乳酸アシドーシスの時、乳酸が上昇した分だけAnion Gap(アニオンギャップ;以下AG)が上がりそうですが、実際はそうではありません。AGの上昇は、乳酸上昇(mmol/L)×0.6ぐらいだそうです(他にも色々式があるようですが)。今回はAGの上昇と乳酸値が同じぐらいの患者さんが来られました。AGの上昇と乳酸値の上昇は関連がない場合もあり、乳酸値は必ず測定すべきだそうです。普通測定するやろと思いますが、私の前の職場では測定できていたのに検査データとして報告がされていませんでした。私は測れないんだと思っていました。何てこった!
ショック状態の90歳女性が運ばれてきました。血液ガスは以下の通りでした。
pH 7.073
PCO2 19.3 Torr(呼吸数40/分)
PO2 210.7 Torr(リザーバーマスクで酸素6L/分投与)
HCO3 5.5 mmol/L
BE -22.8 mmol/L
Na 140 mmol/L
K 4.5 mmol/L
CL 106 mmol/L
Lac 16.37 mmol/L
まず酸素化能を評価します。リザーバーマスクで6L/分投与でしたので、だいたいFIO2は0.6です。A-aDO2は193 Torrで上昇(正常値は色々提唱されていますが、年齢×0.3以下というのを私は使っています)しており、酸素化能障害があります。この方は心不全でした。ご家族は人工呼吸管理を希望されませんでしたので、気管挿管をせずに管理しました。残念ながら入院後直ぐに亡くなりました。
次に酸塩基平衡ですが、私は最初にNa-CLを計算しております。この方は140−106=34で正常(正常は30−40です)ですが、Anion Gap上昇型の代謝性アシドーシスの存在は否定できません。また複数の異常が存在する可能性もあります。
田中竜馬先生の本の読み方に従えば、STEP1としてまずpHを見ます。pHは7.35より低く、アシデミアがあります。
次にSTEP2で呼吸性か代謝性かを判断します。PCO2が低いため(低ければアルカローシスになりますから)、アシデミアの原因は代謝であり、HCO3は5.5 mmol/Lと著明に低下(正常値は24前後)しています。代謝性アシドーシスがあります。
次のSTEP3では代償が適切かを見ます。代謝性アシドーシスではHCO3が1mmol/L低下する毎に、PCO2が1.2Torr程度低下します。HCO3は5.5mmol/Lと正常値の24mmol/Lから18.5mmol/L低下していますので、PCO2は18.5×1.2Torr低下します。よってPCO2は17.8Torr(40−18.5×1.2)ぐらいになるはずで、測定値は19.3Torrですので良い感じですね。呼吸性代償が適切にされていると思われます。ちなみに呼吸数は40回/分でした。適切な呼吸性代償ではありますが、呼吸が早すぎますので、いずれ呼吸筋疲労がきてしまいますよね。やはり人工呼吸が必要でした。
STEP4ではAGを計算してみます。Na-CL-HCO3=28.5mmol/Lで正常値の12mmol/Lより16.5もmmol/L上昇しています。この方は何故かアルブミンが測定されていませんでしたが、1週間ほど前の採血があり、その際は3g/dLでした。クレアチニンやBUNが1週間前より上昇しており、軽度血液濃縮があったとしてアルブミンが3.5g/dL程度になっていたと考えると、補正AGはAG+(4−3.5)×2.5=29.75mmol/Lとなります。
ΔAG=AG−12を計算すると、17.75mmol/Lとなり、補正HCO3=HCO3+ΔAG=22.25mmol/Lとなりますので代謝性アルカローシスはなさそうです。
まとめるとこの方は
酸素化能障害
AG上昇型代謝性アシドーシス(乳酸高値)
呼吸性代償
があると思われます。この方は乳酸の上昇とAGの上昇がほぼ一致していました。乳酸高値の原因は著明な心不全による心源性ショックで、全身の代謝が上手くいっていなかったからでしょう。
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