2017年11月18日土曜日

血液ガスを採取する注射器はガラスが理想的です(検査データの信頼性としては)

 血液ガスを採血する時、どんな注射器で行っていますか?今は専用に作られている注射器を使っている施設が多いと思います。しかし、私が研修医の頃はガラスの注射器で採血していました。採血が終わって針をぬくときに、ちょっとしたコツを知らないと、血液が針から出てきてしまいますので、素早く針をゴム栓に刺すと言うテクニックも必要でした。
 当時研修に行った大学病院では今と同じような専用の注射器で採血していました。その病院の先生が、「自分の病院へ帰ったら同じ事したらダメですよ」と教えてくれました。血液ガス分析を行うと、病院には約2000円の収入が入りますが、その専用の注射器が2000円ぐらいするので、もうけがなくなってしまうと言うことでした。
 きっと今は専用の注射器の値段が安くなっているのでしょうから、ガラスの注射器を使うと言うこともなくなりました。

 しかし、検査を行う場合の正確さという意味では、ガラスの方が良いんだと言うことをご存じですか?

 UpToDateの「Arterial blood gas」という文献に載っていましたのでご紹介します。

 Gas diffusion through the plastic syringe and consumption of oxygen by leukocytes is a potential source of error that results in a falsely low PaO2 when the sample is left for prolonged periods at room temperature. However, the clinical significance of this error is minimal if the sample is placed on ice and analyzed within 15minutes. While using a glass syringe will prevent gas diffusion, this solution is impractical.

 私の日本語訳です。

 プラスチックの注射器を介したガスの拡散や白血球による酸素の消費は、検体を室温に長時間放置した場合に、PO2が誤って低く測定されてしまう原因となり得る。しかし、検体を氷で冷やして、採血後15分以内に検査を行えば、このエラーの臨床的な影響は少ない。ガラスの注射器を使用すれば、ガスの拡散を防ぐことが出来るが、この方法は現実的ではない。


 そうなんです。プラスチックの容器はガスを出入りさせるみたいですね。少しの量でしょうが、空気中の酸素分圧が血液中の酸素分圧を変化させるようです。空気の酸素分圧は760×0.21で約160 mmHgです。例えば、患者さんが人工呼吸中で、酸素分圧が200 mmHgだったとすると、長時間放置しておくと、拡散によって200 mmHgと160 mmHgの間の値になると言うことです。逆に酸素投与がされていなくて、PaO2が65 mmHgだったとすると、誤って高いデータが出るかも知れないのです。

 昔勤めていた東北の病院でそのことを医局で話したら、ある歯科の先生が「そんなことあり得ない!」と言って私の意見を却下したことがありました。その歯科の先生はとても穏やかな先生でしたし、血液ガスなんて歯科医の専門じゃないだろうに、なんでそんな強く否定できるんだろう?と不思議に思ったものです。私もこの事については自信があったのですが、「すみませんでした。私の記憶違いかも知れません。」と言って引き下がりました(^^)。

 トリビアみたいな話ですが、データがおかしいなと思ったらガラスの注射器で再検査してみると役立つことがあるかも知れません。

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