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2020年6月22日月曜日

代謝性アシドーシスの3ステップ法

 日本内科学会雑誌2019年6月号P.1177〜1180の受け売りです。この雑誌は1年たつと、JSTAGEで公開され、一般の人でも論文に無料でアクセスできます。

 取り上げる論文は、今月6月10日頃から一般公開される予定でしたが、何故かこの論文だけ公開されません。「苦手を得意に!血液ガスOne Step more」というシリーズで第3回なのですが、何故か第1回と2回も公開されていません。何かあったのでしょうか。

 私は内科学会に入っているので雑誌は持っており、血液ガスに関しては興味を持っていましたが、この論文見逃していました。雑誌も捨ててしまい、ネットの公開を待っていたのですが、、、、、

 代謝性アシドーシスの場合には、Boston法という方法で解析すれば簡単だそうです。3つの暗算(それも足し算と引き算のみ)をするだけです。もちろんですがpHが高い時は使えません。



 アシデミア(pHが7.35未満)であれば、ステップ(1)をします。

(1)AG(Na−CL−HCO3)を計算
  AGが12以下ならAG非上昇型(non-Gap)アシドーシス ステップ(3)へ。
  AGが12以上ならAG上昇型(Gap)アシドーシス ステップ(2)へ。

(2)Na−CLを計算
  36未満なら代謝性アシドーシス(AG非上昇型)も合併している。
  36を越えるなら代謝性アルカローシスも合併している。
  36であればAG上昇型代謝性アシドーシスのみ

(3)HCO3+15を計算
  PaCO2<HCO3+15 呼吸性アルカローシス
  PaCO2=HCO3+15 呼吸性代償
  PaCO2>HCO3+15 呼吸性アシドーシス

 この方法ではアルブミン補正が入っていませんので、アルブミン補正はした方が良いでしょう。補正AG=AG+2.5×(アルブミンの正常値−Alb)です。アルブミンの正常値は4でいいでしょう。4.4という文献もありましたが、2.5×0.4=1ですので誤差の範囲です。

 Na-CLの正常値は36だけかというとそうではないでしょう。36±5ぐらいはあると思われます。Na-CLが30以下であれば明らかにnon-Gapアシドーシスがあるでしょうし、40以上であれば代謝性アシドーシスがあるでしょう。両者が合併した場合はどうなるのか?興味深いところです。

 しかし、この方法は他の方法に含まれている物です。緊急で解釈が必要なのはアシドーシスだけではないかと思いますので、緊急時には役立つのではないかと思われます。が、極論を言えば、アシデミアであればBEと乳酸を見たら良いと思います。この二つを表示しない血液ガスの器械は今の日本にはないのではないでしょうか。BEが低い、あるいは乳酸が高い、あるいは両方があればヤバいと思えば良いです。BEは使うべきでないという意見もあるのですが、私は使うべきだと思います。後でちゃんと解析すれば良いだけです。BEだけ見て終わりでは確かにいけません。

2020年6月7日日曜日

高血糖の時AGのNaは補正すべきなのか?

 以下の本に血液ガスの項目があります。



 糖尿病性ケトアシドーシスの患者さんの症例が載っていて、AGが上昇していると書かれています。本文中にAGの計算値やAGが上昇していると言う理由が述べられていません。アルブミンは書かれていませんでした。AGが上昇する一般的な解説は載っていてとても勉強になるのですが、この症例のAG上昇についての記載がないのです。

 Na123、CL98、HCO3 12.5とあり、自分で計算してみたらAGは12.5となり、上昇していません。Albの値も記載がありませんし、困ってしまったので出版社にメールをしてみました。著者の先生とはFBでお友達にさせていただいているので、直接聞いても良かったのですが、出版社を通した方が何か良いことがあるのではないかと思って(私にではなく著者の先生にですよ)出版社にメールをしてみました。何とその日のうちに著者の先生の返事が来ました(出版社を通じて)。対応が早い!!

 そのお返事には、高血糖(血糖590)の症例なので、Naの補正が必要だと書かれていました。Naを補正するとNa+1.6mEq×(血糖100mg/dL上昇あたり)=130.84となり、AGは20.34で上昇しているという計算になりますとのことでした。

 高血糖の場合に補正したNaを使うなんて聞いたことがなくて勉強になったと思い、どこかにその記載はないかと調べたところ、例えばUpToDateやいくつかのサイト(こちらこちら)には、そのままのNaを使うべきだと書かれていました。著者の先生からはカンファレンスで補正すると言う意見を聞いたことがあり、補正をするものだと思っていたとメッセージを戴き、資料も戴きました。次の版(卒後20年目総合内科医ぐらいでしょうか)で訂正しますとお返事戴きました。ありがとうございます!
 Letters to the editorに補正すべきではないと言う記載をしている文献もあり、補正する人が多かった(今も?)のでしょうか。

 少し解説すると、高タンパク血症や高脂血症の場合には、偽性低Na血症といって、ナトリウムが低く出るのですが、本当の血清中のNa値は正常です。よって、血液ガスでAGを出す場合には補正が必要です。

 しかし、高血糖の場合には、糖は電荷を持たないそうですので血糖を考慮に入れる必要はありません。また、血糖が高くなると細胞外液の浸透圧が上昇し、細胞内から水が引っ張られるので、Naだけでなく、CLやHCO3も低下します。例えば、上記の例のように、血糖が590だったとすると、Naは1.6×4.9=7.84低下するとされています。130.84が123に低下したとすると、AGは12.5だったものが11.75になります(ClもHCO3も同じ比率で低下しますから、12.5×123÷130.84です)。ほとんど差はありません。高血糖の場合には、Naは本当にその値に下がっているので、AGは電荷の平衡から考えられているので、補正をするなら全ての電解質を補正しなければならないはずです。

 よって、高血糖の患者さんでAGを計算する場合、Naを血糖で補正する必要はありません。良かった!

2020年3月18日水曜日

HCO3+15の続き

 昨日紹介した論文のタイトルは「Bedside rule secondary response in metabolic acid-base disorders is unreliable」です。日本語にすれば、「代謝性アシドーシスにおける代償性反応を簡単に予想できる式は信頼できない」と言う感じです。

 原文を読んでみました(ネットでは雑誌の購読者しか読めませんが、ある方法で原文を手に入れました)。

 ハリソン内科学やUpToDate、American College of Physicians guidelineにも、HCO3+15が紹介されていて、不正確だから削除すべきだという内容です。

 ハリソンは持っていないのですが、UpToDateはたぶん「Approach to the adult with metabolic acidosis(成人の代謝性アシドーシスへのアプローチ)」という文献で、Winterの式、HCO3+15以外に以下を紹介しています。

 pHの小数点以下とPCO2が同じという物です。pHが7.25ならpCO2は25ぐらいだというのです。

 これら三つとも使用できると書いています。

 論文では、代謝性アシドーシスではWinterの式とHCO3+15、代謝性アルカローシスでは0.7×([HCO3]−24)+40とHCO3+15を比較して、差がある(最大6)から良くないと書いているのですが、もしかしたらHCO3+15の方が正しいのかも知れないのに、それについてのコメントはありませんでした。

 そもそも、例えばHCO3が15だった場合の正しい?PCO2はいくらなのかどうやって決めるのでしょうか?

 人間の身体は色々ですし、Winterの式も±2なので、最大4の差があるわけですから、簡単に15を足すということで良いのではないかと思いました。

 気になる方は、電子カルテにひな形を入れておけば良いと思います。簡単にコピー出来ますから、代謝性アシドーシスでは40−1.25×(24−[HCO3])、代謝性アルカローシスでは40+0.75×([HCO3]−24)と書いておいて計算すれば良いかもしれません。
 もっと気になる方は、全ての方法で計算して比較し、どれを採用するか考えたら良いと思います。

 しかし、呼吸性アルカローシスと判断しても呼吸性アシドーシスと判断しても、大切なのは患者さんの状態であり、あまり厳密に考える意義はないのかもしれません。単純に患者さんの状態とPCO2の値だけで今後の介入を考えても良いでしょう。

 なので、私はHCO3+15、あるいはpHの小数点以下がPCO2と言う簡単な物をお勧めします。大切なことは、これらは不正確な可能性があると知っていることです。禁忌な治療であっても、禁忌だと知っていればやって問題ないです。それでもやりたいわけですし、禁忌である理由(その為に起こり得る副作用)に気をつけますので。

2020年3月13日金曜日

Stewart法を用いた解釈

 昨日の症例です。


 高齢の男性が、著明な循環血液量減少にて来院されました。意識は清明でしたが、脈拍数は135/分で血圧は100前後でした。

血液ガス分析のデータ
pH 6.785
PCO2 28.5 mmHg
PO2 226 mmHg(酸素10リットル/分投与)
HCO3 4.2 mmol/L
BE -30.7 mmol/L
Lac 19.15 mmol/L

血液生化学検査のデータ
Na 127 mEq/L
K 4.6 mEq/L
CL 92 mEq/L
P 16.9 mg/dL
Alb 2.4 g/dL


 Stewart法では、血液ガス分析以外にNaとCL(血液ガス分析で出てくるNa、CLを用いるとNa-CLの差が小さくなりがち)、アルブミンとリンをオーダーしておくのでした。


①アルブミンとリンを見る。

 アルブミンとリンは酸になります(水溶液中で水素イオンを放出するそうです)。これらが低い場合はアルカローシス、高い場合にはアシドーシスとなります。一般的にアルブミンは低く、リンは高い時が影響があります。アルブミンが高いことはあまりなく、リンはもともと低いので、低くなっても大きな影響は少ないためです。

 この患者さんでは低アルブミン血症があり、高リン血症がありますので、代謝性アルカローシスとアシドーシスどちらもあります。


②Na-CLを見る

 35であり、ほぼ正常です。正常値は36程度とされています。AG=Na-CL-HCO3より、Na-CLが低下する場合には、AGかHCO3、場合により両方が低下しています。

Na-CLが上昇する場合は、AGかHCO3、あるいは両方が上昇していると考えられます。

AGが上昇してHCO3が低下、あるいはAGが低下してHCO3が上昇などすれば大きな変化はありません。


③SID(strong ion difference)を計算する。

SID=HCO3+2.8×Alb(g/dL)+0.6×P(mg/dL)

 2.8とか0.6は単位をそろえるための係数です。覚えなくても良いです。計算すると21.06となります。かなり低下しています。SIDが低下している場合はアシドーシス、上昇している場合にはアルカローシスですので、この患者さんはアシドーシスがあります。


④SIDギャップを計算する。

 SIDギャップ=Na−CL−SIDです。通常はゼロになります。±2の範囲にあれば問題ありません。この患者さんでは、13.94と著明に上昇しています。これは酸が増えていることを示します。


⑤NaとCLが増えているのか減っているのか考える。

 低ナトリウム血症がある場合、補正CLを計算します。

補正CL=CL×140÷Na

 この患者さんは101となり正常ですが、Naは127と低下しています。


⑥PCO2を考える。

 PCO2はHCO3+15ぐらいであれば問題ありませんが、それより高ければ呼吸性アシドーシス、低ければ呼吸性アルカローシスを合併していると考えます。この患者さんはHCO3+15=19.6であり、PCO2はそれより高いため呼吸性アシドーシスがあると考えます(これは昨日の記事の通常法と同じですね)。


 まとめると以下のようになります。

呼吸性アシドーシス

低アルブミンによる代謝性アルカローシス

高リン血症による代謝性アシドーシス

酸の増加による代謝性アシドーシス

Naの低下すなわち希釈による代謝性アシドーシス


 気管挿管をして人工呼吸管理を開始、必要ならアルブミンを投与、腎機能障害がありましたので血液浄化を、細胞外液補充液を大量投与となるでしょう。メイロンの投与は推奨されていないので使わないでしょう。

 昨日と比較して何か治療に大きな変化があるかと言えば、ないような気もします。手間がかかる割に、大きな利益がないため、Stewart法はなかなか普及しないのかも知れません。

2020年2月25日火曜日

BEは見なくても良いです(もちろん見ても良いです)

 BE(ベースエクセス;base excess)は、一目で代謝性アシドーシスを見つけるための指標のようで、緊急時にはよく使われています。BEが低い場合には、HCO3も低く、代謝性アシドーシスがあると考えて良いことが多いです。詳しくは省きますが、急性の呼吸性アシドーシスではBEは低下しません。

 BEは以下のような式で計算されます(一例です。色々あるようです)。

BE=HCO3−24.8+16.2×(pH−7.4)

 機械の業者さんによって違うようですが、上記のように、BEとHCO3はほぼ一対一です。

 しかし、色々限界があることも知っておかなければなりません。それは以下の通りです。

・低アルブミン血症では高くなる。
・pHの値がおかしい(HCO3とは逆の方向に呼吸性代償が強く働いた時など)場合にはHCO3と解離する。
・HCO3の変化が一次的な変化なのか、代償による変化なのかを区別できない。

 一つずつ説明します。低アルブミン血症ですが、以前書いたようにアルブミンは血液中でHイオンとAlbイオンに分離します。分離してHイオンを出す物質は酸と言う定義でした。よって、アルブミンは酸ですので、アルブミンが低くなれば、代謝性アルカローシスになります。BEはアルブミンが正常であるという前提で計算されるそうです。

 pHの値がおかしい場合です。HCO3が低くなったのに、呼吸性アルカローシスが合併し、pHが上昇した場合、BEの低下はそれほどでもなくなります。同じようにHCO3が高くなったのに呼吸性アシドーシスが合併してpHが低下した場合、BEの変化は少なくなります。

 代償かどうかについては、BEがHCO3とpHのみで決められていますから、区別がつきにくいです。

 一説によれば、昔は乳酸などが測定できなかったので、緊急時にBEを見て代謝性アシドーシスがあるなと思うような状況だったようですが、今は乳酸を測らない血液ガスは、クリープを入れないコーヒーのような(古い!)ものですので、BEを見る必要はないかも知れません。

 が、簡単に計算できるので、たぶん10年後にも、血液ガス分析のデータにはBEが計算され続けるでしょう。tCO2みたいに。

2019年12月31日火曜日

Stewart法を勉強しましょう、リンをオーダーしましょう

 最近Stewart法という血液ガス分析の方法が注目されているようです。私も勉強中ですが、非常に面白いです。是非皆さんも!

 英語が得意な方は、こちらのサイトなどいかがでしょうか。

 私もしっかり離解していないので、一つずつ、、、、、、、

 取りあえず、血液ガス分析、生化学検査としてNa、CL、リン、アルブミンを測定します。

 それを用いて強イオン差(SID)を計算します。SIDは以下の二通りで計算できます。
①Na-CL
②HCO3+Alb(mEq/L)+P(mEq/L)
  =HCO3+Alb(g/dL)×2.8+P(mg/dL)×0.6

 通常両者は同じなのですが、差が出る場合があり、①-②をSIDギャップと言います。

 今回は書きませんが、②とSIDギャップ、Na、CL、Alb、Pの6つが高いか低いかで代謝性アシドーシスの鑑別が出来るそうです。

 少しずつ勉強しましょう。

<今回の極論ポイント>
 血液ガスをオーダーしたら、アルブミンとリンもチェックしてみましょう。オーダーする習慣がなければ、今度からオーダーしましょう。

2018年3月23日金曜日

低体温再び

 低体温の患者さんが来られました。自宅内で倒れていたとのことです。SpO2が測定できず、酸素4L/分で投与されていました。グッドジョブです!直腸温を測定したところ、30.8度でした。体温が低いため(循環血液量が減少していたのも原因かもしれません)血管が収縮しており、SpO2が測定できなかったのでしょう。救急はオーバートリアージですので、低酸素を除外できないのであれば酸素投与が原則です!

pH 7.147
PCO2 24.1 mmHg
PO2 180.3 mmHg
HCO3 8.1 mmol/L
BE -19.0 mmol/L
AnionGap 28.4 mol/L
乳酸 2.10 mol/L

 著明な代謝性アシドーシスと代償性の呼吸性アルカローシスでしょうか。採血では横紋筋融解と循環血液量減少が疑われました。大量輸液をして、加温をして入院となりました。

 前回の記事を参考にしていただくとよいですが、血液ガス検査は検体を37度にして検査をします。よって低体温の場合には、実際の値と異なる可能性があります。しかし、通常はそれを考慮せず、データとして表示されたものをそのまま解釈して問題ないようです。

2018年3月22日木曜日

乳酸が高い患者さん

 一昨日の投稿に関連するかも知れません。

 85歳の男性が呼吸困難で来院されました。SpO2が測定できなかったようで、高流量酸素を投与されて救急車で搬送されました。

pH 7.460
PCO2 14.1 mmHg
PO2 181.0 mmHg
HCO3 9.8 mol/L
Base Excess -12.1 mol/L
Na 130.5 mEq/L
K 4.42 mEq/L
CL 109 mEq/L
乳酸値 7.27mmol/L

 一昨日の文献を参考にすれば、この人は呼吸性アルカローシスで、それに伴って乳酸アシドーシスが来ていると考えることが出来ます。

 また通常に読めば、pHは7.4を越えて代償することはありませんので、この方はアルカローシスが主体であるという事になります。

 しかし、臨床症状などを考慮すると、循環不全によって嫌気性代謝が亢進しており、そのために乳酸が出たのだろうと考えました。

 こちらのスライドを見ていただくと乳酸に関する色々が書かれていて興味深いです。この患者さんは栄養不良があったので、ビタミンB1不足を疑って、ビタミンB1を投与しました。

2017年12月29日金曜日

体温が30度の患者さん

 外で倒れていたと言う事で搬入された90歳の男性です。体温は30度でしたが、意識は清明で、体温以外のバイタルサインに異常はありませんでした。

pH 7.279
PCO2 38.4 mmHg
PO2 71.9 mmHg
HCO3 17.6 mmol/L
BE −9.5 mmol/L
Na 142.6 mEq/L
K 4.66 mEq/L
CL 108 mEq/L
AnionGap 21.7 mmol/L
Lactate 6.82 mmol/L

 血液ガスの検査は体温が37度だと仮定して検査をするようです。この人はそれよりも7度も体温が低いので、患者さんの体内でのデータと、出された結果には違いがないのでしょうか?実はあるのです。体温で補正して治療をしなければならないという考えはpH-statと言うようです。補正しなくて良いと言うのがα-statと言うようです。どちらが良いのか議論があるようです。

 しかし、こちらのブログにも書きましたが、体温が低くても、普通に解釈して治療して構いません。本当は体温が下がるとPaCO2は低下するようなので、この人は呼吸性アシドーシスがあるのかも知れませんが、気にしなくて良いです。SpO2が93%程度でしたので念のため酸素投与を行っています。

さて、この血液ガスの解釈をしてみます。
 この患者さんはpHが低く、アシドーシスがあります。
 PCO2が正常ですので、代謝性アシドーシスがあります。
 Anion Gapは正常値の12 mmol/Lから9.7 mmol/L上昇しており、AGが上昇する代謝性アシドーシスがあります。
 補正HCO3(アニオンギャップの上昇値をHCO3に足した物)は27.3 mmol/L程度であり、代謝性アルカローシスはなさそうです。
 AG上昇の代謝性アシドーシスでは、中毒、腎不全、乳酸アシドーシス、ケトアシドーシスなどを考えるのでしたね。この人は、乳酸が正常値の2 mmol/L以下より高値なので、乳酸アシドーシスと考えて良いでしょう。乳酸値の上昇とAGの上昇には明確な関連はないようです。
 乳酸アシドーシスの原因は、きっと低体温による循環不全でしょうね。

 加温と輸液で検査データは改善しました。ちなみに、低体温を温かい輸液で治療しようという試みはしないようにしましょう。

2017年12月15日金曜日

激しい下痢の患者さん

 25歳の男性が激しい下痢と腹痛で来院されました。手足もしびれるそうです。静脈血の血液ガスです。

pH 7.615
PCO2 17.0 mmHg
PO2 45.1 mmHg
HCO3 16.9 mmol/L
AnGAP 19.9 mmol/L
乳酸 2.56 mmol/L

 酸素に関しては解釈できませんのでしません。

 代謝に関してはpHはアルカレミアでありアルカローシスが主体です。
 PaCO2が低下していますので呼吸性アルカローシスがあり、これがメインの異常です。
 PaCO2が23 mmHg低下しています。pHは0.008×23=0.184上昇しますので、7.584ぐらいです。代謝性アルカローシスもあるのかも知れません。
 HCO3は低下しており代謝性アシドーシスもあります。乳酸がやや高値ですので。アニオンギャップが7.9 mmol/L上昇しており、補正HCO3は24.8 mmol/Lで正常です。

 よって、過換気症候群、下痢による代謝性アシドーシス、循環血液量減少による乳酸アシドーシスがあると考えられます。

 CTでは大腸内に液貯留が著明であり、血液ガスの読みとあっています。大量の輸液を行い改善しました。

 この時に乳酸リンゲル液を入れると、乳酸値が上がるから避けるべきかと言えば、乳酸の代謝は充分行われるそうなので使って良いそうです。

2017年12月14日木曜日

透析患者さん

 失神で来院された85歳の透析患者さんのデータです。

pH 7.287
PCO2 35.6 mmHg
PO2 95.1 mmHg
HCO3 16.6 mmol/L
BE −9.1 mmol/L
AnGAP 20.2 mmol/L
乳酸 0.78 mmol/L

必ず酸素から評価します。
PaO2は95.1 mmHgと良い値です。酸素化能障害はありません(A-aDO2=10 mmHg)。

pHは7.4より低くアシドーシス、アシデミアです。
PaCO2は正常範囲内です。よって主たる異常は代謝性アシドーシスです。
HCO3は正常値の24 mmol/Lよりも7.4 mmol/L低下しています。アニオンギャップも正常値の12 mmol/Lよりも8.2 mmol/L上昇していますので、アニオンギャップが上昇するタイプの代謝性アシドーシスです。透析患者さんですので当たり前ですね。
補正HCO3を求めると、測定されたHCO3+アニオンギャップの上昇値=16.6+8.2=24.8 mmol/Lとなり、正常値です。
呼吸による代償性変化は色々ありますが、PaCO2=HCO3+16と言うのを採用すると32.6 mmHgとなりほぼ正常と考えて良いでしょう。

よって、この患者さんは代謝性アシドーシス(アニオンギャップ上昇)のみという事になります。強いていえば、軽度の呼吸性アシドーシスが合併していると言っても良いかも知れません。

アニオンギャップ上昇のアシドーシスを見つけたら、以下の4つを考えます。
乳酸アシドーシス
ケトアシドーシス
腎不全
中毒

この方は透析患者さんなので(透析直前の値です)当然の結果ですね。

2017年12月13日水曜日

循環血液量減少の患者さん

 今日の患者さんは前日より下痢が続いていると言う80歳の男性です。血圧が普段120mmHg前後なのに、80/38mmHg、脈拍数が78/分(心房細動のためにシベノール内服中)と言う状態でした。ルームエアーでの採血です。

pH 7.553
PCO2 22.1 mmHg
PO2 76.7 mmHg
HCO3 19.0 mmol/L
AnGAP 16.6 mmmHg
乳酸 2.48 mmol/L

まず酸素から評価します。PaO2は70mmHg以上ありますから、取りあえず問題ありません。
酸素化能はA-aDO2=45 mmHgと言う事で、年齢の半分以下と言う厳しい基準をとっても高値です。酸素化能障害がありますので、酸素投与を開始しました。

代謝の解釈に移ります。
pHが7.4以上ですので、アルカローシスです。アルカレミアもありますね。
PaCO2が22 mmHgと低値を示しており、アルカローシスの原因は呼吸にあります。呼吸性アルカローシスが主体となります。
PaCO2は正常値の40 mmHgから18 mmHg低下したと考えると、PaCO2が1 mmHg低下でpHは0.008上昇しますので、計算するとこの方では0.144上昇するので、予想されるpHは7.4+0.144=7.544であり、測定された値とだいたいあっています(とすると代謝性変化と合わないのですが)。
HCO3は5 mmol/L程度低下しています。アニオンギャップはほぼ正常ですが、正常値の12 mmol/Lから4.6 mmol/L上昇したと考えると、補正HCO3は採血結果に4.6を足して23.6 mmol/Lとなります。ほぼ正常値ですので、アニオンギャップが上昇しないアシドーシスや代謝性アルカローシスはないと考えて良いでしょう。
乳酸値が軽度上昇していますので、アニオンギャップ上昇の原因はこれでしょう。

まとめると以下のようになります。
酸素化能障害あり(A-aDO2=45 mmHg)
呼吸性アルカローシス

以下は軽度の影響しかない
代謝性アシドーシス(たぶん代償ではない)
アニオンギャップ上昇

病態とそれに対する治療は以下のようにします。
細菌性腸炎による下痢による循環血液量減少があり、輸液が必要である。これは身体所見より判断しました。
下痢が続けば、下痢による代謝性アシドーシスも合併してくるかも知れない。
酸素化能障害があるため酸素投与が必要である。原因精査も必要である。
呼吸性アルカローシスは酸素化能障害以外にも、過換気症候群もあるかも知れない。

2017年12月2日土曜日

心肺停止時に血液ガスをとるべきか?

 こちらのブログの内容そのままです。が、ガイドラインが新しくなりましたので、少し新しくしました。

 心肺蘇生中に血液ガスを採取すべきか?という問題は、いつも議論になるところです。あれ?取るに決まってますか?私はとらない方が良いと思っています。
 以下に理由を。

・検査する意義がない(行動が変わらない)。
・だいたい静脈血です。
・データを見てしまうと、どうしても治療したくなる。

 解説?の前に、ERC(ヨーロッパ蘇生協議会)のガイドラインから。


 Blood gas values are difficult to interpret during CPR. During cardiac arrest, arterial gas values may be misleading and bear little relationship to the tissue acid-base state. Analysis of central venous blood may provide a better estimation of tissue pH. 

 以下は私の下手な日本語訳です。

 心肺蘇生中の血液ガス分析のデータは解釈が難しい。心肺停止中は、血液ガス分析の値は間違った値であり、組織の酸塩基平衡異常との関連はほとんどない。中心静脈から採取した血液で分析すると組織pHをより反映した値になるかも知れない。

・検査する意義がない(行動が変わらない)。
 検査は、その結果によって行動が変わるから行うものです。合コンで年齢や職業、年収などを聞くのは、それによって対象外とするかどうかを決めるからでしょう(たぶん)。
 血液ガスは、肺の酸素化能、動脈血中の酸素の量、二酸化炭素の量、代謝の問題などが分かります(電解質も分かりますが、それについては後で述べます)。
 酸素化能、酸素の量、二酸化炭素の量については、検査結果がどうであれ、蘇生をしっかりする以外に改善する方法がありませんし、そもそも血液ガスのデータを見てから、それらを改善するなんてダメでしょう。過換気はいけませんから、二酸化炭素が高かったからと言って、換気の方法を変えるべきではないでしょう。
 代謝の問題は色々です。心肺停止中は高いに決まっていますから、検査する意義はあまりないかも知れません。高くても私はメイロン使いませんし。

・だいたい静脈血です。
 心肺蘇生中に拍動しているのは、静脈の可能性が高いです。下大静脈には逆流防止弁がないので、胸骨圧迫の圧が動脈と同じように伝わってきます。壁の薄い静脈の方がよく触れる場合もあります。静脈血の評価は、心肺停止であれば、よけいに難しいです。

・データを見てしまうと、どうしても治療したくなる。
 例えばpHが6.9だった場合、メイロンを入れたくなります(使わないと宣言している私でも)。メイロンは心肺停止患者さんの社会復帰率を高めると言うエビデンスはありません。メイロンには様々な不利益があるため、使わない方が良いとされています。

 反論ももちろんあります。

・電解質は普通の採血より早く分かるから有用である。

 確かに仰るとおりです。JRCのガイドライン2015(こちらのP.12)にも「原因検索は心停止に至った状況や既往歴、身体所見などから行うが、迅速に結果の得られる動脈血ガス分析や電解質の検査結果が役立つこともある 」とあります。ERCのガイドライン2015(P.111)にも同様の記載があります。電解質については私も賛成します。

・アシドーシスが原因で心停止した場合には、メイロンが有用ではないのか?
 メイロンが有用かどうかも分かりませんし、血液ガスの結果でアシドーシスが結果なのか原因なのかは分からないでしょう。

・心拍再開の予想が出来る。
 こちらの論文によれば、来院してから4分以内にとった血液ガスデータでPaCO2が75mmHgより低ければ、75mmHg以上だった場合に比べて、心拍再開する可能性が3.3倍高いそうです。が、PaCO2が70mmHgだったとしても、100%心拍再開するわけではないし、PaCO2が100だったからと言って直ぐあきらめて良いのかと言えば、そうではありませんね。

 どちらにしても以下のことを推奨します。
・血液ガスは医師がとらなければならないので、優先される事をしっかりやってから採血しましょう。
・結果は電解質を見るだけにしましょう。

<今日の極論ポイント>
 血液ガスを優先して採取するような蘇生のやり方は改善しましょう。

2017年11月29日水曜日

けいれんしたかどうかが分かります。

 けいれんをすると全身の筋肉が嫌気性代謝を行いますので、けいれんした直後に血液ガスを採取すると、代謝性アシドーシスになっているそうです。こちらのブログに紹介されている文献によれば、感度は73%、特異度は97%だったそうです。

 感度や特異度については詳しく知らなくても良いのですが、この文献のように特異度が高いと言うことは、血液ガスでアシドーシスになっていた場合、けいれんしていた可能性が非常に高いと言うことです。
 感度がそれほど高くない場合、アシドーシスがなかったら、けいれんしていないとは必ずしも言えないということです。

 救急診療指針P.292に「代謝性アシドーシスが認められれば痙攣であった可能性が高い」とあります。

 以前勤めていた病院の脳神経外科の先生も、けいれんしたかも?と言う人が来たら血液ガスをとってくださいと言っていましたので脳外科医の間でも常識になっているのだと思います。

 是非、けいれんが疑われる患者さんでは血液ガスをとりましょう。

2017年11月15日水曜日

心肺停止の原因としてアシドーシスは本当にあるのか?

 ICLSインストラクターをされている方から質問されました。受講生の方に医師がおられて、肺塞栓の症例とか出した場合には、詳細な血液ガスデータを出した方が良いと思うので、実際の症例のデータをいただけませんか?と。

 その方にはデータをお渡ししましたが、結論から言えば、必要ありません。

 血液ガスそのものからは少しずれますが、ICLSコースで大事なことは、鑑別診断をきちんとすることではありません。ICLSコースで大切なことは別にあります。
 しかし、医師に多いですが、その症例はどんなだったの?などと本筋ではないところに興味が向いてしまう人がいます。ICLSコースで大切なことは、きちんと蘇生をし、電気ショックが適応となる患者さんであれば、素早く安全に電気ショックを行い、電気ショックが適応ではない患者さんであれば、心肺停止になった原因の検索が必要です(もちろん、電気ショックが必要な患者さんでも、原因検索は必要ですが、電気ショックの方が優先されますからコースでは、そこまでの余裕はないでしょう)。

 よって、詳細な血液ガスデータは必要ありません。

 それから、心肺停止の原因として、アシドーシスがどんな本にも挙げられていますが、本当にアシドーシスが原因で心肺停止になるのでしょうか?アシドーシスは、他の疾患によって発生した二次的な原因ではないのでしょうか?もしそうだとすると、心肺停止中にはさらにアシドーシスがあるのが当然なので、血液ガスデータを取るのは良くないのではないでしょうか?

 等と考えています。いかがでしょうか?

2017年11月14日火曜日

血液ガスをとらなくても酸塩基平衡異常を疑えます。

 血液ガス分析は必要ないかなと思って、動脈血採血をしていなかった場合、採血結果が出て、血液ガスをとろう!と思うべき場合はどんな時か?と言うお話です。

 答えは、Na−Clが30以下か40以上の場合です。詳しくはこちらの論文をご覧ください。

 このブログでは細かいことを出来るだけ省くのがポリシーですので、とにかく、採血したら、ナトリウムとクロールの値から引き算をしてみてください。

 Na−CLが40以上だった場合、HCO3が増えていることが疑われます。つまり代謝性アルカローシスがある可能性が高いです。
 Na−CLが30以下だった場合、HCO3が低下していることが疑われます。高CL性代謝性アシドーシスが疑われます。下痢をしていないか確認してください。
 Na−CLが30〜40だった場合、酸塩基平衡異常がないかと言えば、そうではない(例えばアニオンギャップが上昇するアシドーシスがあるかも知れません)ので、疑いがあれば動脈血採血(場合によっては静脈血採血)を行いましょう。

 どちらにしても、血液ガス分析を是非しましょう。

<今回の極論ポイント>
 採血をしたら、Na−CLを計算しましょう。

2017年11月11日土曜日

異常が複数あった場合、どれがメインで、どれが代償か?

 血液ガスデータを解釈していると、呼吸性アルカローシスと代謝性アシドーシスが両方あるというようなことがあります。この時、どちらがメインで、どちらが代償なのか?あるいは両方あるのか?と言うことが分かりにくいです。

 しかし、きちんと解析すれば分かることも多いです。以下の患者さんは「呼吸性アルカローシス」と「代謝性アシドーシス」がありますが、どちらがメインなのでしょうか?

pH 7.376
PCO2 28.0 mmHg
HCO3 16.0 mmol/L

 こちらの文献によれば、変化率が大きい方がメインだと言うことです。

 PCO2は正常の40から12低下しています。30%の低下ですね。
 HCO3は正常の24から8低下しています。33%の低下ですね。
 よって、この方は、代謝性アシドーシスを呼吸で代償していると言うことになります。

 細かいことを言えば、呼吸の代償は計算とは合わないので、代謝性アシドーシス+呼吸性アルカローシスという診断になるのですが、取りあえずメインはどちらかが分かれば良いと思います!
 呼吸性アルカローシスと代謝性アシドーシスが両方ある疾患は、アスピリン中毒と敗血症しかないそうですので、余裕のある方は、覚えておくと良いでしょう。

 こちらの記事に別の方法を紹介していますので、是非ご覧ください。こっちの方が簡単でしょうし、たぶん同じ事になると思います。

<今回の極論ポイント>
 変化率の大きい方がメインの異常で、変化率が小さい方が代償性変化です。

2017年11月10日金曜日

BEやHCO3は見なくても良いです。

 以下の患者さんは、前日の夕方から倒れたままで動けなかったそうです。ヘルパーさんに発見されて、救急搬送された90歳の男性の方の血液ガスです。

pH 7.432
PCO2 29.5 mmHg

 以下PO2、HCO3、BEなどと続いていきますが、血液ガスが苦手だと言う理由の一つにデータが多すぎるということがあります。今回は上記の二つだけ見ましょう!簡単でしょ!

 以前に別の所にも書きましたが、実際に測定している血液ガスデータは、この二つとPaO2の3つだけです。他は計算式なので見なくても大丈夫です!実際、BEは見てはいけないという人もいます。例えば、UpToDateの"Approach to the adult with metabolic alkalosis(代謝性アシドーシスのある成人患者へのアプローチ)"や"Simple and mixed acid base disorder(単純、混合性酸塩基平衡異常)"と言う文献には、BEとかbase excessと言う言葉が出てきません。

 まずpHを見ます。7.4が正常と考えます。7.45まで正常なので、この人はpHは正常なのですが、やや高めですから、アルカローシスがあります。

 次にPaCO2を見ます。呼吸性アルカローシスならばPaCO2は低下しているはずで、確かに低下しています。この人の呼吸数は22/分でした。

 以前書いたように、PCO2が1低下するとpHは0.008上昇するはずです。この患者さんはPaCO2が40から10.5低下していますので、pHは0.084上昇するはずなので、pHは7.484のはずです。しかし、pHはそれよりも低いです。よって代謝性アシドーシスが合併していると考えられます。

 呼吸性アルカローシスと呼吸性アシドーシスは同時に存在できませんが、代謝性アシドーシスと代謝性アルカローシス、呼吸の問題(呼吸性アシドーシスか呼吸性アルカローシスのどちらか)の3つは同時に存在可能です。

 と言うことで、この患者さんは、呼吸性アルカローシスと代謝性アシドーシスがあることが、pHとPaCO2の二つを見るだけで分かりました。

 実際のデータを示します。

HCO3 19.2 mmHg
BE -3.7 mmol/L
Anion Gap 17.7 mmol/L
乳酸 4.58 mmol/L

 乳酸は2 mmol/L以下が正常値ですので、乳酸アシドーシスがありますし、Anion Gapも正常値の12 mmol/Lから5.7 mmol/L上昇していますね。半日以上飲み食いできず、循環血液量減少があったのと、軽度の横紋筋融解(CKが2000程度でした)があったことによるのでしょうか。呼吸数も早く、エコーで下大静脈がぺちゃんこだったことも分かりました。血液ガスデータ以外からも、呼吸性アルカローシスと代謝性アシドーシスを疑うことが出来ます。

 もちろん詳細な評価のために、HCO3やBE等の値も必要ですが、「血液ガスはちょー苦手!!」と言う人には、「pHとPaCO2だけでも簡単に解析は出来るんだよ!」と言うことをお伝えしておきます。見なければならないデータは少ない方が良いですよね。

 時々主張しているのですが、血液ガスで大事なことは、以下の二つです。心電図でも同じ事が言えそうですが。

・全部理解しようとしない。
・血液ガスのデータだけで患者さんの評価をしない。

<今回の極論ポイント>
・血液ガスなんて行わなくても患者さんの治療は出来る。
・血液ガスアレルギーを治すためには、たまには血液ガスから離れる事もありかも知れません。
・代謝を見たい時には、pHとPaCO2だけ見ましょう!

2017年11月9日木曜日

アシドーシスか?アルカローシスか?どっちがメイン?

 代償という言葉があります。一般的には償いということですが、血液ガスの分野ではちょっと違います。英語ではcompensationと言います。意味は日本語と同じです。

 人間の身体はすごいもので、何か問題が発生すると、その問題による不利益をできるだけ少なくするように、別のシステムが働いて、不利益を最小限にしようとします。血液ガスの分野では、pHが変化する問題が発生した場合、pHの変化を最小限にしようとする働きを代償性変化と言っています。

 つまり、アシドーシスとなるような病気が発生した場合、その変化を最小限、つまりpHの低下を最小限にしようと、pHを上げるような働きが起こります。これは代償性変化と呼びます。メインの異常ではないので、アルカローシスとは言わないんだそうです。

 では、以下の患者さんのように、代謝性アシドーシスと呼吸性アルカローシスがあった場合、どちらがメインで、どちらが代償なのでしょうか?あるいは、どちらもメインか、どちらも代償なのでしょうか?

pH 7.376
PCO2 28.0 mmHg
PO2 92.4 mmHg
HCO3 16.0 mmol/L
BE -7.4 mmol/L
Na 133.7 mEq/L
K 4.61 mEq/L
CL 101 mEq/L
Anion Gap 21.3 mmol/L
乳酸 3.93 mmol/L

 答えは簡単です。pHが正常値の7.4より高いか低いかを見る。それだけです。もちろん例外もありますが、基本それで良いです。

 つまりこの患者さんでは、代謝性アシドーシスと呼吸性アルカローシスがあるのですが、pHが7.4より低いため、アシドーシスがメインだと言うことです。

 何故かと言えば、「代償性変化はpHが7.4を越えて変化するほどは起こらない」というのが原則だからです。

 逆に、こんな感じの値であれば、代謝性アシドーシスが代償性変化なのだそうです。

pH 7.465
PCO2 21.3 mmHg

 これはわざと他を省略しました。簡単に言えば、pHとPaCO2だけ見れば良いと言うことです。PaCO2が低下すればpHは上昇し、PaCO2が上昇すればpHは低下するので、それにあっていれば、呼吸性なんとかがメインで、この原則に反していれば、呼吸性なんとかは代償だと言うことです。

pHが7.4以下
 PaCO2が上昇 呼吸性アシドーシス
 PaCO2が低下 代謝性アシドーシス
pHが7.4以上
 PaCO2が上昇 代謝性アルカローシス
 PaCO2が低下 呼吸性アルカローシス

と言う風になります。

 今日は複数の酸塩基平衡の問題があれば、pHを見て、7.4以上であれば何とかアルカローシスがメインであり、7.4以下であれば何とかアシドーシスがメインだと言うことを学びました。

 もし、pHが7.4だったらどうするのですか?と思う人、あなたは鋭いです!!答えは私にも分かりません、、、、、、、

<今日の極論ポイント>
 複数の酸塩基平衡の問題があれば、pHを見て判断しましょう。
 pHが7.4以上ならば○○アルカローシス、7.4以下ならば○○アシドーシスがメインです。

2017年11月7日火曜日

メイロン入れますか?

 心肺停止の患者さんが運ばれて来ました。来院直後に心拍再開しました。その時の血液ガスのデータです。

pH 6.910
PCO2 67.7 mmHg
PO2 85.0 mmHg
HCO3 13.3 mmol/L
BE -19.9 mmol/L
Na 125.7 mEq/L
K 4.84 mEq/L
CL 98 mEq/L
Anion Gap 19.3 mmol/L
乳酸 9.40 mmol/L

 今回は私の指導を受けた研修医の先生や、研修医の時から当院に勤めていてくれる若い先生ばかりでしたので、誰もメイロンを入れようとしませんでしたが、一般的には、メイロン!と誰かが叫ぶと思います。「一般的」というのは定義が色々ですが、まあ10回中7回ぐらい発生する事と考えてください。

 メイロンは重炭酸ナトリウムという成分の点滴で、8.4%の溶液だと、NaHCO3が1mEq/ml入っています。HCO3が低下しているので、それを外から補充してやれば、アシドーシスを改善できるだろうと言うことで昔から使われています。私が研修医だった25年前でも使われていました。

 しかし、25年前からも同じですが、再三メイロンは使うべきではないと言われ続けています。が、今も使う先生がいます。今回はそのことについて、ちょっと考えてみましょう。ちょっとと言いながら長いです。

 最初に結論ですが、メイロンは原則使うべきではありません。時間がない方はここまでで大丈夫です。

 まず、メイロンを使いたがる先生の意見です。

・アシドーシスは悪い。特にカテコラミンが効きにくくなる。
・カリウムが高い場合、アシドーシスの補正は重要である(アシドーシスになるとカリウムが高くなります)。

 他に思いつきませんでした(^^)。

 さて、色々言われているメイロンの不利益です。まず賛成派の先生への反論です。

・アシドーシスが本当に悪いという証拠はどこにあるのか?
・末梢での酸素放出と言うことを考えると、アシドーシスは有利です。ヘモグロビン酸素解離曲線というのが右へ変異するため酸素を放出しやすくなります。逆にメイロンを入れてアルカローシスにすると末梢へ酸素は運ばれますが、そのまま心臓へ持って帰ってくる割合が高くなります(ヘモグロビン酸素解離曲線が左方移動するため)。
・メイロンを投与すると、一緒に投与されたカテコラミンの効きが悪くなると言われています。
・カリウムを下げる方法としてのメイロンにはエビデンスレベルの高い研究がないそうです。UpToDateの「Treatment and prevention of hyperkalemia in adults(成人の高カリウム血症の治療と予防)」の著者はメイロンの単独投与を推奨していません。

 他にも色々あります。

・高ナトリウム血症を引き起こす可能性がある。
 NaHCO3が1mEq/Lと言う濃度、つまりNaも同じ濃度入っていると言うことです。血清ナトリウムと同じ単位にそろえると、なんと1000mEq/Lです。6−7倍も濃い点滴を入れているんですよ!!びっくりじゃないですか?
・塩分の過剰となり得る。
 メイロン250ml一本で、ナトリウムが250mEq/L入ります。普通の人はナトリウムは1日50−100mEqあればいいそうです。つまり2−5日分の塩を入れてしまうと言うことです。それも心臓が悪い人に!!
・細胞内アシドーシスを引き起こす。
 paradoxical intracellular acidosis(奇異性細胞内アシドーシス)という現象があります。メイロンはHCO3イオンだけがあるのではなく、ある程度の量のCO2も含んでいます。これらが先に細胞内に入るため、細胞内のアシドーシスがひどくなると言うのです。しかし、この現象の存在については、否定的な意見もあるようです。
・冠還流圧(CPP)を低下させる。
 心拍再開には冠還流圧(拡張期の大動脈圧ー右心房圧)が大事だと言われています。ある程度の圧以上ないと心拍再開しないというのです。心臓そのものへの血流は拡張期に流れるためです。メイロンを入れると、この冠還流圧(coronary perfusion pressure;CPP)が低下すると言われています。

 どちらにしても、メイロンを使ったからと言って、激しく有用だったという証拠がないというのが一番の理由です。

<今回の極論ポイント>
 メイロンを心肺停止の人に使うのは辞めましょう。