片肺挿管は何がいけないでしょうか?もちろん、酸素化能が低下する事です。挿管されていない(通常は右に入るので左ですね)肺に痰がたまることもあるかも知れません。
さて、この時、気管チューブの位置を動かすことが出来ない(資格上の問題、その他色々)場合に、とりあえず酸素を100%にしたら良いじゃないと思いますね。もちろん、それは一つの手なのですが、その際、SPO2があまり上がらない事が多いです。今回はその事について考えてみましょう。
まず、換気されない左肺から心臓に戻って来る血液は、酸素を取り込むことが出来ませんから、ほとんど静脈血と同じです。つまりPO2は40mmHg程度です。
次に、換気されている右の肺から戻ってくる血液は、100%酸素で換気していて、酸素化能に問題がなければ、PO2は600mmHg以上あります。
左肺と右肺からの血流が同じだったとすると、(右肺からの血流のPO2+左からのPO2)÷2=320mmHgとなり、SPO2は余裕で100%近いはずです。また、hypoxic pulmonary vasoconstrictionと言って換気が悪い肺胞へ行く血管は収縮する反応があり、左肺の血流は少なくなります。右:左が例えば2:1になったら、もっとPO2は高くなるはずです。
しかし、PO2は60mmHg程度にしかなりません。何故でしょう?
血液にはヘモグロビンが含まれているのがその理由です。血液が単純な液体であれば、先ほどの計算は成り立ちます。みなさんは、CaO2というのを覚えていますか?動脈血酸素含有量という物で、こちらで計算します。
CaO2=Hb結合酸素+溶存酸素=1.34×Hb×SaO2÷100+0.0031×PaO2
でした。左肺から来る血液のCaO2=1.34×15×0.75+0.0031×40=15.2ml/dLです。
(Hbは15としました。静脈血のPO2は40mmHg、SO2は75%としました。)
右肺から来る血液のCaO2=20.3ml/dL程度です。右:左の血流が2:1だったとすると、(20.3×2+15.2)÷3=18.6ml/dLとなります。酸素化能が正常な人の酸素吸入なしの場合のCaO2は19.8ml/dL程度(SaO2 97%、PaO2 90としました)です。片肺挿管時は、室内空気を吸っている人より、PaO2が低いと言うことでしょう。PaO2が60mmHgでSaO2が90%として計算すると18.2ml/dL程度となり、やはりPaO2は60mmHg程度と言うことになります。
気管チューブは患者さんの首の反り具合で最大5cm程度動くらしいですので、気管挿管をしている患者さんでは常に片肺挿管になっていないか、確認しましょう。そして、PaO2が突然下がったら片肺挿管を是非考えてください。
他にも人工呼吸中の患者さんに変化があったら思い出す物としてDOPEと言うのがあります。
D displacement チューブの位置異常(つまり片肺挿管、抜けたなど)
O obstruction チューブの閉塞
P pneumothrax (緊張性)気胸
E equipment 装置の異常(人工呼吸器など)
英語が苦手な方は「いきつめ」と覚えましょう。
い 位置の異常
き 緊張性気胸
つ 詰まった
め メカの異常
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