2021年6月13日日曜日

正確な肺胞気式でなくて良いのか?その3

  一度こだわるとしつこく追求したいタイプなので、その3です。


 肺胞気式は本当は少し複雑だと言うこと、PaCO2が高くなるほど、FIO2が高くなるほど簡易式と正式な肺胞気式との差は増えるのですが、A-aDO2の正常値に幅があるので、誤差はほとんど考慮する必要がなく、簡易式で問題ないことをその1その2で書きました。


 それでもごちゃごちゃ言う人がいた場合の理論武装です。その前に、そう言う人の意見をまず聞いてみましょう。

・酸素を投与しない状態でないと正確な呼吸状態が把握できない。

 酸素投与は人工呼吸器であれば正確な酸素濃度が分かります。しかし、経鼻で1L/分の酸素を流すと酸素濃度は24%程度と言われていますが、本当の吸入酸素濃度は分かりません。よって、FIO2が0.24として計算しても、本当は0.28だったりするかも知れません。A-aDO2やP/F比に大きな違いが出るかも知れません。これは別記事で計算してみましょう。


 しかし、、、、、、

・初回は酸素投与しなかったとして

 初回は酸素投与をせず、A-aDO2が例えば50Torrだったとしましょう。酸素化が悪いので酸素を投与します。次のA-aDO2は酸素投与をした状態での結果になります。同じく50Torrだった場合、どう評価するのでしょう?酸素を投与するとA-aDO2は高くなると言われていますので、良くなっていると考えるのでしょうか?それとも変わらないのか?もしかしたら悪くなっているのかも知れません。その次の3回目の採血と比べるのではないでしょうか。結局酸素を投与した状態での評価が必要ですよね。それとも採血する時には、酸素を止めて採血するのでしょうか?

・呼吸商は0.8か???

 計算式では、呼吸商を0.8としていますが、本当の呼吸商はその時の代謝によって異なります。こちらのWikipediaをご覧ください。今の呼吸商はどのぐらいか?を測定する方法は一般臨床では存在しないと思いますし、それをする必要もないでしょう。呼吸商に誤差がある以上、予想式によるPAO2にも誤差がもともとあります。

・大気圧は760Torrか?(TorrもmmHgも同じですが、血圧以外の圧はTorrを用いるそうです)

 PIO2=(760−47)×FIO2において、760Torrは一気圧ですが、測定した場所の正確な気圧は分かりません。多少の誤差があるでしょう(低気圧が通過中には少し低いのではないでしょうか)。当院では、血液ガス分析の器械から出てくる紙データにも、電子カルテに載ったデータにも気圧が書かれていますが、私はこの記事を書くまでは電子カルテにも載っているのは知りませんでした(偉そうなことを書いているのに、チェックしていなかったです)。
 私が勤める病院の標高は40m程度のようです。気温25度で海面が1気圧の時、病院の気圧は756Torrです(こちらのサイトで計算し、こちらのサイトでhPaをmmHgに変換しました)。電子カルテに載っているデータもほぼこの値でした。760Torrからの4Torrの低下は、ほぼ誤差の範囲ですが、松本市は標高600m程度のようで、気圧は710Torr程度になります。酸素投与なしの場合PAO2が10Torr程度、100%酸素投与であれば50Torr程度低下します。これらも考慮して解析しているでしょうか。

・体温は37度か?

 血液ガスは37度の状態で測定するようです。体温が40度ある人では飽和水蒸気圧の補正が必要ではないかと思われます。PIO2を計算する時の760−47の47は37度における飽和水蒸気圧です。体温36度では44.57Torr、38度では49.7Torr、40度であれば55.33Torrになります(こちらのサイトで計算し、こちらのサイトでhPaをTorrに変換しました)。これによっても誤差が出ます(が、大きな誤差ではないと思われます)。

・PAO2は本当か?
 PAO2は理論上の値です。本当の値は測定できませんし、たぶん、理論とは多少異なるでしょう。肺に入ってくる気体を固体のように仮定して計算していますが、固体ではありませんし、機能的残気量とかのことを考えると複雑すぎます。又これについては記事を書きます。


 上記のような理由により、肺胞気式は誤差をたくさん含んだ計算式です。酸素投与をした場合の誤差も許容範囲だと考えて良いでしょう。


 こちらの文献にも以下のように書かれています。

 We can discard the extra term in the full AGE for any usual clinical purpose; it is complicated and simply too small to make a difference.

 我々は、どんな臨床状況においても、正式な肺胞気式(AGE;alveolar gas equation)の余分な項目を破棄できる。正式な肺胞気式は複雑であり差は非常に小さいためである。


 低酸素は許容できるものではありません。必要であれば、是非血液ガスをとる前に酸素投与を開始しましょう。救急外来であれば、救急隊の方に酸素投与を開始してもらってから搬送してもらうのも手かも知れませんね。以前別の病院の救急外来の看護師さんから、そう言う先生(酸素投与は血液ガスをとってから!)がいて困っているのですが、どうしたら良いでしょうと質問されたのです。

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