2021年9月30日木曜日

アニオンギャップはアルブミンで補正すべきか?

 アシドーシスについて調べていたら、フランスのガイドラインを見つけました。興味深い記載が多かったので少しずつ紹介させて頂きます。原文はこちらのガイドラインをご覧ください。


 今回はアニオンギャップをアルブミンで補正すべきか?についてです。以下は原文です。


In case of metabolic acidosis, is the plasma anion gap corrected for albumin better than the uncorrected plasma anion gap in differentiating acid excess from base deficit? 

 代謝性アシドーシスでは、酸の増加と塩基の欠乏を区別するために、アニオンギャップをアルブミンで補正する方が良いのか?

R1.3—The anion gap corrected for albumin should probably be used rather than the uncorrected anion gap to differentiate acidosis related to acid load from acidosis related to base deficit (GRADE 2+, STRONG AGREEMENT).

 酸の増加と塩基の欠乏を区別するために、アニオンギャップをアルブミンで補正することはたぶん有用である。

Rationale Although most clinical data are prospective, they are scarce and observational. Comparisons between the corrected anion gap* (cAG) and the uncorrected anion gap** (AG) show either no difference [1516] or superiority of cAG [1719]. Most authors consider that the pathological threshold is cAG or AG>12 mmol/L. The physiological AG is mainly composed of phosphate and albuminate (weak anion from blood albumin). Consequently, hypoalbuminemia leads to a decrease in plasma albuminate and so to a decrease in AG. Hence, a normal AG associated with hypoalbuminemia corresponds to the presence of plasma acids, which replace albuminate to normalize AG. Taking the albumin level into account in the calculation of AG unmasks plasma acids when there is hypoalbuminemia. So, cAG is greater than AG, particularly in a population of patients with a high risk of hypoalbuminemia, as is the case for patients in intensive care or patients with malnutrition, hepatopathy, chronic inflammation, or urinary loss of albumin.

根拠 ほとんどの臨床データは前向き研究であるが、エビデンスが十分ではなく、観察研究である。補正アニオンギャップ(cAG)と補正していないアニオンギャップ(AG)の比較では、有意差や有用性は認められなかった。多くの研究者はcAGやAGが12mmol/Lを越えると病的だと考えている。AGの上昇は主にリン酸イオンとアルブミンイオン(アルブミンは血液中では弱い陰イオンである)で形成されている。低アルブミン血症があると血清アルブミンイオンが低下し、AGも低下する。よって、低アルブミン血症がある場合の正常AGは、酸の存在を示す。つまり、酸の増加によるAGの上昇があっても、低アルブミン血症によってAGが正常化する。AGの計算時にアルブミン濃度を考慮する事は、低アルブミン血症時における血清酸濃度を明らかにする。よって、低アルブミン血症のある患者さんでは特に、cAGはAGよりも高い。同様に集中治療室の患者や栄養不良の患者、肝障害、慢性炎症、尿中へのアルブミン喪失などの病態でもAGが低下する。

* cAG=AG+(40−[albuminemia])×0.25, with albuminemia in g/L.

** AG=Na+−(Cl+HCO3)=12±4 mmol/L (or AG =(Na++K+)−(Cl+HCO3)=16±4 mmol/L).


 このガイドラインの文章はよく分からないところもあります(私の英語の独か威力の問題が一番大きいと思いますが)が、補正アニオンギャップを計算しても有用だというエビデンスはないというのはビックリでした。しかし、計算するだけですので、是非やりましょう。日本と外国ではアルブミンの単位が違う(日本はg/dL)ので、補正式の係数は0.25ではなく、2.5です。


 どちらにしても、アルブミンは全体として陰イオンであると言うことは覚えておきましょう。


 それから、日本語は区別されていなかったりしてややこしいのですが、ここで出てくるphosphateはリン酸イオン(PO43-)で、リン酸phosphoric acidとは厳密には区別しなければなりません。アルブミンもalbminではなく、albuminateとなっていることに注意です。


2021年9月10日金曜日

ASTとALTの関係

  ASTとALTはほぼ毎日測定される検査だと思います。私のような年寄りにとってはGOT、GPTの方がなじみがあります。最近やっとGOTはAST、GPTはALTだとすらすら言えるようになりました。


 さて、私が学生の時に、大学の病院実習で内科研修医の先生が、「私はGPT>GOTだったら正常範囲内だったとしても肝炎などを疑っています。過剰診療かも知れないけど。」と言っていたのを覚えています。そんなものかなあ?位にしか思っていませんでしたが、超優秀な先輩だったんだなと思います。以下に理由を述べます。


 ASTもALTも全身の細胞に多く含まれる酵素です。しかし、破壊される細胞の量などから、一般的には肝臓、筋肉、血液などの破壊を疑います。そして、ほぼ全ての細胞でASTの方が圧倒的に多く含まれています。よって細胞が破壊された、あるいは大量に破壊され続けている場合には、AST>ALTとなります。異常がない場合にもAST>ALTです。

 ASTの半減期は半日程度、ALTは2日程度とALTの方が半減期が長いそうです。よって、細胞破壊が終わった、あるいは破壊が軽度になった場合は、AST<ALTとなります。門脈、胆管周囲(門脈と胆管はほぼ同じ所を走行しています)の肝細胞にはALTが多く含まれているそうで、それらを破壊する病気(慢性肝炎、胆道疾患)では急性期でもALTが多くなります。


 さあ、今日から肝機能を見る時は、ああ、AST>ALTになっているなと思ってみましょう。もし、AST<ALTだったらあれ?と思えるように!

2021年9月9日木曜日

CLを気にしましょう

  一般臨床ではCLは軽視されていると思います。たぶんですが、多くの病院ではCLだけをオーダーすることがないです。私の知る範囲ではNaとCLはセットでオーダーとなっています。血液ガス分析で検査した場合でもCLは自動的に検査されます。


 常にNa-CLを計算している!と言う方がおられたらすみません。是非多くの方に広めてください。


 さて、CLが低い場合は、HCO3が増えているかアニオンギャップ(AG)が増えているかどちらかだと思われますが、低ナトリウム血症の場合も低下します。


 低ナトリウム血症の時は補正CLを計算してみましょう。簡単な計算です。

 補正CL=CL×140÷Na


 簡単でしょ。是非計算して頂き、低い場合にはCL欠乏による代謝性アルカローシスを疑いましょう。


 あとCLが高い場合はHCO3が低下した場合と思われます(AGはそれほど低下できません)。しかし、ブロム(睡眠薬中毒など)やヨード(PAMや造影剤投与後など)によって偽性高値を示す場合もあります。覚えておきましょう。


参考文献

米川修:苦手を得意に!血液ガスOne step more:臨床検査領域編:アニオンギャップ(AG)の有効な使い方−pitfallを絡めて−. 日本内科学会雑誌108:2507-2511, 2019

(内科学会雑誌は発行されてから1年たつとJ-STAGEの内科学会の所に載りますが、何故かこのシリーズの文献は載っていません)

2021年9月8日水曜日

雑誌の特集の紹介

  今回は手抜きです。総合診療という雑誌の9月号は検査の特集です。もう古いからしなくて良いのではないかという検査、今後やっていくべき検査について解説されています。



 一番最初はFENaはいらないのではないかという記事です。よく計算するようにしていたのでショックですが、やらなくて良いとなると楽かもしれません。じゃあどうするかというと問診や身体所見、尿所見で総合的に考えると言うことです。まあ、仕方ないですね。


 日々あまり考えずに検査をオーダーしている自分を反省することが出来ました。