呼吸管理において出てくる式の一つに肺胞気式というのがあります。肺胞内の酸素分圧は直接測定できないので、計算で予想するための式です。一般的に以下の通りです。
PAO2=PIO2−PACO2÷R=(760-47)×FIO2−PaCO2/0.8
PAO2:肺胞内酸素分圧(肺胞は英語でalveolar。気体は大文字なので、PAO2と表します)
PIO2:吸入気酸素分圧(吸入は英語でinspire)
PACO2:肺胞内二酸化炭素分圧(二酸化炭素は容易に肺胞と血液を移動しますので、PACO2とPaCO2は同じと考えます)
R:呼吸商(通常は0.8。詳細を知りたい方はこちら)
760:大気圧です。病院が存在する場所が高いところにあれば違う値になりますし、低気圧が通過中であれば異なるかも知れません。
47:37度における飽和水蒸気圧です。肺胞に入った気体は水蒸気で飽和されるため分圧がそれだけ低下します。
PaCO2:動脈血二酸化炭素分圧(動脈は英語でartery。液体は小文字のためPaCO2と表します)
通常の環境で酸素投与がされていなければ、PIO2=(760−47)×0.21=149.73=150Torrとします。よって、肺胞気式は以下のように書かれていることが多いです。
PAO2=150−PaCO2/0.8
何故150なのか?知らなかった方は、理解をして頂ければ幸いです。
しかし、正確な肺胞気式はもっと複雑です。求め方は前回の記事で紹介した論文に書かれていますが、あなたが肺胞気式オタクでない限り知らなくても良いです。計算も面倒なので自動的にやってもらいましょう。そして、正確な肺胞気式で計算すべきなのか、簡略式で良いのか?と言うと、結論から言えば簡略式で問題ありません。
こちらに、正式な肺胞気式の計算を簡単にすることができるサイトがありましたので、酸素投与をしない状態でPaCO2が変化したらPAO2はどうなるか計算してみました(正確には数値を入力しただけで自動的に計算してもらいました)。簡略式による値と比べてみます。単位は全てTorrです。mmHgでも同じですが、血圧以外の圧はTorrだと国際的に決まっているそうです。
(1)PaCO2 (2)正確な式のPAO2 (3)簡略式 (4)差(2)−(3)
30 113.805 112.23 1.575
35 107.8175 105.98 1.8375
40 101.83 99.73 2.1
45 95.8425 93.48 2.3625
50 89.855 87.23 2.625
60 77.88 74.73 3.15
70 65.905 62.23 3.675
80 53.93 49.73 4.2
90 41.955 37.23 4.725
PaCO2が上昇するにつれ、正確な式との差が大きくなりますが、それでも5は越えません。PAO2を求める意義は、PaO2との差(A-aDO2とかA-aO2 gradientとかP(A-a)O2とか色々な表現があります)を求めるためでしょう。この値の正常値は年齢×0.3以下というのが一番簡単です。こちらのサイトでは2.5+0.21×年齢とされています。80歳の人であれば、A-aDO2の正常値は前者であれば、24Torr以下、後者であれば19.3Torr以下で結構差があります。出典が明らかではありませんが、年齢の半分以下というのも見たことがあります。
よって、PAO2の5Torr程度の差は、ほとんど誤差の範囲と考えられ、正確な式で計算をする必要はないと思われます(酸素投与されていない場合ですが)。
次回の記事では、酸素投与がされている場合について考えてみましょう。