCO2は、PaCO2(つまりPAO2)が直接分圧を横取りするから入っているのではなく、消費される酸素の量を示すために入っているのです。

 詳しく知りたい方は、こちらの論文に計算式が載っています。理解するのに時間がかかりました(私だけ?)が、なかなか面白いです。

2020年1月2日木曜日

HCO3に15を足してみましょう

 呼吸性アシドーシスやアルカローシスがあるかどうかをチェックする場合、HCO3に15を足しましょう。超簡単ですね。

 例えばHCO3が15と低値(24程度が正常値です)を示す、代謝性アシドーシスであったばあい、15に15を足して30程度が予想されるPaCO2です。
 もし、PaCO2が40であれば、CO2は正常範囲ですが、代謝性アシドーシスの代償が不十分であり、呼吸性アシドーシスもあると考えます。また、PaCO2が25であった場合、やはり、PCO2が低いので呼吸性アルカローシスがあると考えます。
 これはどんな場合にも当てはまるそうです。

 よって、血液ガスをとったらHCO3に15を足してしましょう。そして、PacO2がその値と同じ位であれば、PaCO2が下がっていたとしても、それは代償の範囲であると考えることが出来ます。

2020年1月1日水曜日

低アルブミン血症があると代謝性アルカローシスになります

 皆様あけましておめでとうございます。

 今年はこのブログをもっと頻繁にアップしたいと考えました。よろしくお願いします。

 さて、今年の最初はアルブミンです。私も知りませんでしたが、アルブミンは酸なのだそうです。酸とは「水溶液中で電離して、水素イオンを生じる物質」と定義されています。

 アルブミンは血液中でHイオンを放出しますので酸となります。

 よって、アルブミンが低くなる(高くなることはあまりないので初心者は考えなくて良いでしょう。私も初心者)と代謝性アルカローシスになります。

 私の受持患者さんは、血液ガスをとると代謝性アルカローシスの人が多かったので、ずっと疑問に思っていたのですが、これを知ってとてもスッキリしました!生理食塩水を入れても治るはずはなく、アルブミンが上がるように栄養管理をする以外にないと言うことが分かりました。

<今回の極論ポイント>
 血液ガス分析をしたら、低アルブミン血症がないかチェックしましょう。