2020年3月13日金曜日

Stewart法を用いた解釈

 昨日の症例です。


 高齢の男性が、著明な循環血液量減少にて来院されました。意識は清明でしたが、脈拍数は135/分で血圧は100前後でした。

血液ガス分析のデータ
pH 6.785
PCO2 28.5 mmHg
PO2 226 mmHg(酸素10リットル/分投与)
HCO3 4.2 mmol/L
BE -30.7 mmol/L
Lac 19.15 mmol/L

血液生化学検査のデータ
Na 127 mEq/L
K 4.6 mEq/L
CL 92 mEq/L
P 16.9 mg/dL
Alb 2.4 g/dL


 Stewart法では、血液ガス分析以外にNaとCL(血液ガス分析で出てくるNa、CLを用いるとNa-CLの差が小さくなりがち)、アルブミンとリンをオーダーしておくのでした。


①アルブミンとリンを見る。

 アルブミンとリンは酸になります(水溶液中で水素イオンを放出するそうです)。これらが低い場合はアルカローシス、高い場合にはアシドーシスとなります。一般的にアルブミンは低く、リンは高い時が影響があります。アルブミンが高いことはあまりなく、リンはもともと低いので、低くなっても大きな影響は少ないためです。

 この患者さんでは低アルブミン血症があり、高リン血症がありますので、代謝性アルカローシスとアシドーシスどちらもあります。


②Na-CLを見る

 35であり、ほぼ正常です。正常値は36程度とされています。AG=Na-CL-HCO3より、Na-CLが低下する場合には、AGかHCO3、場合により両方が低下しています。

Na-CLが上昇する場合は、AGかHCO3、あるいは両方が上昇していると考えられます。

AGが上昇してHCO3が低下、あるいはAGが低下してHCO3が上昇などすれば大きな変化はありません。


③SID(strong ion difference)を計算する。

SID=HCO3+2.8×Alb(g/dL)+0.6×P(mg/dL)

 2.8とか0.6は単位をそろえるための係数です。覚えなくても良いです。計算すると21.06となります。かなり低下しています。SIDが低下している場合はアシドーシス、上昇している場合にはアルカローシスですので、この患者さんはアシドーシスがあります。


④SIDギャップを計算する。

 SIDギャップ=Na−CL−SIDです。通常はゼロになります。±2の範囲にあれば問題ありません。この患者さんでは、13.94と著明に上昇しています。これは酸が増えていることを示します。


⑤NaとCLが増えているのか減っているのか考える。

 低ナトリウム血症がある場合、補正CLを計算します。

補正CL=CL×140÷Na

 この患者さんは101となり正常ですが、Naは127と低下しています。


⑥PCO2を考える。

 PCO2はHCO3+15ぐらいであれば問題ありませんが、それより高ければ呼吸性アシドーシス、低ければ呼吸性アルカローシスを合併していると考えます。この患者さんはHCO3+15=19.6であり、PCO2はそれより高いため呼吸性アシドーシスがあると考えます(これは昨日の記事の通常法と同じですね)。


 まとめると以下のようになります。

呼吸性アシドーシス

低アルブミンによる代謝性アルカローシス

高リン血症による代謝性アシドーシス

酸の増加による代謝性アシドーシス

Naの低下すなわち希釈による代謝性アシドーシス


 気管挿管をして人工呼吸管理を開始、必要ならアルブミンを投与、腎機能障害がありましたので血液浄化を、細胞外液補充液を大量投与となるでしょう。メイロンの投与は推奨されていないので使わないでしょう。

 昨日と比較して何か治療に大きな変化があるかと言えば、ないような気もします。手間がかかる割に、大きな利益がないため、Stewart法はなかなか普及しないのかも知れません。

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