2021年6月1日火曜日

アニオンギャップは高アルブミン血症でも補正すべきか?

 代謝性アシドーシスがあるかどうかチェックするため、血液ガスを採取したら必ずアニオンギャップ(Anion gap;以下AG)を計算すべきとされています。

 日本やアメリカでは一般的にAG=Naー(CL+HCO3)ですが、ヨーロッパではカリウムを入れてAG=(Na+K)ー(CL+HCO3)とするらしいです。4程度の違いが出ますね。自動的に計算されるAGは後者のことが多い(検査の器械がドイツ製が多い気がします)ので注意が必要です。

 さて、AGはどうしてこんな式かというと、体内ではプラスとマイナスは同じ数だという考えから来ています。つまり陽イオンの数=陰イオンの数(電荷の数)だという前提です。全てのイオンを計測できないし、計測できるものでも少ししかないものは、測定できない陰イオン(unmesured anion;以下UA)と測定できない陽イオン(unmesured cation;UC)とします。すると以下のような式になります。陽イオン=陰イオンです。

測定できる陽イオン+UC=測定できる陰イオン+UA

 AG=測定できる陽イオンー測定できる陰イオンなので、AG=Naー(CL+HCO3)=UA−UCとなり、アニオンギャップは、測定できない陰イオン−測定できない陽イオンとも言えます。

 測定できない陰イオンの主なものはアルブミンだそうです。次いでリン酸、尿酸、硫酸だそうです。アルブミンは酸だとされてます(酸の定義としてHイオンを放出するものというのを採用)。pH7.4ではアルブミンは陰性電荷を帯びた側鎖の方が多いそうです。よって、アルブミンは全体として陰イオンです。UAであるアルブミンが低くなるとAGは低下し、アルブミンが上昇すればAGは上昇します。よって、低アルブミン血症の場合にはAGが上昇しているのを見逃す可能性があるため、AGをアルブミンで補正すべきとされています。以下のような式です。

補正AG=AG+2.5×(4−Alb)

 これはアルブミンが高い時にも行うべきなのでしょうか?今日の疑問はそれです。前置きが長かったですね。

 結論から書けば、同じ式を用いて補正します。つまり、アルブミンが高い場合、補正AGは低下するはずです。こちらの論文を読んでいただけば良いですが、要約を日本語訳しておきます。

 背景:低アルブミン血症はどのぐらいアニオンギャップを低下させるのかに関するデータはいくつか存在していて混乱している。アルブミンが1g/dL低下するとAGは1.5〜2.5mM/L低下するとされている。

 研究方法:血清アルブミン、総蛋白、電解質濃度を5328人の患者(年齢は1ヶ月から102歳)で測定した。ほとんどの患者(3750人、70%)はアルブミン値が正常であったが、1158人は3.4g/dL以下の低アルブミン血症で、420人は4.7g/dL以上の高アルブミン血症であった。血清アルブミンや総蛋白とアニオンギャップの関係を線形回帰法で解析した。

 結果:309人(27%)の低アルブミン血症患者はアニオンギャップが低下しており、257人(61%)の高アルブミン血症患者はアニオンギャップが上昇していた。全ての患者で血清アルブミンか総蛋白とアニオンギャップには有意な関連があったP< 0.001)。アルブミンとアニオンギャップはアルブミン1g/dLにつきアニオンギャップ2.3mMの低下の関係があった。この係数を用いて、アニオンギャップをアルブミンで補正可能である(補正AG=AG+2.3×(4−Alb))。低アルブミン、あるいは高アルブミン血症のある患者の44%でアニオンギャップの評価が補正後に変化した。

 結論:アニオンギャップが増えているか減っているかを考える前に、まずアニオンギャップをアルブミンで補正すべきである。我々のデータは、アルブミン値の変化の2.3倍を使用することを支持する。Figgeらは2.5倍を推奨しているが、どちらを用いてもほぼ同じ結果である。


 まあ、アルブミンが高い人は血液内科などでない限り滅多に遭遇しないと思われますので、疑問に思うことはないのかも知れません。

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