pH 6.910
PCO2 67.7 mmHg
PO2 85.0 mmHg
HCO3 13.3 mmol/L
BE -19.9 mmol/L
Na 125.7 mEq/L
K 4.84 mEq/L
CL 98 mEq/L
Anion Gap 19.3 mmol/L
乳酸 9.40 mmol/L
今回は私の指導を受けた研修医の先生や、研修医の時から当院に勤めていてくれる若い先生ばかりでしたので、誰もメイロンを入れようとしませんでしたが、一般的には、メイロン!と誰かが叫ぶと思います。「一般的」というのは定義が色々ですが、まあ10回中7回ぐらい発生する事と考えてください。
メイロンは重炭酸ナトリウムという成分の点滴で、8.4%の溶液だと、NaHCO3が1mEq/ml入っています。HCO3が低下しているので、それを外から補充してやれば、アシドーシスを改善できるだろうと言うことで昔から使われています。私が研修医だった25年前でも使われていました。
しかし、25年前からも同じですが、再三メイロンは使うべきではないと言われ続けています。が、今も使う先生がいます。今回はそのことについて、ちょっと考えてみましょう。ちょっとと言いながら長いです。
最初に結論ですが、メイロンは原則使うべきではありません。時間がない方はここまでで大丈夫です。
まず、メイロンを使いたがる先生の意見です。
・アシドーシスは悪い。特にカテコラミンが効きにくくなる。
・カリウムが高い場合、アシドーシスの補正は重要である(アシドーシスになるとカリウムが高くなります)。
他に思いつきませんでした(^^)。
さて、色々言われているメイロンの不利益です。まず賛成派の先生への反論です。
・アシドーシスが本当に悪いという証拠はどこにあるのか?
・末梢での酸素放出と言うことを考えると、アシドーシスは有利です。ヘモグロビン酸素解離曲線というのが右へ変異するため酸素を放出しやすくなります。逆にメイロンを入れてアルカローシスにすると末梢へ酸素は運ばれますが、そのまま心臓へ持って帰ってくる割合が高くなります(ヘモグロビン酸素解離曲線が左方移動するため)。
・メイロンを投与すると、一緒に投与されたカテコラミンの効きが悪くなると言われています。
・カリウムを下げる方法としてのメイロンにはエビデンスレベルの高い研究がないそうです。UpToDateの「Treatment and prevention of hyperkalemia in adults(成人の高カリウム血症の治療と予防)」の著者はメイロンの単独投与を推奨していません。
他にも色々あります。
・高ナトリウム血症を引き起こす可能性がある。
NaHCO3が1mEq/Lと言う濃度、つまりNaも同じ濃度入っていると言うことです。血清ナトリウムと同じ単位にそろえると、なんと1000mEq/Lです。6−7倍も濃い点滴を入れているんですよ!!びっくりじゃないですか?
・塩分の過剰となり得る。
メイロン250ml一本で、ナトリウムが250mEq/L入ります。普通の人はナトリウムは1日50−100mEqあればいいそうです。つまり2−5日分の塩を入れてしまうと言うことです。それも心臓が悪い人に!!
・細胞内アシドーシスを引き起こす。
paradoxical intracellular acidosis(奇異性細胞内アシドーシス)という現象があります。メイロンはHCO3イオンだけがあるのではなく、ある程度の量のCO2も含んでいます。これらが先に細胞内に入るため、細胞内のアシドーシスがひどくなると言うのです。しかし、この現象の存在については、否定的な意見もあるようです。
・冠還流圧(CPP)を低下させる。
心拍再開には冠還流圧(拡張期の大動脈圧ー右心房圧)が大事だと言われています。ある程度の圧以上ないと心拍再開しないというのです。心臓そのものへの血流は拡張期に流れるためです。メイロンを入れると、この冠還流圧(coronary perfusion pressure;CPP)が低下すると言われています。
どちらにしても、メイロンを使ったからと言って、激しく有用だったという証拠がないというのが一番の理由です。
<今回の極論ポイント>
メイロンを心肺停止の人に使うのは辞めましょう。
興味深いお話をありがとうございます.
返信削除メイロンによる細胞内アシドーシスに関してメイロンにはある程度の量の二酸化炭素も含んでいるというのが分からないのでお時間がある時に教えていただけないでしょうか.
メイロン投与でプロトンと重炭酸イオンが反応して二酸化炭素が発生,換気が悪いと二酸化炭素が上昇というメカニズムで理解していたのですが,元々含まれているということなのでしょうか.
貴重なコメントありがとうございます。
削除メイロンは、重炭酸ナトリウムと言う物質が水に溶けています。NaHCO3ですので、水に溶けると、NaとHCO3に分離します。
血液中にある水素イオンHとHCO3が反応します。
H+HCO3 → H2O+CO2
投与されたHCO3によってHイオンが消費されて、水と二酸化炭素ができます。
しかし、上の反応は右へばかり行くとは限らず、左に向かう場合もあります。右だけ、左だけはありえず、両方あって、どっちが有意かと言うことのようです。
よって、メイロンには二酸化炭素も溶けているのですが、全体としてはHCO3が多く含まれるのでアルカリ性の液体だと言うことですね。
HCO3とH、CO2が同時に存在していると、CO2が細胞膜を早く出入りできるとされているので、細胞外にHCO3をどんどん投与すると、細胞内にCO2がどんどん入っていく可能性があるというのです。
本文中にも書きましたが、この現象の臨床的意義についてはよく分かっていないようですので、実臨床では気にしなくて良いのかも知れません。
以下の文献に解説されています。
削除https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjphcs/41/7/41_455/_pdf
お忙しい中,早々にご回答いただき誠にありがとうございます.システムがよく分かっていなくて「匿名」で質問させていただきました.本人識別として「たけさん」とさせていただければ幸いです.ある製薬メーカーの社員です.
返信削除ご説明いただいて,メイロンに二酸化炭素が含まれている,の意味がわかりました.また,文献もありがとうございます.酸性の輸液にメイロンを混ぜると点滴筒の液面が大きく下がる,なるほどな~とよくわかりました.
またつまらない質問をさせていただくかもしれませんがよろしくお願いいたします.
質問ありがとうございました。私もあやふやな解説でしたので、勉強になりました。
削除これからもご指導よろしくお願いいたします!!