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2017年12月2日土曜日

心肺停止時に血液ガスをとるべきか?

 こちらのブログの内容そのままです。が、ガイドラインが新しくなりましたので、少し新しくしました。

 心肺蘇生中に血液ガスを採取すべきか?という問題は、いつも議論になるところです。あれ?取るに決まってますか?私はとらない方が良いと思っています。
 以下に理由を。

・検査する意義がない(行動が変わらない)。
・だいたい静脈血です。
・データを見てしまうと、どうしても治療したくなる。

 解説?の前に、ERC(ヨーロッパ蘇生協議会)のガイドラインから。


 Blood gas values are difficult to interpret during CPR. During cardiac arrest, arterial gas values may be misleading and bear little relationship to the tissue acid-base state. Analysis of central venous blood may provide a better estimation of tissue pH. 

 以下は私の下手な日本語訳です。

 心肺蘇生中の血液ガス分析のデータは解釈が難しい。心肺停止中は、血液ガス分析の値は間違った値であり、組織の酸塩基平衡異常との関連はほとんどない。中心静脈から採取した血液で分析すると組織pHをより反映した値になるかも知れない。

・検査する意義がない(行動が変わらない)。
 検査は、その結果によって行動が変わるから行うものです。合コンで年齢や職業、年収などを聞くのは、それによって対象外とするかどうかを決めるからでしょう(たぶん)。
 血液ガスは、肺の酸素化能、動脈血中の酸素の量、二酸化炭素の量、代謝の問題などが分かります(電解質も分かりますが、それについては後で述べます)。
 酸素化能、酸素の量、二酸化炭素の量については、検査結果がどうであれ、蘇生をしっかりする以外に改善する方法がありませんし、そもそも血液ガスのデータを見てから、それらを改善するなんてダメでしょう。過換気はいけませんから、二酸化炭素が高かったからと言って、換気の方法を変えるべきではないでしょう。
 代謝の問題は色々です。心肺停止中は高いに決まっていますから、検査する意義はあまりないかも知れません。高くても私はメイロン使いませんし。

・だいたい静脈血です。
 心肺蘇生中に拍動しているのは、静脈の可能性が高いです。下大静脈には逆流防止弁がないので、胸骨圧迫の圧が動脈と同じように伝わってきます。壁の薄い静脈の方がよく触れる場合もあります。静脈血の評価は、心肺停止であれば、よけいに難しいです。

・データを見てしまうと、どうしても治療したくなる。
 例えばpHが6.9だった場合、メイロンを入れたくなります(使わないと宣言している私でも)。メイロンは心肺停止患者さんの社会復帰率を高めると言うエビデンスはありません。メイロンには様々な不利益があるため、使わない方が良いとされています。

 反論ももちろんあります。

・電解質は普通の採血より早く分かるから有用である。

 確かに仰るとおりです。JRCのガイドライン2015(こちらのP.12)にも「原因検索は心停止に至った状況や既往歴、身体所見などから行うが、迅速に結果の得られる動脈血ガス分析や電解質の検査結果が役立つこともある 」とあります。ERCのガイドライン2015(P.111)にも同様の記載があります。電解質については私も賛成します。

・アシドーシスが原因で心停止した場合には、メイロンが有用ではないのか?
 メイロンが有用かどうかも分かりませんし、血液ガスの結果でアシドーシスが結果なのか原因なのかは分からないでしょう。

・心拍再開の予想が出来る。
 こちらの論文によれば、来院してから4分以内にとった血液ガスデータでPaCO2が75mmHgより低ければ、75mmHg以上だった場合に比べて、心拍再開する可能性が3.3倍高いそうです。が、PaCO2が70mmHgだったとしても、100%心拍再開するわけではないし、PaCO2が100だったからと言って直ぐあきらめて良いのかと言えば、そうではありませんね。

 どちらにしても以下のことを推奨します。
・血液ガスは医師がとらなければならないので、優先される事をしっかりやってから採血しましょう。
・結果は電解質を見るだけにしましょう。

<今日の極論ポイント>
 血液ガスを優先して採取するような蘇生のやり方は改善しましょう。

2017年11月30日木曜日

FIO2をどのぐらい変化させたら良いのか?


 目標とするPaO2を達成するために必要な吸入酸素濃度は以下の通りです。

目標とするFIO2=(目標とするPaO2−現在のPaO2÷713+現在のFIO2


 目標とするFIO2は高くても低くても良いです。良かったら使ってください。

 ちなみに、この式は、以下のかなり無理な条件を満たした場合にのみ成り立ちます。

・酸素濃度が変化しても、A-aDO2が変化しない。
・動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が変化しない。

 まあ、厳密に計算する必要はありませんので、気にしなくて良いでしょう。

 この式を導いてみます。

A-aDO2=(760−47)×現在のFIO2−PaCO2/0.8−現在のPaO2
A-aDO2=713×目標とするFIO2−PaCO2/0.8−目標とするPaO2

 です。上の式と下の式の左辺は等しいという前提ですので、式を変形すれば、PaCO2/0.8は消えます。よって上記の式が求められるのです。

 PaO2を70 mmHgぐらい挙げたいと思えば、FIO2を0.1(あるいは10%)上げれば良いと言うことですね。

<今日の極論ポイント>
 吸入酸素濃度を10%上げると、動脈血酸素分圧が70 mmHg程度上がります。

2017年11月19日日曜日

低酸素だった場合、酸素をどのぐらい投与するべきか?

 低酸素の患者さんが来院されたとします。例えば、血液ガスデータが以下のような患者さんです。

pH 7.516
PCO2 30.7 mmHg
PO2 58.8 mmHg
HCO3 24.3 mmol/L
BE 2.0 mmol/L

 呼吸数は28/分で、SpO2は89%です。レントゲンでは肺炎を疑う所見があり、肺炎と診断しました。

 当然酸素を投与すると思いますが、どのぐらい投与しましょうか?

 よく分からなかったら、リザーバーマスク(10L/分)で投与することをお勧めしています。高濃度酸素は短時間なら問題ありませんが、低酸素は危険だからです。

 ただ、経鼻カニューレで酸素1L/分でいいのに、リザーバーマスクで投与してしまうとちょっとカッコ悪いですね。

 大雑把に言うと、吸入酸素濃度(FIO2)と動脈血酸素分圧(PaO2)は比例します。よって、ルームエアーでPaO2が50 mmHgの人が来たとして、PaO2を100 mmHg近くに上げたいと思ったら、酸素濃度は約2倍、つまり40%近くにすればいいです。普通のマスクや経鼻カニュラで酸素を1L/分流すと吸入酸素濃度は約4%上昇すると言われていますから、5L/分で酸素を流せば良いです。経鼻カニュラは3L/分程度までとされていますので、普通の酸素マスクで5L/分流しましょう。

 ちょっと数学で証明?してみます。

 A-aDO2=PAO2−PaO2でしたよね。
 PAO2=(760−47)×FIO2−PaCO2/R-PaO2
 A-aDO2、PaCO2、R(呼吸商で通常は0.8)は変わらないと仮定すれば、

PaO2=713×FIO2−k kは定数

と言うことで713×FIO2が大きい、つまり高濃度酸素をやっている時ほど、PaO2とFIO2が比例すると言うことになります。もちろんですが、あくまでだいたいであり、換気の状態が変化しないことはないでしょうし、A-aDO2もFIO2によって変わるようですから、このやり方は正確ではありません。が、現場では、だいたいこのぐらいということでいいのではないでしょうか。

 逆に酸素を下げていく時にも、この理屈が通用します(別記事にしました)が、下げすぎはよくありませんので、少しずつ下げましょう。

 ちなみに、今回の患者さんでは、フェイスマスクで酸素を4リットル/分流しました。計算すると、1リットル/分で約4%吸入酸素分圧が上がりますので、吸入酸素濃度は約36%。約1.8倍になっていますので、PaO2もそのぐらい上昇しますから、58.8×1.8=105.3 mmHgになります。上がりすぎたら下げれば良いので、5リットル/分ぐらいから開始しても良いでしょう。

<今回の極論ポイント>
 PaO2とFIO2はほぼ比例します。
 迷ったら酸素は高流量で開始し、データを見ながら下げていけばいいです。
 低酸素は危険です!

2017年11月7日火曜日

メイロン入れますか?

 心肺停止の患者さんが運ばれて来ました。来院直後に心拍再開しました。その時の血液ガスのデータです。

pH 6.910
PCO2 67.7 mmHg
PO2 85.0 mmHg
HCO3 13.3 mmol/L
BE -19.9 mmol/L
Na 125.7 mEq/L
K 4.84 mEq/L
CL 98 mEq/L
Anion Gap 19.3 mmol/L
乳酸 9.40 mmol/L

 今回は私の指導を受けた研修医の先生や、研修医の時から当院に勤めていてくれる若い先生ばかりでしたので、誰もメイロンを入れようとしませんでしたが、一般的には、メイロン!と誰かが叫ぶと思います。「一般的」というのは定義が色々ですが、まあ10回中7回ぐらい発生する事と考えてください。

 メイロンは重炭酸ナトリウムという成分の点滴で、8.4%の溶液だと、NaHCO3が1mEq/ml入っています。HCO3が低下しているので、それを外から補充してやれば、アシドーシスを改善できるだろうと言うことで昔から使われています。私が研修医だった25年前でも使われていました。

 しかし、25年前からも同じですが、再三メイロンは使うべきではないと言われ続けています。が、今も使う先生がいます。今回はそのことについて、ちょっと考えてみましょう。ちょっとと言いながら長いです。

 最初に結論ですが、メイロンは原則使うべきではありません。時間がない方はここまでで大丈夫です。

 まず、メイロンを使いたがる先生の意見です。

・アシドーシスは悪い。特にカテコラミンが効きにくくなる。
・カリウムが高い場合、アシドーシスの補正は重要である(アシドーシスになるとカリウムが高くなります)。

 他に思いつきませんでした(^^)。

 さて、色々言われているメイロンの不利益です。まず賛成派の先生への反論です。

・アシドーシスが本当に悪いという証拠はどこにあるのか?
・末梢での酸素放出と言うことを考えると、アシドーシスは有利です。ヘモグロビン酸素解離曲線というのが右へ変異するため酸素を放出しやすくなります。逆にメイロンを入れてアルカローシスにすると末梢へ酸素は運ばれますが、そのまま心臓へ持って帰ってくる割合が高くなります(ヘモグロビン酸素解離曲線が左方移動するため)。
・メイロンを投与すると、一緒に投与されたカテコラミンの効きが悪くなると言われています。
・カリウムを下げる方法としてのメイロンにはエビデンスレベルの高い研究がないそうです。UpToDateの「Treatment and prevention of hyperkalemia in adults(成人の高カリウム血症の治療と予防)」の著者はメイロンの単独投与を推奨していません。

 他にも色々あります。

・高ナトリウム血症を引き起こす可能性がある。
 NaHCO3が1mEq/Lと言う濃度、つまりNaも同じ濃度入っていると言うことです。血清ナトリウムと同じ単位にそろえると、なんと1000mEq/Lです。6−7倍も濃い点滴を入れているんですよ!!びっくりじゃないですか?
・塩分の過剰となり得る。
 メイロン250ml一本で、ナトリウムが250mEq/L入ります。普通の人はナトリウムは1日50−100mEqあればいいそうです。つまり2−5日分の塩を入れてしまうと言うことです。それも心臓が悪い人に!!
・細胞内アシドーシスを引き起こす。
 paradoxical intracellular acidosis(奇異性細胞内アシドーシス)という現象があります。メイロンはHCO3イオンだけがあるのではなく、ある程度の量のCO2も含んでいます。これらが先に細胞内に入るため、細胞内のアシドーシスがひどくなると言うのです。しかし、この現象の存在については、否定的な意見もあるようです。
・冠還流圧(CPP)を低下させる。
 心拍再開には冠還流圧(拡張期の大動脈圧ー右心房圧)が大事だと言われています。ある程度の圧以上ないと心拍再開しないというのです。心臓そのものへの血流は拡張期に流れるためです。メイロンを入れると、この冠還流圧(coronary perfusion pressure;CPP)が低下すると言われています。

 どちらにしても、メイロンを使ったからと言って、激しく有用だったという証拠がないというのが一番の理由です。

<今回の極論ポイント>
 メイロンを心肺停止の人に使うのは辞めましょう。