以下の患者さんは、前日の夕方から倒れたままで動けなかったそうです。ヘルパーさんに発見されて、救急搬送された90歳の男性の方の血液ガスです。
pH 7.432
PCO2 29.5 mmHg
以下PO2、HCO3、BEなどと続いていきますが、血液ガスが苦手だと言う理由の一つにデータが多すぎるということがあります。今回は上記の二つだけ見ましょう!簡単でしょ!
以前に別の所にも書きましたが、実際に測定している血液ガスデータは、この二つとPaO2の3つだけです。他は計算式なので見なくても大丈夫です!実際、BEは見てはいけないという人もいます。例えば、UpToDateの"Approach to the adult with metabolic alkalosis(代謝性アシドーシスのある成人患者へのアプローチ)"や"Simple and mixed acid base disorder(単純、混合性酸塩基平衡異常)"と言う文献には、BEとかbase excessと言う言葉が出てきません。
まずpHを見ます。7.4が正常と考えます。7.45まで正常なので、この人はpHは正常なのですが、やや高めですから、アルカローシスがあります。
次にPaCO2を見ます。呼吸性アルカローシスならばPaCO2は低下しているはずで、確かに低下しています。この人の呼吸数は22/分でした。
以前書いたように、PCO2が1低下するとpHは0.008上昇するはずです。この患者さんはPaCO2が40から10.5低下していますので、pHは0.084上昇するはずなので、pHは7.484のはずです。しかし、pHはそれよりも低いです。よって代謝性アシドーシスが合併していると考えられます。
呼吸性アルカローシスと呼吸性アシドーシスは同時に存在できませんが、代謝性アシドーシスと代謝性アルカローシス、呼吸の問題(呼吸性アシドーシスか呼吸性アルカローシスのどちらか)の3つは同時に存在可能です。
と言うことで、この患者さんは、呼吸性アルカローシスと代謝性アシドーシスがあることが、pHとPaCO2の二つを見るだけで分かりました。
実際のデータを示します。
HCO3 19.2 mmHg
BE -3.7 mmol/L
Anion Gap 17.7 mmol/L
乳酸 4.58 mmol/L
乳酸は2 mmol/L以下が正常値ですので、乳酸アシドーシスがありますし、Anion Gapも正常値の12 mmol/Lから5.7 mmol/L上昇していますね。半日以上飲み食いできず、循環血液量減少があったのと、軽度の横紋筋融解(CKが2000程度でした)があったことによるのでしょうか。呼吸数も早く、エコーで下大静脈がぺちゃんこだったことも分かりました。血液ガスデータ以外からも、呼吸性アルカローシスと代謝性アシドーシスを疑うことが出来ます。
もちろん詳細な評価のために、HCO3やBE等の値も必要ですが、「血液ガスはちょー苦手!!」と言う人には、「pHとPaCO2だけでも簡単に解析は出来るんだよ!」と言うことをお伝えしておきます。見なければならないデータは少ない方が良いですよね。
時々主張しているのですが、血液ガスで大事なことは、以下の二つです。心電図でも同じ事が言えそうですが。
・全部理解しようとしない。
・血液ガスのデータだけで患者さんの評価をしない。
<今回の極論ポイント>
・血液ガスなんて行わなくても患者さんの治療は出来る。
・血液ガスアレルギーを治すためには、たまには血液ガスから離れる事もありかも知れません。
・代謝を見たい時には、pHとPaCO2だけ見ましょう!
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