昨日の記事に引き続き、正確な肺胞気式と簡略式との差を考えます。今日は酸素投与がされている場合です。
「血液ガスは、酸素を投与しない状態で採血して計算しなければならないので、血液ガスをとるまで酸素を絶対に投与するな!」と言う人を見かけます。低酸素は危険ですから、そんなプラクティスは推奨しません。もし、そう思うなら正確な肺胞気式で計算すれば良いです。そう言えば、前回の記事に正確な肺胞気式を書いていませんでした。以下の通りです。
PAO2=PIO2−PaCO2/R+(1/R-1)×PaCO2×FIO2=713×FIO2−PaCO2/0.8+0.25×PaCO2×FIO2
(PaCO2=PACO2という前提ですので、式の中のPCO2はAでもaでも同じです)
最後の項目はFIO2が低い場合、ほとんど無視できるとされています。酸素投与なしならば、0.25×0.21=0.0525となり、PaCO2が40Torrならば2.1となり誤差の範囲です。前回の記事「正確な肺胞気式でなくて良いのか?その1」で計算してみましたね。今回はPaCO2が40Torrの場合、FIO2が上昇するとどうなるかを計算します。
(1)FIO2 (2)正確な式によるPAO2 (3)簡略式 (4)差(2)−(3)
0.21 101.83 99.73 2.1
0.24(経鼻1L) 123.52 121.12 2.4
0.28(経鼻2L) 152.44 149.64 2.8
0.32(経鼻3L) 181.36 178.16 3.2
0.36(マスク4L) 210.28 206.68 3.6
0.4(マスク5L) 239.2 235.2 4
0.44(マスク6L) 268.12 263.72 4.4
0.5 311.5 306.5 5
0.6 383.8 377.8 6
0.8 528.4 520.4 8
1 673 663 10
と言うことで、100%酸素投与をしていても差は10Torrであり、肺胞気-動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)は10Torrぐらい違ってきますが、そもそもA-aDO2は高濃度酸素を投与すると大きくなるとされています(例えばこちらのサイトに書かれています)ので、10ぐらいの差は許容されるのかも知れません。また、A-aDO2だけが患者さんの呼吸状態を把握するデータではありませんので、別の評価項目も用いれば良いですし、血液ガスデータも酸素投与をした状態で採血したデータであると分かって解析すれば問題ありません。
また、PaCO2が例えば20Torrであれば、差は半分になり、100%酸素投与下でも差は5になります。PaCO2が80Torrであれば、差は20に増えますが、まあ、そんな状態の人は人工呼吸器をつけてPaCO2を下げて再評価するでしょう。
急変時や救急車搬入時にチアノーゼがあったり、SpO2が90%を切っているような状態なのに、血液ガスをとるまでは酸素を投与しないというのは意味がないばかりか、低酸素による害を及ぼしますので、是非必要なら血液ガスを採取する前でも酸素を投与しましょう。そして正確な肺胞気式で計算をしましょう(何しろ自動的に計算してくれるサイトがありますから)。
正確な吸入酸素濃度が分からないから、どうしても酸素投与はいけないというのであれば、素早く動脈血採血が出来るように腕を磨きましょう!
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